第9話 夏の1ページ
「大丈夫ですか?」
視界に入ってきて私を見下ろしていたのは、ジョギング姿のままの
「ごめんなさい。これ、熱中症ってやつですかね?」
「そうでしょう。ともかく今はこれを飲んでください。勝手に冷房を付けさせてもらいましたけど、良かったですよね?」
「ありがとうございます。いただきます」
「ゆっくり、すこしずーつ飲んでくださいね、それと、謝るのは私の方です。
「いえ、大丈夫です」
私は仰向けのまま上体を少し起こし、ラッコのようなポーズで、こくこくとスポーツドリンクを喉に流し込む。
「こほっ、こほっ!」
「ほら、もっとゆっくり。頭も冷やしましょう」
「ありがとうございます。助かりました」
「ですから、これは私のせいであって」
「いえ、
「そんな……」
「おしぼり、暖かくなってきちゃいました。自分で換えますね」
私はメガネをかけて立ち上がる。そして、何の気なしに
「しかし、なんというか、その恰好、よく見ると目のやり場に困りますね」
「え?」
「えっと、その、そんな恰好して外をうろついてたら、襲われちゃうんじゃないかって」
「ふふっ、変なこと言うんですねっ。大丈夫ですよ、私は」
すると、
「わわっ!」
バランスを崩した私が尻餅をつくと、
「どうですか? 私、ちょっと武術をかじってるんですよ。今のは寸止めですが、瞬時に4発くらいは叩き込めますよっ」
「よ、よんはつ? パンチと、キックと……」
「パンチ2回に上段回し蹴り、それから上段後ろ回し蹴りです」
「すごい、瞬く間っていうのはさっきみたいなのを言うんですね」
尻餅をついたまま見上げる私に、
「大丈夫ですか? 立てます?」
「いえ、その、えーっと」
私は目を逸らしてしまった。なぜならば――
「どうしたんですか?」
「その、谷間が気になって……」
「これですか?」
「ふふ、やっぱり変な人ですね。女の子同士、なんてことないじゃないですか」
「いえ、自分にはないものなので……」
「そうなんですか?」
次の瞬間、私は自分の胸にかつてない感触を覚えた。
「って、なにしてるんですかっ!」
「あるじゃないですか。おっぱい。確かに控えめですけれども……」
「あ、んっ、はぁっ……や、やめてくださいっ」
私は尻餅をついたまま後ずさり、背中を壁にぶつける。
「ふふっ、変な気持ちにさせちゃいました?」
「い、いえ、こんなこと、初めてでしたので。ただちょっと、ドキドキして……」
「夜眠れなくなっちゃいますかね?」
「うう、そしたら、頭に浮かんだことをタダノートに書いて落ち着きますっ」
「タダノート? ああ、私が差し上げたノート、使ってくださってるんですか?」
「はい、そういえば、あなたに頂いたんでしたね」
私は、それが
「嬉しいですっ。で、どんなことを書いてるんですか? もしかして、えっちなことなんですか?」
「ひいっ、やめてくださいっ! 大したことは書いてませんからっ!」
私は立ち上がり、手を伸ばして駆け寄ろうとする。が、ふらついて膝をついてしまう。
「あははっ、ちゃんと日付が書いてあるっ。それからそれから、言葉とその説明。辞書みたいですね! 面白いですっ」
「それは、頭に浮かんだ変な言葉を、って、やめてくださいっ!」
「ふふん、私の言いつけをちゃんと守ってるか確認してるだけですよ。言いつけ、はて、私、何を言いつけてたんでしたっけ?」
「そ、それは……」
その時、
「これって、ペットで何か嫌なことがあったんですね。なるほど……あれ?」
「何か変ですか?」
「いえ、このページだけ切り取られてるから、どうしたのかと思って。そんなに恥ずかしいこと書いたんですか?」
「え、あ!」
私は大変なことを思い出した。
「そのページはっ!」
私の声を聴き終わる前に、何かに気付いた
「はぁ、はぁ、待ってくださいっ! それには訳があって……」
「やっぱり、ページの破れ方が張り紙と一致してます。それに、前のページの日付は、未確認生物の噂が始まる少し前。ということは……」
「この張り紙、あなたがやったんですね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます