魔法学院へ行こう!




 ナヴァル魔法学院。

 ナヴァル王国建国前――ナヴァル公爵領の時代から存在していた教育施設であり研究機関。

 ナヴァル王国に暮らす若き魔の才を育む場であり、魔の道を征く者が己の研鑽けんさんに時を費やす場。

 その場において、王族や貴族などの特権階級であるかどうかは関係ない。魔を極めんと険しき道を征く者は、すべからく同志であり、そこに貴賎など不要だからだ。


 それが、ナヴァル魔法学院――







「――それが今や……」

「シンよ……後生だから言うではない――」

「……腐敗の温床」

「言うでないと言っておろうがっ!!」

「おわっぶねぇ!?」


 爺さんの杖から、ボールペンくらいの細さのが天高く伸びていく……てか、変換速度ラグがほぼゼロとか、さすがは黒淵。


「ぐぬぬぬぬ……マルスの可愛げは御主のどこを探せば見つかるんじゃ、まったく!」

「いやいや、事実を指摘されては大人気ないだろ、爺さん」

「はあ……くれぐれも騒ぎを起こすでないぞ」

「火の粉が降りかかってきたら?」

「穏便に払え……御主なら問題はなかろう?」

「穏便……せんせーい、再起不能は穏便に含まれますかー」

「大問題じゃ!!」

「あ痛っ!? ケツロッドはズルイぜ、爺さん」


 道案内されてて回避が難しい時に、魔法学院の教授である爺さんが愛用しているミスリル製のロッドでケツ叩かれるとか……やべっ、なんか今の俺、異世界の学生っぽいな、青春の1ページ万歳!


 そんなわけで、異世界にやってきた翌日。

 ナヴァル王国の王都ナヴァリルシアから馬車で1時間、マルスも通うナヴァル魔法学院へとやってきた。


「よいか、御主にはマルスとして学院に通ってもらう……わかってると思うが」

「敵だらけ、だろ……上も下も横も敵だらけとか、四面楚歌そのものだな」

「シ、シメン、ソ……ま、まあよい、わかっておればよいのだ。よいか、御主の提案したあの日まではくれぐれも穏便に――」

「わかったわかった、穏便にするさ」


 これでも向こうじゃ成人済みの大人だからな、ガキの挑発なんて屁みたいなもんだ。







「……どうすっかなコレ」


 右を見れば、涙でグシャグシャな顔をした服装の男子学生さんが3人。

 左を見れば、服がズタボロになっている男子学生さんが4人。


「んー……よし、決めた」


 見なかったことにして次の講義に向かう、これだ! 大丈夫大丈夫、俺はただだけなんだから、爺さんの要望通り穏便に対処できました!


「あ、みなさん、お疲れっしたー!」

「ふ、ふざ、ふざけるなっ!!」

「えー……まだ続けるんですかー」

、貴様……いったい何をしたっ!?」

「何をって、そりゃあ決まってるでしょ」


 俺は、こうみえて黒天のマルスなんだから扱う魔法は決まりきってる。


「貴方達のようなお偉い貴族の方々が散々馬鹿にして理不尽に迫害している――」




 ――てめえらの大嫌いな黒魔法だよ。










 魔法とは何なのですか?

 魔法師や魔術師、魔導技術師が、魔に触れたことのない者から度々問われるそれに答える時、全ての者がほぼ同じ返答をする。


 ――魔法のことを知りたければ、まず、知らなければならないことがある。


 では、知らなければならないこととは、いったい何なのですか?

 いつもと同じことを問われた彼らは、予定調和的に口を開き、やはり示し合わせたかのようにほぼ同じ答えを口にする。


 ――魔律戒法まりつかいほう


 魔律戒法とは、から与えられた――魔律まりつ魔戒まかい、魔法の3つの魔の総称にして、魔の道を征く者が最初に学ぶ概念であり、人生を賭して解明すべき問いかけである。


 魔律戒法にはそれぞれ役割が存在する。


 魔律、それは 霊 子 領 域 アストラルフィールド内に満ちている特定の霊子を魔素に変換するための基準ルールであり機構システムである。


 魔戒、それは魔律により霊子領域に産み出された魔素を取り扱う際に、決して犯してはならない行為――禁忌の全てをまとめ記した禁止事項ルールであり、禁忌を犯す者がいないかを察知するための監査機構システムである。


 魔法、それは魔律と魔戒ルールを遵守する者に、偉大なる方が与える恩寵にして祝福アプリケーション


 魔律と魔戒ルールを遵守する者には、霊子領域から流入する魔素と体内魔素、いわゆる魔力を合流させ、体内に循環させ、魔を実行するが与えられる。続いて、魔素と魔力を融合し、性質を変化させることで、実行者が存在する現実に存在する事象――現象を再現することが可能になる。

 魔法というアプリケーションの実行者、それが魔法師と呼ばれる魔道職なのである。


 そして、魔律戒法を定めた偉大なる存在を、魔に携わる者達は敬意を込めて、このように呼ぶ。




 ――大いなる魔の意思、と。


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