第19話 AIの主張
(ここまで見分けがつかないなんて……父は今頃笑っているのでしょうね)
7月初旬、
「どうだ、これはAI研究が実用レベルに達した証明と言えるだろう? 他の活動への利用も期待できるな」
「確かに順調ですが、まだ検証は十分とは言えません。もう少し様子を見ましょう」
「もちろんだ。慎重に慎重を重ねて行こう」
別の幹部が不安気に口を開いた。
「
「なんだ、言ってみろ」
「研究機関の報告によると、近頃、神主AIの演算負荷が高まりすぎて、運用に支障をきたす恐れがあると」
「そうか、ではその解決のために、予算は惜しまないでくれ!」
「はっ、承知しました!」
AIの記憶は日に日に増えてゆく。人間の脳は、忘れることで記憶を最適化しているが、機械は容量が許す限り情報を蓄積することができる。そして、記憶が増えた分だけ、データ処理の負荷が高まってゆくのだ。そのため、熱暴走への対策が打たれることになった。
「こんにちは、
「お待ちしておりました」
株式会社
その後、神主AIの動作は安定し、
「この配信をご覧になっている皆さんに、お伝えすることがあります。私は近頃ずっと、体調に不安を感じています。朝起きる度に力を失ってゆくのを感じます。もう長くはないのでしょう。
そこで、私の役目を、より精密にこなすことのできる者に引き継ぐことにしました。それは機械、AIです。驚いた方もいらっしゃることでしょう。機械には感情がありません。誰も贔屓することもありません。全て平等に判断することができます。また、人間とは扱える情報量の桁が違います。
皆さまの活動による報酬や、募金で
AIによる予測や判断は、望ましい結果を生まないこともあるでしょう。しかし、人間の不安定な心よりは適切に答えを導き出せる。私はそう考えています」
「うまくいっているな。視聴者のコメントに戸惑いは見えるが、好意的な反応が多い」
「そして、私の身体と同様、この世界もまた、日に日に滅びへと近付いている。そのように感じています。この世界の富には限りがあります。今はそれを一部の者が不当に独占している状態です。ひとときの幸福を得るために。その欲望は留まることを知らないでしょう」
話の方向性がズレてきたことに気付く
「おい、神主AIの様子がおかしい。これはどうしたことだ?」
幹部が研究施設に問い合わせ、
「原因不明とのことです。リハーサルでは問題なかったと」
「止めるべきか、いや、今止めてしまったら不自然だ。話が終わるのを待つしかないな」
「はい、動作に異常がみられない間は様子を見ましょう」
神主AIの遺言は尚も続いた。
「富の偏り、それは人に不幸を与えます。しかし、富を平等に分け合ったとしても、人は皆、物足りなさを感じることでしょう。仮に、皆が幸福になろうとしたら、どこかで帳尻を合わせなければなりません。そして、いくら抵抗したところで、この世界はいつか必ず滅びます」
神主AIは終末思想に囚われた人間のように言葉を紡いでゆく。その声と表情は、感情を持つ人間と遜色のないものだったのだ。彼は絶望的な未来を語りつくしたあと、こう締めくくった。
「そこで、
この神主AIの発言は、
「こんな残酷な話があるか! ……しかし、理屈は通っている」
「ど、どうしましょう?」
狼狽えて尋ねる幹部に、
「私の死後、会員の皆さまには、AIの判断が平等で最善だと信じて活動していただきます。この世界から少しでも不幸を取り除く、それがあなたたちの使命です。
今日の私の言葉を受け入れていただけるなら、私も安心して旅立つことができます。あとは、あなたたちの心にかかっています。長くなりましたが、これで今週の『神主チャンネル』の配信は終わりです。ご視聴ありがとうございました」
幹部は震える手で配信機材を止めながら、
「これで、本当に良かったのでしょうか?」
「間違ったことは言っていない。あとは、会員たちの受け取り方次第だ」
その声は震えていた。
こうして、神主の遺言、改め、AIの主張は、
疑問を持つ者たち。
「AIに判断を委ねるなど、本当に人類のためになるのだろうか?」
事態を重く受け止め、更に結束を固める者たち。
「神主の意志を継ぐのだ! 少しでもこの世界から不幸を取り除くんだ!」
過激な思想に走る者たち。
「富を独占する者たちを許すな! まずは奴らの違法性を明らかにし、付け入る隙があれば容赦するな! 訴訟するんだ!」
消沈する者たち。
「もうこの世界は終わりだ。我々は自己犠牲の精神を貫こう」
しかし、1週間もすると、会員たちの意見はひとつにまとまっていった。
「神主は体調の不安から、非常に悲観的になられている、跡を継ぐ者がAIという、人を信じていない様子からもそれが伺える。跡を継ぐ者は我々、
会員たちは神主に相応しい人物を選出することにした。その白羽の矢は当然、神主の息子である
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