異世界魔法は、弾幕系STG!?




「ぐあっ!?」

「むっ、どうした!?」


 なんだ今の……夢、か…………いやいや有り得ないから、ついさっきまで、ガデルの爺さんとバッチバチに魔法戦エンジョイしてヒャッハァしてたからね、自分!?


 それにしても、さっきのはなんだ?


 ソウルイーター

 全てを喰らう刃スキルボード

 全てを許容する鞘ステータスユニット


 おまけに――


「ユグド、レア……」




 ――










「――いわぁ……」

?」

「っっ!? どうかしましたか?」

「いえ、昨日さくじつ、姫さま宛てのランフィスタ侯爵――」

「ぷひゅ!?」

「……ひ、姫さま?」

「ご、ごめんなさい、少しむせたわ、んっんっ……」


 やめてやめて思い出させないでランフスタァァァァァあまりに無様ああぁぁアハハハハハハハハハハハぁぁああもう無理、ホント無理、お部屋帰りたーい……腹抱えて思う存分笑いたいよね、クソ餓鬼ザマァァアッハッハッハ!!

 ふぅ…………やっと落ち着いたわ。それにしてもどんな心変わりなんだろ……もしかして鬱憤うっぷんを晴らしたかった、とか?

 別人みたいにヒャッハァしてたもんな、いやめっちゃ面白かったからいいんだけどね。


 まぁ、それはともかく――


はっや……」

「はい?」

「っっ!? は、はや……早く、返事をしてあげましょう」

「は、はい、かしこまりました……?」すす


 あぶないあぶない、私としたことがボロが出るところだったわ。

 これも全部、あの2人のせいね……マルスきゅん尊い、尊いわぁ……マルス君は可愛いし、ガデルの叔祖父おおおじ様は相変わらず渋かっこいいし、ホントもう困っちゃうなぁ……ホント尊い。

 それにしても、長らく――ガデ × マルだった筈。私の知らぬ間に一体いつ――マル × ガデに変わったのやら……ショタ攻め爺受け、か。


 …………YES、ショタジジ!!


「はぁはぁ……師匠、ボク、もうダメ……」

「ど、どうしたのじゃマルス、落ちくあっ!?」


 ――って感じかな…………やだイケる!




 さて、カップリング考察はこのくらいにするとして……なにこれ、めっちゃんですけど!?




 ナヴァル王国の第1王女として、この世界にしてから、早20年。

 憧れの魔法や魔術、魔導に傾倒してたらあれよあれよと魔法学院最年少での首席卒業、魔法師団入団から5年後に最年少での団長就任、同年、魔法学院学院長就任、と。

 我ながらなんて慌ただしい……思えば遠くに来たものね、やれやれ――なんて達観しなきゃやってられないわ、うん。


 端的にいえば、めんどくさい。


 私は、魔法や魔術、魔導、いわゆる魔道大好きなのよ、愛してると言い換えてもいいわね。

 つまりね、私はがしたいの、実戦はノーセンキューなのよ!?

 なにが悲しくて私みたいなが戦争に行かなきゃいけないのよ、指揮官よ、指揮官!! おまけに学院長も兼任!

 プレッシャーが半端ないんだもん……十とか百じゃないんだよ? 万よ万……そんな数の兵士の命が私の命令ひとつで失われるかもとか……胃が痛いったらないわよ!!


 ともあれ、魔法師団の団長であり、ナヴァル魔法学院の学院長である私は、日々の激務をそれはもう頑張ってこなしているわけよ。


 まさに――疲労困憊ひろうこんぱい


 そんな私にとっての癒し。

 それは―― Boys Love エェンドand Girls Love。

 いわゆるBLやGLのカップリング考察という名の空想妄想を思う存分に楽しむこと。老若男女を問わない、対象年齢なんでもござれ。

 ましてやここは、異世界であるユグドレア。

 現代地球の日本みたいな飽食とは程遠い飢餓の時代で、殺意に等しい悪意が当たり前のように側にある日常を生きるには、一般人であろうと一定の戦闘能力が必須。となれば、男女も貴賎も問わず、身体は自然と引き締まる。

 それに、王侯貴族といっても所詮は人、よほど特殊な事情がなければ見目麗しい美形を伴侶としたいのは自明の理である以上、大概の王侯貴族の男女問わず、引き締まった身体の美形であるのは必然。

 王族である以上、年に何回もあるお茶会やパーティーに出席するのは当然。

 そして、私の身分はまごうことなき王族、ザ・上流階級、すなわち!!


 素敵なカップリング考察し放題よ、Yeah!


 この私――セレスティナ=A=ナヴァルは、国内の王侯貴族の素敵カップリングを物心つく前から考察し、全てを網羅していると言っても過言ではない、多分。

 毎日毎晩、脳内で繰り広げられているカップリング考察、年に数回行なわれる新人アイド……貴族少年少女達の初顔出しという名の社交界デビューを踏まえての更新作業も欠かさない私、当然ながら推している人――推しメンや推しているカップリング――推しカプが存在する。


 私の推しメンはずばり、マルス君よ!


 マルス君は、パパの妹の息子、つまり甥っ子であり、この私が最も推す男の子、マジ尊い。

 彼が生まれた頃からの付き合いだし、元日本人の私に馴染み深い黒髪の超絶美形、性格も温和で優しい、しかも小柄。その辺にいる同年代の令嬢よりも可愛いとか反則よね。手足も長くて、魔法学院の制服であるからスラリと伸びる、適度に引き締まってる綺麗な脚とか、控えめにいって最高よね、ふふふ。

 けど、あのクソッタレ侯爵が、なにをトチ狂ったかマルス君を追放なんてしやがりやがったから平民落ちすることになったのよ。

 あの野郎、マルス君を泣かせやがって……コノ怨ミハラサデオクベキカ……まあ、私とガデルの叔祖父様が保護している以上、一切手出しはさせないけどね。


 兎にも角にも、私はマルス君のことを意味でかなり知ってる筈なんだけど……まさかガデルの叔祖父様のスピードに遅れを取らないだなんて。


 ガデルの叔祖父様、あれ多分本気よね。

 いやまあ実戦じゃないから、まだ先はあるんだろうけど……魔素が間隔がすんごく短い……2人とも速すぎる。

 私やマルス君、ガデルの叔祖父様のように『魔素探知マナサーチ』が上級以上になると、探知している魔素をに魔力と馴染ませて、魔法の発動が可能になる。


 これ、実はかなりヤバイのよ。


 魔法は、自分の魔力と魔素を重ねて混ぜて変質させることで発動可能になる、これが基本。

『魔素探知』の場合は自身から魔力の手みたいなのを伸ばして必要な分を手繰り寄せる。

魔素収集マナギャザリング』は半自動的に周囲に引き寄せた魔素を用いて発動する。

 つまり、『魔素探知』も『魔素収集』も必ず準備という過程を必要とする。


 けど、上級以上の『魔素探知』は違う。


 探知している範囲の魔素にあらかじめ自分の魔力をなじませることで、いつでも発動可能な状態にできる。

 それは『魔素探知』という常時発動しているパッシブ型のスキルが、準備することなく魔法を発動できる――既に発射している拳銃の弾丸の時間を止めているような、そんな性能を有している事実を示しているのよ。

 例を挙げるなら、そうね……アニメや漫画の魔法って、詠唱とかして手元とか杖の先から発射するでしょ?

 上級以上の『魔素探知』の性能を理解している魔法師が発動した魔法の場合、発動したと相手に当たっているの。

 発動した瞬間じゃない、発動と当たってるの。

 理由も理屈も簡単、魔力を馴染ませておいた『魔素探知』内にそうなる、ただそれだけのことなの。


 つまり、『魔素探知』が上級に到達した瞬間、魔法師の戦い方を一変させるっていうこと。


 その結果、上級以上の『魔素探知』を持たない魔道職が敵となった場合、一方的に魔を振るえるという、あまりにもぶっ飛んだ現実を見せれるってわけ。

 けど、本当に驚くのは、上級以上の『魔素探知』を保有している魔法師同士が戦うとき。

 その光景を初めて見たときは、にしか思えなかった。同時に理解したわ、これが本物の魔法なんだって。

 今日まで、私はそう思っていた。

 でも、違った。

 今この瞬間、あの2人が観せてくれているもの。


 これこそが――の魔法戦だ。


 それは、傍目はためにはどうにも解りにくい。

 魔の道を征ける資格が無い人からすれば、何もない空間から聞こえてくる、徐々に徐々に大きくなる破裂音に戸惑うと思う。

 初めは、爆竹のような軽い破裂音から始まり、軽機関銃のような硬質な破裂音が断続的に響き、終いにはロケット弾の爆発音のような轟音がマシンガンのように連続して聞こえる。

 擬音で表すならこうだ。


 パパパパパパから、ダダダダダダとなり、ドドドドドドとなる。なんてわかりやすい。


 相対している魔法師達の周囲を――空間を軋ませながら、こういう音が鳴り響く。


 これが魔法で、これが魔法戦、これが――本物。


 ちなみに私とガデルの叔祖父様の場合は、パンパンパンから、ダンダンダンとなり、ドンドンドンって感じね。というか、私にあれは無理よ無理、速度差がヤバイ……倍以上とか……ちょっと凹む。


 実際のところ、この世界で知ることになった本物の魔法戦が理に適っているって、私はつくづく思わされている。


 一対一の真剣勝負、命の取り合い。

 一瞬の隙が生死をわけるような状況で、のんびり詠唱できるわけがないのよね。

 フィクションで描かれてるような大魔法使い様による渾身のドヤ顔詠唱とか、唇を動かした瞬間にズドンってを打ち込む自信があるんだよねー……はぁ、現実って世知辛い。

 無詠唱? 詠唱破棄? そもそもここの魔法はそれが標準なのよ。

 魔弾というか魔なら撃つって決めたと同時に撃てるから、発動速度に遅延ラグも無い。というか、ラグがゼロじゃないと、この世界の武人さんは強引に割り込んでくるからね、あー怖い怖い。

 ま、所詮はフィクションってことよね、本当の実戦を想定してないのがよくわかる。見栄えが重要というか演出重視というか。


 点から始まり、線へとひろげ、方をえがてし柱を螺旋らせんと成す。

 其の螺旋、魔の法いだきし者のあま撃つ唯一。即ち――天撃なり。


 ガデルの叔祖父様から魔律戒法の一であるこの教えを聞いて、実際に見たときに私は魔の虜になった、ガチでハマったの。


 始点、拡線、画方、樹柱、螺旋。

 転じて。

 魔点、魔線、魔方、魔柱、天撃。


『魔素探知』の上級に至った者が、真なる魔法師として振るえる本物の――古代式の魔法、その内訳。

 ちなみに魔のところにはそれぞれの根源が当てはまるようになってる。

 黒魔法師なら、黒点とか黒線。

 私なら、青点、線、方かな。


 そう、私は三色の根源に繋がれる天才なの、いやホントに……どうせ器用貧乏とか言わないでっ!?


 それにしても、ホントに凄い。

 マルス君の黒点と黒線の雨霰あめあられ、あの密度を休みなしに、しかも正確に椅子だけを狙い撃てる集中力が凄すぎる。

 そいでもって、マルス君が生み出した濁流じみた黒点と黒線をこともなげに相殺するわキャンセルするわ……さすがは黒淵、化け物の中の化け物よね、ちょーかっこいい……。

 まあ、そもそもの話、お互いに黒魔法師である以上、サーチ内の相手の魔素をはずなんだよね、ちょっと何やってるかわかんなくなりそう。


 いや、わかるんだけど理解しがたいのよねぇ。


 えー、大気中には魔素が漂ってます。

 魔法師はその魔素と自分の魔力を用いて魔法を発動します。

 さて、発動した後の魔法はどうなるでしょうか。

 魔法という現象や事象を終えたのち、大気中に漂う魔素へと姿を変えます。

 さて、1+1は2です。当然です。

 つまり、魔法戦が行われている場所では、魔素濃度がどんどん上昇していきます。


 それが、徐々に音が変わっていく現象の答えです。


 大気中の魔素と自身の魔力を完全に混ぜることで、魔道職の人達は霊子領域アストラルフィールドに繋がります、これが基本ね。

 では、魔素濃度が上昇していくとどうなるか。

 大気中の魔素濃度が上昇し、一定の濃度――深度に達することで、魔法師を経由して、世界と霊子領域が一時的ではあるけれど繋がります。


 この現象の名は、臨界。

 魔の道を征く者が、本領を見せつける時間です。


 えー……現在、マルス君とガデルの叔祖父様の周囲は――臨界真っ最中でございます。

 本来、特殊な空間でもない限り、万単位の魔道職同士が戦って起きる現象のはず、なんだけど、ものの数分で臨界するとか、戦時中でもないってのにどんだけ魔素を弾かせてるのよ、あの2人は。

 というか、せっかく臨界してるなら私も行きたいなぁ……ああ、もう、学院長なんてやめたーい、けど愛しい短パン少年少女達を悪の手から守らないといけないのよね……くっ、こんな究極の選択、おいそれと決断なんかできるわけないじゃないっ!?


 ぐぬぬ、おのれパパめー……なーにを自分はお供連れて失踪してるのよ、是非とも代わって!


「……あれ?」

「どうかなさいましたか?」

「ん、ああ、大丈夫、少し考えごとをしてただけ」


 なんか、マルス君が痛がってる、大丈夫かな?

 ………………ああもう、心配で仕事に集中できないんですけどっ!?

 ねぇ、もう帰ってもいいかな……え、駄目、仕事溜まってるから私がいないとみんな残業になる……あはは、じょ、冗談に決まってるじゃない。


 さあ、みんなで一緒に定時に帰るために、お仕事頑張りましょう!




 はぁ……辞めたい。








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