魔道に狂う者




「……まだ?」

「あ、あ……ひぃっ!?」

「…………まだ?」

「ひぃっ、あ……あぁっ!?」

「まさかとは思うんだけど……を待ってるわけじゃないよな?」

「――そこで何をしている!!」


 俺とクソ雑魚貴族とその手下達が楽しく戯れている裏庭に、誰かが向かって来てるのはわかってた。

 だから、俺の足下でガタガタ身体を震わせてる無様なクソ雑魚貴族様に、きちんと伝えておかないといけないよな。


「なあ……あいつらがオマエを颯爽と助けるだなんて――そんななことができるとか、考えてたりしないよな?」

「ひいっ!? うそ、だ……そ、んなバカ、な……うあぁ、あ……ああ……」


 耳元でそんなことを囁いたら、ぶつぶつ呟きながら頭を抱えてうずくまりやがった、メンタル弱すぎんだろ。


「生徒会のアウグストだ、早く答え……貴様、ドラゴネス侯爵家の……な、なんだ、これは……おい貴様、これは問題に――」

「問題、ね……」

「なっ!?」

「だったら止めてみろよ」

「がぁっ!?」


 なにやら興奮した様子で、俺に向かおうと足を1歩前に進めたのは、生徒会のアウ何某なにがし

 そいつが2歩目を踏み出そうとした瞬間、俺は、アウ何某の肩に腕を回し、生命維持に関わらない全てを直接閉じる。

 これが一番手っ取り早い便黙らせ方。

 死ぬこともないし、再起するのも簡単。あらやだ、なんて穏便。


 で、残り5人。


「アウグスト先輩!? 貴様、自分が何をしたか――」

便だよ」

「な、後ろぉあっ!?」

「これで残りっと」

「なっ!? キャシー、ベルナルド……マイクまで……なんなんだ、おまえ、なんでこんなに――」

「速いんだ、だろ?」

「ひぃっ!?」


 いやおまえ、ホラー映画見てるわけじゃないんだからそんなにビビんなよー、そもそも無関係な奴らにする気はないんだからさ……ちょっと楽しいな、これ。


「てなわけで、おまえで最後な」

「い、いつの間に……」

「はい、おやすみー」


 そして、だれもいなくなった、ってか。

 いや、ちゃんと生きてるし、1時間もすりゃ起きるけどね。

 それにしても……生徒会ってことは5回生とか6回生のエリートってことだよな? 日本の義務教育じゃあるまいし、実力でその地位に就いてるんだろうから、クソ雑魚貴族よりはマシかと思ったらポンコツ具合に大差ないとか。


 この調子じゃ魔法師団も期待できないかね。


「さて……おまたせ、低能クソ雑魚貴族」

「あ……いや、だ……またあんな、こと――」

「え、なになに、ふんふん……あの程度のじゃ、名誉あるランフスタ家の一員である、このミディアムレアは満足できない、と、なるほどなるほど!!」

「ち、違――」

「承りました、喜んで! ではなんてどうですかー? あ、心配しなくても大丈夫ですよー、真っ暗で何も見えないし何も聞こえませんが、寂しくないように素敵なイベントもありますよー! そうですね……1週間なら満足できそうですか?」

「い、やだ……そんな――」

「えっ、1週間じゃ短すぎるですって!? わかりました、今世紀最大の出血大サービスをいたしましょう……まで楽しむというのはどうでしょうか?」

「そん、なの、いや、だ……ゆ、るして……」

「はい? いやいやいや、貴方のような素晴らしい低能クソ雑魚貴族様が許しを請うことなど、なにもいたしておりませんよ? だって、誰かをイジメるのは貴方にとってなことじゃないって自分で仰ったじゃないですか。なら……俺のおもてなしお仕置きも」


 ――よな?


「な、なんで、だよぉ……ぼ、ぼくは貴ぞ、くなんだ、ぞ……いうこ、と、聞けよぉ……もう、やだ、よぉ……」

「…………」


 なんだかなぁ……イジメを楽しむような輩に限って精神的にクソほど弱いのはどうしてなのか。

 こういうところは向こうとおんなじとか、ホントやってらんねえな、まじで……というか、イキった雑魚を蹴散らすのはともかく、弱い者イジメなんてこれっぽっちも面白くない……なにが楽しいんだ、これ。


「はぁ、萎えるわぁ……もういいよ、閉じとけ」


 結局のところ、クソしょうもない選民思想ってのはどんな世界だろうとついて回るってことで、それがイラつく原因だろうな……ホントくだらねえ。


「そこんとこどう思うよ、

「……唐突になんじゃ、なんの話かさっぱりわからんわ」


 に座りながら、唐突に現れたガデルの爺さんは、俺の頭上――宙に浮いていた。


 ――シャドウクリエイト。


 黒魔法師の基本的な技術で、影を操作し加工することで無から有を創りだす。あの椅子もシャドウクリエイトで創られている。

 ぱっと観た感じ、濁りも淀みも見受けられない、質の高い魔力で形成されている。


 流石、マルスの師匠だな。


「どうじゃ、少しは気が晴れたか」

「冗談だろ、こんなクソ雑魚貴族で遊んだ程度じゃ何にも変わんねぇよ……なあ――

「やれやれ、ほんに御主はマルスとは似ても似つかん……じゃが、思い上がりとも違うのう……ただの魔道狂いじゃな」

「はっ、よく言うぜ――」


 現時点でのマルス、つまり、今の俺とガデルの爺さんは決定的に違う。

 真に黒淵であると認められている本物の強者であり、世界屈指の魔道に狂う者。


 それが、黒淵のガデル。


「そこらの雑魚なら、今頃、っつうの」

「くかかっ、確かにそうであろうな……


 はたから見れば、少々目つきは悪いが可愛らしい顔立ちが特徴的な黒髪の少年―― in マルス状態の俺と、何故か椅子に座って浮いてる黒髪の老魔法師――ガデルの爺さんが談笑してるだけの微笑ましい光景。

 だが、一定以上の魔の素養がある奴なら、俺とガデルから放たれている威圧感じみた、実体はあるが不可解――高等技術が極まりすぎていて理解が及ばない謎のプレッシャーをひしひしと感じていることだろう。


 さて、今、俺とガデルの爺さんの周りで発生している謎のプレッシャーの正体。


 いうなればそれは――、その衝突による余波だ。ただし、これはただの戯れで、お遊びの類いでしかない。

 ガデルの爺さんを乗せながらぷかぷか浮かんでる黒椅子を消せば、俺の勝利。

 ガデルの爺さんは一定時間、俺からのを阻止すれば勝利。


 俺と爺さんは、手慰てなぐさみにも似た単なるとして、そんな遊びをしているだけだ。


「――、――――!?」


 魔法師団団長や副団長を始めとした一流の魔法師達が魔の素養を純粋に見極め、素質有りと認められることで入学を果たせる魔法学院。その在校生、しかも曲がりなりにも高位の魔法貴族という紛れもないエリートから見ても、ただただ異常としか思えないであろう光景。

 それほどまでに極まっている超絶技巧――てな感じに見えたんだろうな、クソ雑魚貴族のとんでもない間抜け面が視界にチラチラ映ってやがる、あんまり笑わせんなっ!?


 ま、いいや……間抜け面を晒してるこいつにも、にも、ちゃんと見せてやるさ。




 至高の曲と呼ばれる、VRMMO史上最高難易度たる本物の魔法戦、その一端をな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る