第3.5話

 照りつける日差しの下では、ぼくは水の中でしか生きられない気がした。

 実際はそんなことはなく、水の中に居続ければ溺れて死んでしまう。人間の体は、水より比重が軽いから浮く。青と赤に塗装されたプールの底は、漣の模様を白く描かれて、水面でしぶきを上げるぼくたちをじっと物も言わずに見ていた。ぼくたちもまたその青と赤を見つめて、水面で泳ぎ続けた。太陽から届く強烈な熱も、地上でうるさく鳴く蝉の声も、水の中ではしんと静まり返る。ただぼくたち一人一人だけが、水の中でもがいていた。そのひんやりとした静寂は、夏の騒々しさや煩わしさとは無縁の世界だった。息が苦しくなって地上に戻ると、途端に浮力の支えがなくなって体は重くなり、吸い込む空気は生ぬるくなり、熱い地面が足の裏を焦がして、蝉の声が耳をつんざいた。

 今ぼくは、水の中にいることがほとんどなくなってしまった。あのうつくしい漣の模様は、たぶん変わらずにそこにいるのに。蝉の声はうるさい。テレビからは聞きたくもない情報が音となって耳に入ってくる。うるさい。うるさい。どうして。気分が悪くなる。熱が体にこもる。皮膚をかきむしる。赤い斑点が浮かぶ。そのテレビ、プールに投げ込んでやろうか。そうしたらその煩わしい音は聞こえなくなる。何もかも、水の静寂の中に沈んでしまえばいいのに。そんな時でも、水は変わらずひどく透明で、沈んだものの上にただ静かに、漣の模様を白く揺らめかせるのだろう。

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