魔導のすヽめ 前編
「よし……こんなとこか」
「ほほう……話に聞いてはいたが中々大したものじゃのう、憤怒殿」
「まあな、傭兵のたしなみってやつだ」
「なるほどのう……」
丸太組構法と呼ばれる建築技術で建てられた、いわゆるログハウスを見て、蒼髪の青年――偉丈夫とも呼べるほどに鍛えあげられた肉体を持つ彼は、満足そうにうなずいていた。
「アンタには世話になるわけだしな、このくらいは当然だ」
「それはお互い様じゃ。御主が繋いだ命脈を鑑みれば、儂が助力するのは当然のこと。我らが同志の娘もおるしのう」
「だとしてもアンタがいなきゃ、こんなに早く拓けなかった……感謝しかないさ」
憤怒殿と呼ばれた豪傑然とした男――本多 宗茂は、今なお大きく広がっている
宗茂がいるのは、魔物の天国と呼ばれしデラルス大森林西域の最奥。
その場所は、人々からこう呼ばれている。
――蒼竜のねぐら、と。
「――か、開拓!? 大森林をっ!?」
綺麗な金髪を弾ませながら驚くのはエリザベート=B=ウィロウ。傍らのティアナも目を点にするようにキョトンとした表情で驚いていた。
そんな2人をチラッと見た宗茂は、イタズラが成功した子供のようにニヤリとする。
「ああ、そうだ。おまえらからナヴァル王国のあれこれを聞かされてからずっと考えてた、どうにもこの国は信用ならないからな」
宗茂達がルフル達と出会い、ラーメンハウス宗茂を臨時開店し、ダグラダマーケットからの恭順の提案と合意を済ませた次の日。
宗茂からデラルス大森林開拓計画が提案されたのは、そんな日の朝だった。
「それに加えて、ルフルから頼まれたことと合わせて考えるとそれが正解だと思える……番外区域のみんなや貧民窟の奴ら、あとは王都内の人族以外の奴隷を大森林に引き込むことでかなりのダメージを与えられるはずだ。で、相手が負傷してる間に――」
「お、お待ちください、ムネシゲ様! 貧民窟だけでも万を超える人が移住を希望する可能性があります、どうやって――」
「長距離空間転移陣よ……もともと番外区域とウィロウ公爵領で繋ぐつもりだったの。ウチからなら他の種族領域に帰りたい人を送るのもそこまで苦労しないし。でも大森林じゃ――」
天聖ネフルの娘であるルフル=ベルナス=オーバージーン、彼女の戸惑いは当然である。
旅人が王都から大森林に向かう場合、馬車の移動でも3週間程度はかかる。ましてや身体の弱っている者達が大部分を占める大人数での移動であれば、さらに倍以上の時間を要するだろう。
そもそも、そんな大人数での移動を、ナヴァル王国が見逃すはずも無い。
長距離空間転移陣であれば、と納得しかけたルフルだがすかさず首を横に振る、それは無茶だと。
「確かに長距離空間転移陣であれば理屈の上では可能ですが……
ルフルは、いわゆる神代よりも前の古き時代から生きる者。魔導技術の造詣は、現代に生きるものと比べればかなり深い。
だからこそ、王都から大森林に陣を繋ぐことの難しさを理解している。
長距離空間転移陣――古き時代においてサーバーポータルと呼ばれていた魔導器の仕組みにおいて、重要かつ不可欠な要素は2つ。
1つは、魔導師や魔導技術者と呼ばれる者達の技術、その高さ。
空気中の魔素、正確には魔素粒子と呼ばれるそれと、作業者が空気中に放出した魔力を混ぜ合わせることで、小型のスライムを模したかのような弾力性のある半透明の球体がうまれる。
それは魔導粉体と呼ばれる、魔導という技術の根幹である。
魔導粉体を魔法や魔術の媒体とし、ある種の
魔導粉体は、流動体――現代地球でいうところの液体と気体を合わせたような性質を持ち、魔力を流し込むことで簡単に形を変える。
そんな魔導粉体を、魔力で覆った両手で制御することで、さまざまな用途に合わせた形へと自由に変えることができる。
例えばそれは、剣や槍などの武器兵装などに、魔法や魔術ではできない特殊な付与を施し。
例えばそれは、家屋や城壁などに尋常ならざる強靭さをもたらし。
例えばそれは、魔法や魔術では成し得ない、人の身では数ヶ月の道程を一瞬で済ませる、特殊かつ異質な陣を構築する。
これが魔導、多種多様な器に
「こちら側の魔力は俺が担当する。大森林は――」
「直接は……無理ですよね。中継するにしてもそんな場所は……」
「ルフル様の言葉が正しいわよ、ムネシゲ。中継地点になりそうな魔素の濃い場所は、王都から大森林の間には無いし、妨害されかねない。そうなると直接繋げるしか無いけど……ムネシゲの次に魔力の多いティアナでも……」
「さすがに届かないですね、それに維持しないといけませんし」
長距離空間転移陣の設置に必要なもう1つの要素、それは大量の魔力を保有する存在を2名用意すること。
つまり、優れた魔導技術を持つ者1名と、大量の魔力を保有する者が2名、計3名で、長距離空間転移陣は設置が可能になるということである。
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