妹が寝取った婚約者が実は影武者だった件について 〜本当の婚約者は私を溺愛してやみません〜 5

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 私はアルフォネア。ユルスグレーン侯爵家の次女。ステファニーお姉様の妹。


 お姉様は清楚で綺麗だとは思うけれど、とっても地味なの。そしてお説教くさくてオバサンみたい。私はそんなお姉様を見て育ってきた。だから、私はお姉様みたいには絶対にならないと決めたの。


 私は綺麗で愛らしいお姫様のようになりたいの。そうすれば、みんなが私を見てくれる。私のことを愛してくれる。私に優しくしてくれる。


「王妃様は私のこととっても気に入ってくれたみたい。この国のお姫様みたいだなんて、私のことを認めてくれたのね。この国の姫として相応しいって。すぐにでも王宮に迎え入れたいってことでしょう?」


 私は嬉しくなって鏡の前で自分の顔を見ながら笑った。


 嬉しくて嬉しくて仕方が無い。


 だって、この国の女性の頂点たる王妃様に認めてもらえたのだ。この国のお姫様だって。


 それって私がとっても可愛くて、綺麗で、お姫様として相応しいってことよね。つまり、私がルーンファクト様の妃に相応しいってことよね。王妃様はお姉様じゃなくて私を必要としてくれている。


 だから、お父様とお母様に王妃様に認められたってことを伝えたの。でも、お父様とお母様は喜んでくれなかった。


 どうしてかわからないけれど、顔色を曇らせてしまった。そして何度も私に聞くの。


「それは本当のことなの?」って。


 私が嘘をつくわけないのに。


 私が嘘をついたことなんて一度もないのに。


 どうして、そんなことを言うのかしら?お姉様がお父様とお母様に嘘でもついたのかしら?お姉様がルーンファクト様との婚約を破棄されたから、私にやつあたりしているのかしら?


 でも、お姉様はルーンファクト様の婚約者に相応しくないんだもの。仕方がないことでしょう。


 お父様もお母様も私のように貴族や平民のお手本となれるような女性こそがルーンファクト様の婚約者に相応しいと言っていたもの。それって、私のことでしょ。


 お姉様と比べたら私は全てにおいて秀でているもの。


 お姉様は私のように愛らしくないし。お姉様は綺麗だけど、私の方がもっと綺麗だし、スタイルだって私の方が良いわ。


 性格だって、お姉様はオバサンっぽいけど私はお姫様みたいだもの。


 服装だって、可愛らしく着飾るのを忘れていないわ。流行に敏感なの。トレンドは必ず取り入れているのよ。アクセサリーだって有名デザイナーのものを買っているわ。皆の憧れのなのよ。


 お父様もお母様も私が服やアクセサリーを購入するときに「身の丈に合ったものを選びなさい。」「良く考えてから物を買いなさい。」って言ってくるから、ちゃんとに私に相応しい最高級品を購入しているの。


 お姉様は違うわ。いつも買うのは最低限のアクセサリー。値段だってそんなに高いものは買わないわ。侯爵家に相応しい買い物じゃないと思うのよね。


 侯爵家の人間なのだから、どんなときも一流のものを、最高級のものを身につけなければいけないのに、お姉様はそんなこともわかっていない。


 なのに、なぜかお父様もお母様も最近私に笑いかけてくれなくなったの。


 最近、お父様の視線もお母様の視線もどこか冷めている。


 なぁぜ?


 私は侯爵家のお姫様っぽく生活しているはずよ。それに、王妃様にも認められたのよ。


 だから、お父様、お母様。もっと喜んでくれていいのよ?どうして、喜んでくれないの?


 どうして?



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「ステファニーお嬢様。ルーンファクト殿下がいらっしゃいました。」


「えっ?ルーンファクト様が……?」


 翌日侍女のニコルがルーンファクト様の来訪を告げた。


 昨日あったばかりだというのに、なんだろうかと不思議に思う。ああ、でも昨日はアルフォネアのお陰でほとんど王妃様ともルーンファクト様とも話せなかったな、と思い至る。


 だが、あれは我が家の失態だ。我が家から王家に対して謝罪に伺うのが普通のことだ。今、お父様とお母様が王家に謝罪に伺うために王様にアポイントメントを取っている最中だと記憶している。


 もしかして、アルフォネアのことがあるから、婚約を破棄したいということだろうか。アルフォネアの失態は王家にとって侮辱も良いところだった。アルフォネアの姉である私は王家に相応しくないと判断されてもおかしくはないだろう。


「応接室にいらっしゃっています。」


「私に会いに来たのかしら?それとも、お父様に?」


「ステファニー様にお会いに来たとのことです。」


 婚約破棄なら、まずはお父様に会うだろう。ということは別の要件なのかもしれない。

 私は少しだけホッとした。


 でも、アルフォネアのことがあるので、何を言われるのかと思わず身構えてしまう。


 ルーンファクト様がお優しいのは理解してはいるけれど、それとこれは別だ。


「わかりました。すぐに参ります。」


 私は、ルーンファクト様に会うために身だしなみを整えて応接室に向かった。








「やあ、ステファニー嬢。会いたかったよ。」


 応接室で私が目にしたのは両手いっぱいに赤い薔薇の花を抱えているルーンファクト様のそっくりさんだった。


「……ルーンファクト様のそっくりさん。出直してくるってこういうことだったのかしら?」


 応接室で待っていたのは、ルーンファクト様ではなくてルーンファクト様のそっくりさんだった。


「……そんなにあらかさまにガッカリしないでくれるかな?私はとても悲しいよ。」


 ルーンファクト様のそっくりさんは芝居がかったような声音でそう言って、ソファーにヨヨヨッとしな垂れかかった。


「申し訳ございません。本物のルーンファクト様にお会いできるかと思っておりましたもので……。」


 私はルーンファクト様のそっくりさんに謝罪して部屋の中に入る。そして、ルーンファクト様のそっくりさんの目の前のソファーに座った。


「ようこそお越しくださいました。本日は私にご用とのことで、どういった要件でしょうか?」


 正直ルーンファクト様のそっくりさんとはあまり話したくない。


「まあまあ。そう他人行儀にしないでほしいな。私たちは婚約者同士じゃないか。」


 ルーンファクト様のそっくりさんはそう言って笑みを見せた。さっきまでの泣きまねはどこに行ったのだろうか。


「私はルーンファクト様と婚約しているのです。ルーンファクト様のそっくりさんと婚約しているわけではございませんわ。」


「んーでも、周りは私がルーンファクトじゃないとは思わないでしょ?見た目で判断できるやつほとんどいないよ?つまり、私がステファニー嬢と仲良くすればするほど、本物のルーンファクトとステファニー嬢は誰も付け入る隙がないほどに仲が良いって周りが思うわけ。私とは仲良くしておく方が利点は多いと思うけどね?」


 確かに、ルーンファクト様のそっくりさんが言う事にも一理ある。見た目はルーンファクト様なのだ。邪険に扱っていては、周りが要らぬ誤解をするだろう。


「……でも、私が最初にルーンファクト様のそっくりさんにお会いしたときは、私に対して友好的ではありませんでしたわよね?それどころか、アルフォネアと関係を持っていたじゃないの。」


「ああー。それは、さあ。ほら、オレってルーンファクトにすっごくそっくりだろ?だからさ、ストレスもたまるわけ。オレのこと皆がルーンファクト様っていうんだ。本当のオレはどこにいるんだよって感じで。それにさ、オレってルーンファクトに似すぎているから王宮の連中もオレのことルーンファクトの影武者って扱いでさ。仕事中もルーンファクトって呼ばれるし、休日に街を歩いていてもルーンファクト様って言われるし。ほんと、オレってなに?って感じでストレスたまりまくるんだよ。だから、ルーンファクトに少し仕返ししたいなぁ~って思ってさ。アルフォネアに近づいたってわけ。」


 ルーンファクト様のそっくりさんは、少しだけ困ったように微笑みながら胸の内を吐露してきた。


 っていうか、もしかして私って本音を吐露してもらえるくらいにルーンファクト様のそっくりさん信頼されてしまっているのかしら?


「……そう。それは確かにストレスが溜まるわね。」


「だろう!だからさ、ちょっと意趣返しってやつをだな……。ほら、ルーンファクトってあんたに夢中じゃん?王と王妃様にあんたを婚約者にしたいって説得したのもルーンファクトなんだよ。そんだけ夢中になっているあんたじゃなくて、妹の方とオレが仲良くなったら面白い噂が流れるだろ?ちょっと困らせて婚約者に嫌われてしまえって思ったわけ。可愛いいたずらでしょ?」


 ルーンファクト様のそっくりさんに同調したら、さらにまくし立ててきた。


「人を困らせるのは良くないと思うわ。ねえ、あなたのことそっくりさんって呼ぶのもおかしいと思うのよ。呼びづらいし。もしよかったら名前を教えてくれるかしら?」


 私はルーンファクト様のそっくりさんに名前を尋ねた。


 すると、ルーンファクト様のそっくりさんは表情をぱぁあああああっと明るくして名前を教えてくれた。


「オレの本当の名前はファルコンって言うんだ。でも、ルーンファクトにはファントムって呼ばれてるけどな。なんとかっていう劇の主人公にオレが似てるんだとか。ああ、ファルコンって呼び辛かったらファルって呼んでくれていいよ。二人きりのときは、ファルって呼んでもらえると嬉しい。」


「わかったわ。ファルって呼ばせてもらうわね。」


「うん!」


 私がルーンファクト様のそっくりさんをファルと呼ぶと、今まで以上に嬉しそうにファルは笑った。


「ファル……ファルは、アルフォネアに本気なの?」


「う~ん。アルフォネアはとても魅力的な子だよね。まあ、遊び相手として、だけどね?」


 ファルはちょっと考え込んだ後に、アルフォネアは遊び相手だと言った。


「遊び相手として関係を持つにはちょっと危険な気がするけど。アルフォネアは貴族の令嬢なのよ。アルフォネアの結婚相手がいなくなってしまうわ。」


 アルフォネアにはいつも嫌な目に合わされてきた。でも、アルフォネアはそれでも妹なのだ。


「……今までずっと嫌な目にあってきたんだろう?アルフォネアに。それなのに、アルフォネアに幸せになってほしいの?」


「当たり前ですわ。家族だもの。」


「婚約者をとられてもそう言えるのかな?」


「それは……許せないけど、でも……。」


 ファルは随分と意地悪な質問をする。私はファルの質問には答えられそうにない。


「君はアルフォネアに酷いことをされてきたのに、許せるなんて心が広いね。」


「確かに、アルフォネアには嫌な思いをたくさんさせられたわ。でも、それでも、私は……。」


「……ふっ。まあ、いいや。オレは君を困らせたいわけじゃないんだ。」


 私が言い淀んでいると、ファルはふっと笑った。


「じゃあ、どうしたいのよ?」


 私はファルには困らされてばかりなような気がする。


「んー。ステファニーには笑っててほしい、かな?」


 そう言ってファルは耳を赤くしながら下をむいた。



 ……なに、この反応??



 思いもしないファルの反応に私は思わず何も言えなくなってしまった。

 

 ファルには嫌われているとばかり思ったのに。さんざん馬鹿にされたし。なのに、なんなのこの反応は……?


 




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