第10話 共同作業
「この張り紙、あなたがやったんですね?」
道端でばったりと再会した
「え、えっと、それは、書いたと言えば書いたんですが、意図して書いたものでは……ああっ、どうしよ」
私の
「はぁ、そうなんですね。やはり、あなたの言葉には不思議な力があると」
「いや、私の言葉のせいで未確認生物が出たって話ですか? そんなことがあるはずが……」
「いえ、そうではありません。そもそもさっきから言ってるように……と」
「ほへ?」
「一旦部屋に戻りますか。外は暑いですからね」
「ご、ごめんなさい」
「謝るってことは罪を認めるってことですか?」
私を真っ直ぐ見つめる
「えーっと、まさか私のせいではないと思いますが、少しだけ不安を煽っちゃったかな? って。だって、私のせいで未確認生物が出現するなんてあり得ないですよ」
「はい」
「ふえ?」
「その通りです。未確認生物が出現するなんてあり得ません」
「え、ええ」
「未確認生物は存在しない。だけど、人の心が幻を見せることはあります」
「そうきましたか」
「あなたの言葉には力がある。不安を掻き立て、人々から正常な認識力を奪ったのでしょう」
「えー……」
「なんですか、その不満げな顔は」
「私も
「そうとしか考えられないでしょう。ペット被害もあるようですが、偶然怪我したのを見て、居もしない未確認生物に濡れ衣を着せただけですよ」
「そうですか……うん、そうですよね。ではこの事件は解決ということで、いいんですかね?」
「いいわけがありません! 人を惑わせるような噂は、
「ど、どうやって?」
「噂に関わる全ての張り紙を剥がせばいいのです!」
「そ、そんな強引な」
「強引でも力ずくでもいいんです。人の心を惑わす
「そうなんですか? でも、全部剥がすのは大変ですよ。この街中に貼ってありますから」
「何、
「はひ?」
「あなたも一緒にやるんですよ」
「え、えーっっ!」
「しかし、この
「私がやること前提なんですね……」
「夕方まで待ちましょう。私はそれまでに準備を整えますね」
そう言うと
「ふ~ん、あの夢の国にそんな都市伝説が……」
そうしているうちに、自分の住む街の噂に辿り着く。
「なるほど~、逃げたペット説か……って……大変!」
「ただいま戻りましたっ」
「わあっ!」
「そんなに驚かなくても。
「ありがとうございます。それよりっ、
私がパソコンのモニターを指さすと、
「人間が、襲われたですって!?」
「そうです。相変わらず未確認生物の写真はないですけど。こんなことになるなんて」
画面には切られた腕から血を流している女性が映っていた。
「これは、急がなければなりませんね」
シール剥がし用のヘラを強く握りしめる
「私も
「それも気の迷いによる行動でしょう。あの張り紙を見る度にサブリミナル効果が発生して、
「も、もう日も暮れてきたことですし、早速実行しますか」
私は
「はい。ですが、くれぐれも体調には気を付けましょう」
「しかし、本当にたくさん貼ってありますねえ。私が言うのもなんですが、勝手に貼っていいものなんでしょうか? というか剥がすのも……」
「……よし」
「しんにゅーきんしのひょーしきー♪ ふったごーのスミスのトレーナー♪ デイリーニュースのひょおっしー♪」
作業に集中した私は、自然と歌を口ずさんでいた。歌い続けていると、
「くすくすっ、なんですか、その歌」
「あ、ごめんなさい。歌うのが好きで」
「いえ、あなたのそういうところ、好きですよ」
「は、恥ずかしいっっ」
「でも、あなたは普段、なんだかおどおどしていますよね。それって、結構損してると思います。人に警戒されちゃいますよ?」
「そうなんですか?」
「そうです。人は怯えてる人を見ると不安になるものです。それに比べて、今のあなたはとても安心できます」
「安心……」
「はい、なにより、あなたが笑顔だと、こちらも笑顔になれます」
「笑顔ですか……」
「はい」
そして、太陽が沈む頃、街中の貼り紙を剥がした私たちは、マンションの前に戻ってきた。目の前には例の電柱。最後に残ったのは――
「では、あなたが貼ったこれを剥がせば終わりですね」
「はい、でもなんで、最初に剥がさなかったんですか?」
「いえ、この張り紙自体には、それほど害がないと思いまして」
しかし、
「じゃあ、私が剥がしちゃいますね。自分の責任ですので」
「……ええ」
私が張り紙のマスキングテープを剥がそうとしたその時――
「何してるんだね、君たち!」
「あ、いえ」
声をかけてきたのは警官だった。彼は懐中電灯の光を私の顔に当てる。
「まぶっ」
「ちょっと、やめてください!」
「それはこっちのセリフだよ。何やってるんだね? 街中の張り紙が剥がされてると思ったら、君たちだったのかね」
「え、張り紙を剥がした犯人を捜してたんですか?」
私が
「いや、剥がすのを
「それって、ネットに出てた……」
「うむ、この街のことが噂になって、ネットで見た奴が面白半分でやってるんじゃないかと踏んでるんだ。愉快犯だよ」
「なるほど、確かにその線はありそうですね。盲点でした」
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