謎解きは講義の最中に




(大いなる魔の意思か……)


 講義でおさらいするまでもなくマルスの記憶で知ってはいたけど、魔律戒法とか大いなる魔の意思とかの設定は、アンブレと変わんないんだよな。

 けど、ところどころ違う部分もある、ラーメンなんかその最たる例だわ。


 それにしてもこいつら、講義の真っ最中に堂々ととか……まさか異世界で学級崩壊を体験するとは思わなかったわ。


「な、なんだと……」

「エドガー様、これ以上は……」


 今のマルスの年齢は13、日本でいえば中学2年生。で、ナヴァル魔法学院は基本的に12才から入学する。

 つまり、今の俺はナヴァル魔法学院の2回生なんだけど、講義の内容が、魔の基礎と応用の中間くらいだから案外役に立つ、この時代の魔道を知るにはちょうどいい。


「おのれ……落ちこぼれの分際で……」

「落ち着いてください、今は――」


 ちなみにだ、マルスの記憶を思い出してて、俺が一番驚いたのがコレ。


 あの黒天のマルスが、本気でドン引きするレベルのイジメを受けていて、それをただひたすらに我慢してたんだ。


「自分は実家から追放されているから貴族には逆らっちゃいけない。師匠であるガデルに迷惑はかけられないし、サーナを巻き込むわけにはいかない、だからボクが我慢すればいいんです」


 マルスが、ガデルの爺さんに伝えていた言葉だ。


 てかマルスよ、おまえどんだけ優しいんだよ、感激したぞ、俺は……まあ、そもそも今のマルスの状況がおかし過ぎるんだけどな。

 マルスの父親は、アルス=ドラゴネス、つまり、マルスは高位貴族である侯爵家の子息で、五男で末子。

 アンチパシーブレイブクロニクルでのマルスは、幼少時、ドラゴネスの麒麟きりん児とか黒の申し子って呼ばれていて黒魔法の天才として認識されていた存在である、そういう設定だった。

 身分的にもイジメの対象になるわけがないし、そもそもされてんのが、なによりもおかしい……マルスのを考えれば、まさに百害あって一利なしだからな。


 マルスがドラゴネス侯爵家にとって価値があるのは、母親であるエミリアが最大の理由だ。


 ――エミリア=A=ナヴァル。


 そう、マルスの母親であり今は亡き彼女は、ナヴァル王国国王であるクリストフの実の妹。

 黒天のマルスという世界最高にして最強の黒魔法師は、ナヴァル王国の王位を狙う者達からすれば、とびっきりの厄ネタ――ナヴァルの頂点に立つ資格を有する危険極まりない存在。


 けど、ドラゴネス侯爵家にしてみれば、王家の一族に連なる唯一の手札だったはずなんだ。


 そそのかされたか、脅されたか、もしくは……どうにもキナ臭いし、なによりも動機が見えてこない。

 マルスという存在は、侯爵家からすれば金の卵に等しい存在だ。

 マルスは五男、嫡子になることはまずあり得ない。けれど血筋は抜群にいいから、どこかの高位貴族や、なんなら他国の貴族へと婿に送り出せるほどの価値があるのは分かり切ってるはず。

 時と場合によってはナヴァル王国の王位に就くことすら、マルスの血筋を考えれば可能になる訳だ。


 それがドラゴネス侯爵家から見たマルスの価値、切り捨てる意味がわからない。


 そそのかす……無理だな。

 マルスが侯爵になるには、兄や姉を皆殺しにでもしなきゃならない――第三者から父親であるアルス侯爵がそんな指摘をされたとしても、マルスの温和な人となりを知ってる以上、世迷い言にしか聞こえないはずだ。

 脅す……ガルディアナ大陸の人族最強国家であるナヴァル王国、その高位貴族であるドラゴネス侯爵家を? まず、あり得ない。

 俺の知ってるナヴァル貴族なら、脅した奴をぶっ潰すために表裏関係なく即座に動き始めるくらいに好戦的だから、間違いなく騒ぎになってるはずだ。

 けど、マルスにその記憶はない、ということは、侯爵家の誰かが操られてる、とか?

 もし操られてる人物がいるとしたら、マルスの父親であるアルス侯爵かね、発言力を考えれば可能性は1番高い。

 けど、誰が操られたとかは、実はそんなに重要じゃなかったりする。


 1番重要なのは、なんでマルスが追放されたのか、その理由。それこそが、俺が知るべきことで知らなきゃいけないことだ。


 マルスを平民にしたかった……なんかしっくりこないんだよな。

 別に平民になっても黒魔法は変わらず使えるし、マルスの価値に気づいたどこかの貴族が養子にすれば王家の血筋っていう価値は活かせる。

 やっぱり平民かどうかは関係ない気がする。

 マルスを追放して平民にするのが理由じゃないとしたら…………待てよ、そういうことなのか?


 マルス自体が邪魔……マルスがの天才だから……王都にある侯爵家の屋敷に居られると困る、屋敷にいてほしくなくて追放した、とか……でもそれってして……いや、違うのか?


 こんなことを考えながら、四方八方から迫ってくる色とりどりの火花を閉じてるとさ、この時代のナヴァル王国が魔道なんだなって実感するし、まぎれもない事実だっていうのも実感する。


 だから、おかしいんだ


 ナヴァル魔法学院にいる貴族の大半は、貴族って言われている、騎士の適性よりも魔法職の適性が高い奴らのはずだ。

 そんな大層な肩書きの割に、魔法学院の貴族の魔道技術はとんでもなく低レベル。正直、魔法師を名乗るべきじゃない。

 その事実が示すのは、ナヴァル魔法学院では魔律戒法の解明が進んでいない、もしくは解明することの意味自体を履き違えてるってことになる。


 だから講義中なのに俺の周りで騒いでるこいつらは、俺が何をやってるのかがわかってない。


 ガデルの爺さんみたいなを除けば、そこらのガキどもと大差無いのが今のナヴァル魔法学院の奴らだし、ナヴァル王国の魔道技術が低いことの証左だ。

 そうなるとやっぱりおかしい、どう考えても矛盾してるようにしか思えない。


 黒の根源を担っている者のは、事象を含めた閉じることにある。


 例えば、侯爵家の秘密に繋がるを、本人があずかり知らないうちにていたとして、それを手に入れるには閉じた本人であるマルスが邪魔だった、とか?

 それならありえない話じゃない、よほど念入りに閉じない限り、魔法はいずれ必ず霧散するからな。

 けど、こんな無様な教育しかできない今のナヴァル王国で、黒魔法師の真価を知ってる奴はかなり限定されるはず。


 なら、この矛盾が、実際は矛盾していないとしたらどうだろうか。


 それはつまり、今から1000年以上先の未来の惑星アザルスが舞台である、俺の大好きなアンチパシーブレイブクロニクル、そのトップランカーである俺と同等の知識と魔道技術を持った誰かが、侯爵家の誰かを操った可能性だ。

 今の時代でその可能性があるとしたら、ガデルの爺さんみたいに、今のガルディアナ大陸で最も魔道が発展している場所――魔族領域で学んだ奴以外にはありえない。もしくは――が関わってる可能性。


 高位魔族――魔王や魔王候補くらいじゃなきゃ、あの竜の山を力づくでは越えられないはずだ。


 アンブレと同じなら山越えにポータルは使えないから、中位以下の弱い魔族じゃ越えられない。

 生まれついての魔道のスペシャリストである天族がした種族――魔族。そんな魔族、しかも高位魔族の誰かが、こっち側にいる可能性か……。




 こりゃ早いとこレベリングした方がいいかもな。

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