第8話 『次の伝説を探しに来た』


 子勇者に部屋を案内され、ベッドに横たわる。しばらく経っても、出て行こうとしない子勇者に声をかけた。


「おい」

「ひゃい!」

「何故、出て行かない?」

「み、見張りでしゅ……」

「別に逃げたりしねーよ」


 しばらく沈黙が続く。何を言っても部屋から出ていくつもりはないのだろう。俺はため息を吐いて瞼を閉じ、寝ることにする。


「あ、あの……」

「……」

「あの!」

「何だ」

「えっと、その、勇者様のお名前を……」

「俺は勇者じゃねぇ。……将冴だ」

「将冴しゃま……。僕はルロイっていいましゅ! しょ、将冴しゃまはどうしてそんなに強いんでしゅか?」

「知らん。気付いたらこうなってた」

「そうでしゅか……」


 普段ならそのまま話を終わらせるのに、なぜか和音と重なった子勇者と会話を続けることにした。


「なんでそんなこと聞くんだ?」

「ぼ、僕は、強くならなきゃいけないからでしゅ……」


 子供のくせに、嫌に深刻そうな、思いつめているようなその雰囲気が気になり、子勇者にチラリと目を向ける。


「ねぇ、将冴しゃん……。僕の話を聞いてくれましゅか……?」

「……どうせ、俺がダメだと言っても、勝手に喋るんだろうが」

「ふふっ……。そうでしゅね……。では、聞いてくだしゃい。僕達の話を――」




◇◆◇◆




 僕ら子勇者は親がいない孤児と言う子供らしくて、全世界からこの村に集められてくるんでしゅ。


 体を鍛えるのも、食べ物を用意するのも、この村を守るのも、全部自分達でやりましゅ。


 新しくやってきた子には、ここに長く住んでいる子が色々教えてあげるんでしゅ。


 この村にやって来て、不安でいっぱいいっぱいだった僕を助けてくれたのは、タケシくんでしゅた。


 タケシくんは少し他の子とは違った見た目だったのでしゅが、泣いている僕の手を取って色々教えてくれましゅた。


 食べられるもの、食べられないもの。剣の持ち方、攻撃の仕方。たまにこの街を訪れるお姉さんの口説き方。全部教えてくれましゅた。


 剣の稽古で頭を叩かれたり、転んだりするたびに僕は泣いていましゅた。向かっていくのは怖いのだと、僕に剣は無理なのだと、やりたくないとワンワン泣きました。そんな時、タケシ君は必ず背中を摩ってなぐしゃめてくれましゅた。


 僕は下手っぴでちっとも上手くなりましぇんでしたが、タケシくんは僕にとっても親切にしてくれましゅた。とっても、嬉しかったでしゅ。


 でも、ある日突然、黒いフードを被った大人がこの村に来て言ったんでしゅ。


 『次の伝説を探しに来た』と。


 この村に来て数ヶ月だった僕は知らなかったんでしゅ。一年に一度、アインホルン教なる者達がやって来て、この村で一番強いとされる勇者を連れていくのを……。


 そして連れて行かれるのが、タケシ君だと言うことを。


 周りの子からタケシ君が連れて行かれると聞いて、僕はタケシくんに言いましゅた。いかないでほしいと、まだ教わってないことがたくさんあるんだと。


 だけど、彼は僕の頭を撫でて、ぼくにいったんでしゅ。


「お前なら一人でやれるよ」

「できないでしゅ! だから行かないでくだしゃい!」

「俺が行かなきゃ他の子が連れて行かれるんだ。それにこの村で一番強いのは俺だ」

「で、でも!」

「そんな俺に教わったんだ。次に一番になるのはお前だよ。なぁ、世界は広いんだぜ? こんな村にいるより、ずっと美味いもん食えるし、魔物を倒して「勇者様~」って崇められるんだぜ? それに何たって、女の子にもモテモテだ! だから、お前も強くなれよ! お前も世界に飛び出して、一緒に戦おうぜ! なぁ? ルロイ!」

「タケシくん……」


 僕達は約束したんでしゅ。だから、僕はタケシくんを笑顔で見送りましゅた。


 約束をまもるために、必死で稽古をしましゅた。痛いのは嫌だけど、誰にも負けないくらい練習しましゅた。


 でも、なぜかアインホルン教が一年を待たずして、この村にやってきましゅた。そして彼らはいったのでしゅ。


『前回の勇者はひどい失敗作だった』って。『次回もそれが続くようなら、リセットする必要がある』って。


 僕がタケシ君のことを聞こうと、彼らのローブを掴むと、簡単に投げ飛ばされましゅた。だけど、何度投げ飛ばされても、必死にしがみつきましゅた。


「タケシくん! タケシくんが失敗作ってどう言うことでしゅか!? タケシくんは一体――」

「前回の失敗作は死んだよ。次はもっと強いやつを用意しとけよ? じゃないと、皆んなおさらばだ」


 ローブを握りしめていた力が抜けて、大人はいつの間にか、いなくなってましゅた。僕はどうすればいいのかわかりましぇんでしゅた。


 僕は聞いた話を皆に話ましゅた。僕達は嘆き悲しみ、何もできなくなりましゅた。だけど、僕思い出したんでしゅ。タケシくんは僕が一番になれるって言ってくれたことを。


 前より必死に、稽古に励みました。頑張って、頑張って、頑張って。そうしてようやく、この村で一番強い勇者になれましゅた。


 だけど、あの時。目の前にオークが立ち塞がった時、僕には無理だとわかりましゅた。


 何度きりつけても、傷はつかないし、僕達より大きい。いつも戦っている、スライムなんかより何倍も、何十倍もつよかったでしゅ。


 あぁ、殺されるんだなと思った時、将冴さん達が見えたんでしゅ。知らない人、だけど僕らよりずっと大きい。あなたの腰に剣がぶら下がっていたのが見えて、思わず助けて欲しくて走り出してしまいましゅた。


 身勝手な頼みということはよくわかっていましゅ。お願いしましゅ。僕達を、この村を助けてくだしゃい。お願いしましゅ。お願いしましゅ。




◇◆◇◆




 子勇者は何度も何度も頭を下げ、何度も何度も願いを乞う。何も言わない俺に、ベッドに横たわり瞼を閉じる俺に、それを何度も続けた。


 子勇者は勝手に話していただけ。俺はそれを聞かされていただけ。子勇者の願いを聞く必要はない。だが――


 子勇者を哀れに思ったのも確かだった。


「明日もいてやるから、ここから出ていけ。うるさくて眠れない」


 子勇者の感謝の言葉を浴びせられた後、使い魔からの連絡はないまま、1日が過ぎさった。




◇◆◇◆

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