キュアノエイデス防衛戦 01

 



 ウィロウ公爵領都キュアノエイデス。

 ナヴァル王都ナヴァリルシアに次ぐ古都であり、ある一点に於いては、国内のいかなる都市をしのぎ、頂点に在ることで知られている。


 ――戦力。


 単なる一兵卒が、小国の将程度の武ならば容易く凌駕する強兵である、と、大陸各地の国々でまことしやかに語られる、ナヴァル王国最高の戦力と呼ばれしつわものの集まり。


 ――ウィロウ公爵領軍。


 ナヴァル王国、武の象徴たるウィロウ公爵家が治める地であり、ウィロウ派――青柳流刀術の総本山であることが、最高と評される最大の要因。

 ナヴァル王国建国以降、門下にある者達の半分以上が領兵として参戦し、戦功を積み続けてきた結果である、が、それはあくまでも、ウィロウ公爵領軍だけを個別に評価したもの。


 ウィロウ公爵領都キュアノエイデス、かの都市が有する総戦力、それ自体の評価ではない。


 そもそもの話、戦力とは――国家全体や都市などの拠点が保有してるであろう軍事力とは、何を以て、その強弱や大小を判断されているのだろうか。


 常備兵と領民兵――それは、幾つか存在する答え、その内の1つ。


 兵と呼ばれる者達は、基本的には常備兵と領民兵の2通りに大別される。そして、それらを一定の法則に基づいて編成することで集団へと形成、その総称を軍と呼び、それらの大小を兵力として比較する――この一連の流れが生み出した兵力数という結果を、戦力もしくは軍事力と捉える考え方が、一般的であり常套である。


 常備兵――ナヴァル王国基準でいえば、騎士団の選定によって選ばれた騎士、又は、各地の領主が自発的に雇用し、時、戦にえさせているが、これに該当する。

 領民兵――内のとして臨時徴用し、突発的に参戦する者達がこれに該当。その大半が戦いの素人であり、俗に、民兵と呼ばれる。


 そして、ガルディアナ大陸各国の間では、領軍イコール常備兵という認識が浸透している。


 ウィロウ公爵領軍が、ナヴァル王国軍において最高戦力と目されているが、それとこれ――ウィロウ公爵領都キュアノエイデスという都市自体が有する戦力の評価と


 何故ならば、都市の総戦力それ自体が、時と場合次第で増減する可能性が常に存在し、それはキュアノエイデスに限らず、どんな国のどんな都市であっても有り得るからだ。




 そして、戦力増減の要因の1つが、不安定な性質を最大の利点とする、領民兵という存在にある。










 ――鈍い音が鳴る。


 その音は、とある男達2名が鳴らしたもの。敢えて、その音を言葉にするなら、ズンッ!! 、もしくは、ドンッ!! 、といったところだろうか。

 そして、音が鳴ると同時に強い衝撃による振動が生まれ、その揺れが周囲の者達へと伝わったことが起因となって、ある種の生じさせていた。


 ――、と。


「――おうおうおう!! ガリガリ如きが、調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

「――はっ、笑わせんな、ノロデブ!! ご自慢の無駄肉、早く使ってみろや!!」


 ――轟音、再び。


 1、2、3、4、5……計5回の鈍い音が、周囲でしている者達の耳に届けられたと同時に、音を届けた当の本人らがニヤリと笑う。


 そして――


「おいおい……まさか、この程度で終わりじゃねぇよなあ、ガリガリ!!」

「アホか、辛そうなノロデブの為に止まってやったんだ、感謝しろやぁっ!!」


 爛々らんらんと瞳を輝かせた両者は、まるで示し合わせたかのように、結構な量の出血をしており、だが、それでもなお笑っていた。

 そう、この男達、ステータスユニットを停止した状態で、頭突ずつきし合っていたのだ、


 彼らの行動の不可解さに、理解が及ばない者がいることは確実だろうが、キュアノエイデス中央通りにおいて、この2人の奇行は日常茶飯事、いつも通りの光景でしかない。


「いい加減、沈んどけや、ガリガリ!!」

「そりゃこっちの台詞だ、ノロデブ!!」


 あ、そろそろ終わりそうだな――若干遠巻きに眺める人々が、一律に、そんなことを考えてしまうだけの気迫とフラフラな身体を披露した2人は、裂帛れっぱくと呼ぶ他ない凄まじき咆哮を挙げると同時に、互いに身体を後方へとズラす。


 そして、渾身の頭突ずつきが――


 ――ドゴッ!!

 ――ズパァァァァン!!


「ぐふぉぁっ!?」

「アバババババババババッ!?」


 片や、錐揉きりもみ回転しながら豪快に吹っ飛び、片や地面で激しく痙攣けいれんする。見慣れてなければギョッとしてしまうこと間違いなしの、なんとも奇妙な光景を見た人々は、労いの拍手を、送る。


 ――いつもご苦労様、と。


「この人達は、ホントにもう……あ、皆さん、お騒がせしました!」

「このバカ2人は、私達が責任を持って回収するんで、ご安心くださーい……毎日毎日、よくもまあ飽きないわね――」


 錐揉み回転しながら、そのついでとばかりに血を撒き散らしながら、豪快に吹き飛ばされたノロデブと呼ばれた男。名は、アージェス。

 なんとも爽快な音を鳴らす羽目になった挙句、地面で激しく痙攣、細長い板のような何かが折り畳まれて棒状になったそれを、追撃するかのように押しつけられ、より一層激しくビクンビクンと身体を震わすことを強いられた男。名は、カルロ。


 その男達の名を、キュアノエイデスに暮らす、ほぼ全ての人々が知っている。

 長く暮らしている者ならば、その悪童っぶりを。

 最近、暮らし始めた者は、その肩書きと共に。

 端的に語るならば、彼らは有名人である。

 もう少し詳しく語るならば、ガルディアナ大陸全土に、名を轟かせている男達である。


 ――一刀いっとうのアージェス。

 ――霧隠むいんのカルロ。


 彼らに与えられし二つ名が秘めし威を、より際立たせる肩書きが存在する。


 ――傭兵ギルド ナヴァル王国総本部グランドマスター 兼 傭兵ギルド ナヴァル王国東域統括本部マスターにして、純隕鉄アダマンタイト等級傭兵。

 ――冒険者ギルド ナヴァル王国総本部グランドマスター 兼 冒険者ギルド ナヴァル王国東域統括本部マスターにして、神魔金オリハルコン等級冒険者。




 そう、この2人、ナヴァル王国内で活動している傭兵と冒険者を統率する立場に就くリーダーであり、それと同時に、数多の強者達を従わせることが可能な圧倒的強者――英傑である。









「――こんの、バカマスター!!」

「そんな理由で、こんな怪我するなんて……治す側の身にもなってください、もう!」


 ウィロウ公爵領都キュアノエイデス、その中央には、名物でもある大きな噴水設備が置かれ、その脇にて、アージェスとカルロの2人が、とても綺麗な正座をさせられていた、魔法で作られたであろう石板を膝に載せながら。


 ガルディアナ大陸に古来より伝わる、罪を犯した者に自省を促す為の処罰の1つ、石抱いしだき――重石おもし付きの正座である。


 本来は、ギザギザ状にこしらえた板の上などに正座させられることを考えれば、平坦な石畳の上で実施されていること自体、温情という他ない。辛いことに違いはないが。


「……何見てんだ、オイ」

「あ? テメエみてえなノロデブなんざ、眼中にネャババババババババッ!?」

「はぁ……ホント懲りないわね」

「それ、凄いですね、

「中々便利なのよ、コレ。も使う?」

「いいんですか! やってみたいです!!」

「お、おい、ニーナ……それは、ちょっと待ババババババババ!?」


 この2人の相手が億劫おっくうなのだろう、気怠けだるげな雰囲気を隠す気のない金髪の女性――アイラ。そんな彼女から手渡されたを受け取った赤髪の少女――ニーナは、早速とばかりにアージェスに押し当て、その効果の高さに感嘆の声を挙げる。


「ふわぁ……アージェスさんでも耐えられないなんて……この魔導器、本当に凄いですね」

「でしょ? 試供品として、少し前に送られてきたのよ、コレ。で、外回りする子らに渡して、実際に試してもらってたんだけど、中々好評だったから、公式に採用したって訳」

「なるほどー……あれ、この商標刻印って――」

「ええ、そうよ。コレ――」


 ――セレスティナ様のところの魔導器なの。


 その魔導器は、黄魔法や白魔法にて再現することが多い事象である――雷、それに付随する感電による痺れを抽出し、効果として発揮させている。

 その魔導器は、暴徒や魔物の鎮圧制圧後、穏便に捕獲するという流れを、単体の魔導器で可能とし、なおかつ、代物。

 その魔導器は、異世界地球の日本人ならば、おそらく誰もが知っているであろう、あの道具――漫才や寸劇などの小道具として用いられることでも知られ、本来は、能楽や講談、落語など、日本の伝統芸能において用いられる専用の道具であり、はりおうぎ、もしくは、はりせんと呼ばれるをモチーフとしている。

 その魔導器は、制圧や捕獲を非殺傷で達成することを主目的として開発された、汎用型魔導鉄扇てっせん


 その名も、スタン・ハリセン 2ndセカンド




 ナヴァル王国が誇る汎用魔導器メーカー、ナヴァフィルムより、今秋こんしゅう発売された魔導器である。




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