第6話
ぼくがぼくを名乗ることを快く思わない人間は、たぶんまだどこかにいる。「わたし」が「わたし」と名乗るのはよくて、ぼくと名乗るのはよくないらしい。それは異性を名乗ること、自分を偽ることに通ずると考えているのかもしれない。そういう人間のことは、いっそ羨ましいとも思う。自分の生まれたまま、他人に与えられたままの役割が、ずっと自分にぴったりとはまった時間を過ごしてきたのだろう。
だとしても、他人が名乗ることにどうして口を出せると思うのだろう。他人の名前を蔑ろにすることと同じではないのか。お前の名前は気に入らない、だからこうしろ。そう言うこととあまり変わらないのではないか。まあ、そう言われて快いことはなくても、さして何も思わない人間もいるだろう。自分の名前が嫌いだったりするなら。名前は簡単に変えられはしないのだけれど。
ともかく、気持ち悪かろうが気取っていようが、ぼくはぼくと名乗りたい。せめてぼくに残された言葉という手段の中では、ぼくは透明でありたい。
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