2.依頼を受けない探偵事務所
俺は風間宮 侍狼(かざまみや じろう)。探偵だ。
事務所は新宿の雑居ビル。勿論インダストリアルな内装。室内の壁にはレンガを貼り、天井は打ちっぱなし。あえて壁面のコンクリートは残した。剥き出しの電線管にアメリカンスイッチ。ソファーはチェスターフィールド。アイアンとウッドの家具に、表紙のデザインで選んだ読みもしない洋書の山。探偵はやはりブルックリンスタイルに強く惹かれる。日本人は見た目やかたちから入りがちだ…。
俺は子供の時から、町の平和を守りたい、悪の組織と対峙したい、様々な難事件を解決したい。そう強く思いながら大人になり、それが叶うのは「探偵」と決めつけてしまっていた。
これまでに町で起きた様々な難事件を解いてきたといいたいところだが、現実は全くと言っていいほど違った…
素行調査、浮気調査、不倫相手の身元特定、別れるための口実作りに事件性を伴わない家出や失踪等ばかり……。
まるで違うのだ。そうではないのだ。連続殺人事件の依頼や殺人予告から守って欲しい。組織に狙われているから守って欲しい。などそんな依頼は一切来なかった…。
俺は子供の頃から格闘技を身につけ、敵と戦う準備はできていた…。敵…敵っていつ現れる。悪…悪ってなんだ。
俺は決して真面目な訳ではない。ただ自分の正義があるだけだ。違法行為が悪ではなく、自分の中の正義がその都度決めている気がする。
その内に俺は依頼を一切受けなくなったのだ。但し、俺は仕事を選べるのだ。そう俺は苗字からわかる通り普通ではない。そう俺は超絶金持ちなのだ。風間宮コンツェルンと言えば知らない者はいない。まあその話しはおいおい…。
つまりはお金の為に動く必要のない探偵事務所なのだ。
探偵事務所と言っても秘書が1人いるだけ。勿論仲間もじっくり選びたい!選べるのだ。
「社長、本日のご来客予定はございません。ご予定もございません。ご要望頂いておりました資料はこちらになります。本日の昼食は特にご要望はございますか?」
と、コーヒーを静かに置いてくれた。
色気があり、利発さと聡明さを兼ね備えつつ、すぐにでも裏切りそうな危険な雰囲気を持つこの女性が秘書の三木 風子(みき ふうこ)だ。
「今日は少し、事務所を出る。20時まで留守を頼む。」
「かしこまりました。また、出先でご要望ございましたら、すぐご連絡くださいませ。」
「あと俺が事務所を出る前にウェットティッシュを忘れたので、買って来てくれないか?除菌のものを」
「かしこまりました。すぐ行ってまいります。」
と風子は事務所を出て行った瞬間、俺のスマホが震えた。
──すぐに来れないか連絡待つ──
俺はスマホに目をやりながら、ドアも閉めずに事務所を足早に出ていた。今日会う待ち合わせの相手からだった。
推理力のない探偵団 巽 圭一郎 @nino10181020
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