妹が寝取った婚約者が実は影武者だった件について 〜本当の婚約者は私を溺愛してやみません〜

妹が寝取った婚約者が実は影武者だった件について 〜本当の婚約者は私を溺愛してやみません〜 1


「ああっ……ルーンファクトさまぁ……。」


 妹であるアルフォネアがルーンファクト様に抱きついている。

 ルーンファクト様は何も言わずに、無表情のまま東屋の椅子に座り上にまたがっている妹のアルフォネアを抱きしめ返す。


「ああっ……いいですのぉ……。ルーンファクトさまぁ……もっと……もっと動いてくださいましっ……。」


 アルフォネアははしたなくも淫らな声を上げ、ルーンファクト様におねだりをしている。


「……。」


 だが、ルーンファクト様は何も言わない。


「ああっ!!!もっとぉ……もっとぉ……。」


 ただ、アルフォネアの声が更に大きくなったので、きっとルーンファクト様は腰の動きを強くしたのだろう。


 私は妹であるアルフォネアと、私の婚約者であるルーンファクト様の情事を見ながら、ため息をついた。


 アルフォネアが私の物を欲しがるのは今に始まったことではない。小さい頃からなぜだかアルフォネアは私のものを欲しがる。

 そして、妹に甘い私の両親はそれを注意することもない。

 そんなアルフォネアが今度欲しがったのは、私の婚約者でありこのアルスレーン王国の第一王子であるルーンファクト様だ。

 ルーンファクト様は、金髪碧眼の美青年で国中の女性の憧れでもある。

 でも、ルーンファクト様は女性関係はしっかりしていて今まで浮ついた噂もなかった。それなのに、アルフォネアと屋敷の東屋で愛を交わしているなんて……。


「ルーンファクト様……。」


 ずっと我慢してきた。アルフォネアに何を取られても我慢してきた。

 でも、今回ばかりは……。



☆☆☆☆☆




 ルーンファクト様のことは好ましく思っていた。

 この人が婚約者でよかったと思っていた。

 ルーンファクト様は誠実で、優しくて見目も良い。

 だから、この婚約で私は幸せになれると思っていたのに、またしてもアルフォネアに取られてしまうだなんて……。

 でも、一時の気の迷いかもしれない。誠実なルーンファクト様が、まさかアルフォネアと関係を持つだなんて、私には信じられなかった。

 もしルーンファクト様がアルフォネアと関係を持つにしても、ちゃんとに私との婚約を破棄してからだと思っていた。

 だから、東屋で見た光景はひどく私を傷つけた。




☆☆☆☆☆




「お父様、お母様。私はルーンファクト様との婚約を解消したく思います。そして私の代わりにルーンファクト様とアルフォネアの婚約を結んでくださいませ。」

 

 ルーンファクト様を妹のアルフォネアに取られたと思った私はすぐに行動にでた。

 お父様とお母様に婚約の破棄を申し出たのだ。

 そして私は婚約破棄とともに家を出るのだ。もう二度とアルフォネアに大事な物を取られないように。アルフォネアの手が届かない場所に私は逃げるのだ。そして、大事なものに囲まれて幸せに過ごしたい。


「それは、ならぬ。」

「ええ。そうよ。婚約破棄は許せません。なにがあったのかは知りませんが、婚約を破棄することだけは許しません。」


 お父様もお母様も婚約破棄に反対された。

 アルフォネアにルーンファクト様を譲ると言えば、お父様もお母様も諸手を振って喜ぶと思っていたのだけれども、違ったのかしら?


「なぜですか?アルフォネアはルーンファクト様と懇意にしています。私が身を引くべきでは?」


「ならぬ。」


「はぁ。アルフォネアはまたステファニーの物を欲しがったのね。仕方の無い子だわ。でも、婚約破棄だけはだめよ。」


「どうしてですか?私は、辛いのです。夫となるルーンファクト様のお心がアルフォネアにあると知っているのに結婚などできません。」


「……うむ。ルーンファクト殿下にはアルフォネアに気をつけよと伝えたのだが……。」


「そうねぇ。いくら死んだ私の妹の娘のわがままだからと言っても、流石に王家には嫁がせられないわ。それにあの子は将来王様となるルーンファクト殿下に嫁いだらアルフォネアが未来の王妃になるのよ!?あの子は王妃の器ではないわ。アルフォネアが王妃になってしまったらアルスレーン王国の未来はないわ。」


「……え?」


 あ、あれ?

 なんだか、お父様の反応もお母様の反応も思っていたのと全然違うんだけど。

 っていうか、アルフォネアがお母様の亡くなった妹の娘……?

 失礼だけど、お母様の妹は男遊びが激しくて最後には誰の子かわからない子を身籠もったと噂に聞いていたけど、それがアルフォネアだったの……?


 思いがけない事実に私は目を丸くした。

 このこと、アルフォネアは知っているのかしら?


「……アルフォネアにはルーンファクト殿下には近づかないように私からもう一度言っておく。」


 お父様は苦虫をかみつぶしたような表情をしながら言った。

 「もう一度」ということは、お父様は一度アルフォネアに注意したのだろうか。


「ステファニーは安心なさい。アルフォネアにはこれ以上ひっかきまわさないように私からも言っておくわ。」


 お母様はそう言って疲れたような笑みを浮かべた。


「……はい。わかりました。」


 お父様にもお母様にも疲れたような表情が見て取れたので、私は頷くことしかできなかった。それに、アルフォネアが妹ではなくて本当は従姉妹だということがわかったし。

 お父様もお母様も幼くして母親を無くしたアルフォネアを哀れと思って甘やかしたのだろう。

 お母様の妹の娘だとしても、父親は誰だかわからないのだし。この侯爵家を継ぐことも、王家に嫁ぐこともないと思って甘やかしたのだと思う。


 私はお父様とお母様にお辞儀をして、部屋を出た。

 気晴らしに庭を散策したいが、庭の東屋で真っ昼間からアルフォネアとルーンファクト様がいたしていたのだ。鉢合わせをしてしまったらと思うと庭にでることができない。

 さて、どこに行こうか、と思っているとタイミングの悪いことに前方からアルフォネアとルーンファクト様が腕を組んで歩いてくるのがわかった。

 腕を組んでというより、ルーンファクト様がアルフォネアに腕を貸しているようにも見受けられるが。

 一瞬逃げようかとも思ったが、廊下は一直線でありとても逃げられない。

 迷っている間にアルフォネアと目があってしまった。


「あら、お姉様。お庭でルーンファクト様とお会いしたの。うふふ。だからお父様とお母様の元にルーンファクト様をご案内しているのよ。」

「……そう、ですの。」


 アルフォネアは上気した頬で私に説明してくる。


「うふふ。お姉様の代わりに私がルーンファクト様の婚約者になりますわ。ね?ルーンファクト様?」


 アルフォネアはそう言ってルーンファクト様にしなだれかかった。

 ルーンファクト様の表情はピクリとも変わらない。


(……あれ?この方、本当にルーンファクト様でしょうか?)


 アルフォネアと一緒にいるルーンファクト様を間近で見て、微かな違和感を覚えた。

 どこか私の知っているルーンファクト様と違うような気がしたのだ。


 目の前のルーンファクト様をジッと見つめる。


 なにか、違うのだ。目の前にいる人物は私の知っているルーンファクト様ではない。


 確かめるように観察するように私はルーンファクト様をじっくりと見つめる。


「あっ……。」


 私は気づいてしまった。


 目が違うのだ。目の色が違う。ルーンファクト様の目はもっと澄んだ青色をしている。目の前のアルフォネアと一緒にいるルーンファクト様は深く暗い青色をしているのだ。


「……なにか?」


「ああっ……。」


 私が声を漏らしたことで、ルーンファクト様のそっくりさんは、怪訝な表情を浮かべて声を発した。


 そして私は気づく。


 声が全く違うことに。


 ルーンファクト様のお声はもう少しだけトーンが高く、どこか少しだけ癖のある発音をする。目の前のルーンファクト様のそっくりさんはルーンファクト様よりトーンが少しだけ低く、発音が全く癖がない。まるで声を出すのもしっかりと訓練されているようだ。


「い、いえ……。アルフォネアと仲がよろしいのですね。このまま私との婚約を破棄して、アルフォネアに乗り換えるのかしら?」


 私は目の前のお方がルーンファクト様じゃないと確信して意地の悪い質問をする。


 まあ、婚約者としては当たり前の反応だと思う。婚約者より婚約者の妹を優先するなんておかしいもの。



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