第18話 神主を継ぐ者
「そうか、そう言ってくれるか。ならばもう、私に思い残すことはない。ゴホッ! ゴホッ! ……話し過ぎたようだな。少し疲れた。すまないが、眠らせてくれないか?」
「はい、おじいさま……」
それから、
「皆に集まってもらったのは他でもない。ここにいる皆が知っているように、私の父、
幹部のひとりがすぐに反応した。
「
「うむ、それが正しいだろう。しかし、組織にとって望ましい結果をもたらすとは限らない。
別の幹部が、椅子から上半身を乗り出して、割って入った。
「そ、それは、
「私だって神職の資格は持っている。形式上の神主になるのは何も問題が無い。しかし、
「何を弱気なことを、他の人間ならばいざ知らず、
「それを言わないでくれ。私がそうしてこれたのも、父のカリスマあってのこと。それに、父だって自ら納得した上で、自分の言葉で会員たちに語り掛けてくれていた。そう、今まではそれでよかったのだ。しかし、私はこれを契機に、
「と、言いますと?」
「
「待ってください、それはなりません!」
ひときわ清楚で凛々しい声が上がる。その声の主は
「
「そのようなこと、いくらお父さまが
「神主は
「人を導くのは、人の意志でなくてもいいと言うのですか?」
「いや、むしろ人にはできないことだ。情動に左右される人間よりも、機械の方が確固たる意志を突き通すことができる」
「ですが、いつかおじいさまの死を隠し通せなくなる時が来ます。その時はどうするおつもりですか?」
「別に永遠に隠しておく訳ではない。AIが神主を演じきれると判断した時点で、AIには神主、
父は死後も会員たちの心の中で生き続ける。多くの人々はこれまで、神を信じることで心を守ってきた。これからは、父が
「正気ですか? 神を作るだなんて……!」
「何を言う? 神は皆、人が作ったものだ。必要だから作ったんだ。私はそれと同じことをするだけだ。永遠に生き続ける理想と、人に道を指し示す機械が、私たちの未来を明るく照らしてくれるはずだ」
「……そうですか、もう何も申し上げることはありません。お父さまがそう仰るなら、それを証明して見せてください。ただし、それで起きることによっては、私も動きます」
「ああ、それで良い。早速、準備に取り掛かるぞ!」
こうして、
神主は、動画サイト「
「夏が近付いてきました。油断していると熱中症になる恐れがあります。暑さを感じたら水分補給と、冷房の使用を検討してください。皆が心穏やかに過ごされることを切に願います。さて、来週の天気ですが……」
視聴者のコメントにも即座に反応する神主。それがAIにすり替わっているなどと考える者はいなかった。何週も放送を続けるうちに、時折天気予報を挟んだりしたものの、AIは一般視聴者のみならず、熱心な
事の行方を見守っていた
(ここまで見分けがつかないなんて……父は今頃笑っているのでしょうね)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます