第24話 成績向上作戦
私の自虐的な態度に怒り心頭の
――次の日。
「ごめんなさい!」
朝、教室の席に座った瞬間だった。
「昨日は勢いであんなこと言って、本当にごめんなさい。ノートを全部写せだなんて、横暴にもほどがありますよね? あなたの気持ちも考えずに……」
周りの生徒は、何度も頭を下げる
「あの、えっと、ぜ、全部は写せなくて……!」
気が動転していた私は、カバンの中から自分のノートを取り出して、
「え、ああ……」
「どうですか?」
私の問いに、
「うう、こんなことをさせてしまって、ごめんなさい! 私のノートは人に見せられるような代物じゃなくて」
「まだ途中までしか写せてないから、こんなんじゃ許してもらえないかもしれないけど、時間が無くて」
「いえ、そうじゃなくて……」
その時、朝礼のチャイムが鳴った。
「あっ、それと、
私は自分のノートを机の上に置き、カバンの中から
「あの、
今度は
「あ、来てくれましたね」
「う……」
放課後、私は東門で
「あの、どうしてもお礼がしたくて」
「ど、どういうことですか? 私はあなたに不当な怒りをぶつけてしまった。嫌われるならまだしも、お礼を言われるようなことは……」
「違うんです。帰ってノートを必死で写してたら、気付いたんです」
私は
「ととっ」
「私、あんなに真剣に怒られたこと、なかったなあって」
「そ、そうなんですか?」
「はい。先生は私に何も言ってくれませんでしたし、お父さんとお母さんは、私に『かわいい』と言って、甘やかしてくるんです」
「かわいい……」
「怒られたことが、ちょっと嬉しかったんです。だから、ありがとうございます」
「うう、私は自分勝手に感情をぶつけてしまっただけです。やめてください」
「そうですか? 私にとってはいい薬だったんだと思います。それと……」
「それと?」
「
「語り掛ける…… そうですね。私、ノートを取る時に、自分の言葉に直しちゃう癖があるんです。だから、人に見せられる代物ではないと」
「いえ、違うんですよ! その、
「面白い?」
「はい。授業よりずっと」
「うう、恥ずかしいです。でも、そう言っていただけると嬉しいものですね」
「なんか、
「頑張る?」
「はい。お父さんに頼んで、メガネを買ってもらいます。それでまた頑張ろうって」
「メガネ、嫌なんじゃなかったんですか?」
「嫌ですけど、これ以上
「やっぱり、嫌なんですね。私にも思い当たる節があります」
「反抗期ってやつですかね。どうしても生理的に受け付けられません」
「
「良い考えとは?」
ベンチから尋ねる私に、
「期末テストの範囲は二学期の最初からですよね? 今からメガネを買って授業に参加しても、途中からじゃわからないんじゃないですか?」
「そうかもしれません……」
「それならば、その……私のノートを本当に全部書き写してみませんか? もちろん、わからないところはお教えしますし、
「授業に追いつけるなら、願ってもないことです。嫌でもありません。そもそも私は、
「あっ、ごめんなさい。怠けてただなんて言って……」
「いえ、本当のことですから。
「うう、本当に申し訳ないです…… でも、決まりですね。私のノートを全部写す。これで
「あはは…… あ、でも私、授業中は何をしてればいいんですかね? 前と同じように、先生の言葉を写してみようかな」
「うーん、そうですねえ。先生の話を書き写すって、正直どうでした?」
「耳と手が忙しくて、結局ついていけなくて、途中で諦めちゃったんですよね。でも、根性でなんとかすれば」
「根性ですか…… その時のノートって見せてもらえますか?」
「ん? いいですよ」
私は自分のカバンからノートを取り出し、
「ありがとうございます」
「む~~~……」
「ど、どうしました?」
「
「そうですけど。当然じゃないんですか?」
「なるほど。努力は認めますが、それってかなり無茶をしてますよ」
「無茶ですか。でももっと努力すれば」
「実らない努力だってあるんですよ。こうやって見ると、文章が途中で切れていたり、肝心な部分が書かれていなかったり…… これでは勉強になりません」
「お、仰る通りです」
「そもそも、書き写すだけなんてストレスが溜まりませんか?」
「ストレスですか。まあ、
「ひ、
「あ~、言われてみればそうですね」
「書き写すだけだと、意味が理解できないまま話が流れてしまう。それなら、写さないで真剣に聴き入った方がためになるんじゃないでしょうか?」
「聴くだけですか。それじゃ手持無沙汰なのでは?」
「じゃあ、真剣に聴いても分からなかったことをメモするのはどうですか?」
「は、はあ」
「そして、そのノートは私に持ってきてください。私なりに回答を書いてお返しします」
「そんなことまでっ?」
「ええ、
「そんなに負担をかけるわけには…… なんでそこまでしてくれるんですか?」
「そ、それはあなたがかわい…… いえ、昨日の罪滅ぼしですよ。私のノートを貸して、
「なんか逆に悪い気がしますね。ありがたいですけど。うーん、あっ、でも!」
「なんですか?」
「私がノートを借りて帰ったら、
私は精一杯爽やかな声を出したつもりだった。その言葉に
「ふふふ、心配には及びません。私、家でノートは開きませんから。宿題も休み時間に済ませてます。復習は、寝る前に授業を思い出すだけですね」
「そんな能力が! 私には絶対にマネできません」
「そうですか? 同じ高校に通ってるんですから、能力は私に劣ってないはずですよ」
「そ、そうですかね」
ポリポリと頭をかく私に、
「今日はこれだけですけど、明日には全部持ってきます」
「ああっ、はい、私も授業が始まる前にはお返ししますのでっ!」
「全部持ってくるのは重いでしょうから、その日授業がある分だけで構いませんよ」
「わかりました!」
こうして私は、二学期の期末テストに向けて動き始めた。
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