僭称する光の暗き蠢動




「……もう一度言ってくれるか?」


 伝令としてやってきた騎士へ、何を言ってるのかよく分からなかった為にもう一度と促すのは、豪奢でいて清潔な装いの細身の初老。

 頬がこけるほどに贅肉が削ぎ落ちているからだろうか、やたらと意識させられる眼力の鋭さに、騎士が怯んでいた。

 だが伝令役として来た以上、目の前で言葉を待つ老人に、情報を正しく伝えるのが彼の役割。


 意を決した騎士は再び、伝えるべき情報を口にした。


「はっ! ばんが……王都西門前および南門前にて不法滞在をしていた者たちが










「……無関係ではないだろうね」

「で、あろうな」

「あっちはなんて?」

「確かめるがいい」

「手が早いね、では拝見…………これはまた単純な、いや、結果的に難しくなっているのかな……どうにも面倒なことになってきたみたいだね」


 落ち着きながらも気品を感じる調度品、それらがさりげなくも存在感を示して立ち並ぶ、非日常と呼べる高貴な空間。

 そこにいる人物は2人。

 艶やかな装いの美青年と細身の初老。

 彼らは、今朝、王都に起きたトラブルが自分達にとって見逃すことのできない類のものであることを知った。


 ――人族以外の種族で構成された武装集団が王都内に予兆なく出現し、貴族街を含む王都に存在する奴隷商を襲撃。

 死者こそいなかったものの、経済的な被害は凄まじい。また、奴隷商達が保管していたステータスユニットとスキルボードも欠かさず奪われていた。


「中々の策士がいるようだ……まさか、こう来るとは……随分と好き放題やってくれたようだね」

「うむ……完全にこちらの狙いがわかっているのだろう……的確にこちらの弱みを突いておる……理解していなければこうも上手くはやれんだろうな」


 誰も殺さず、不良在庫である人族以外の奴隷だけを奪う。

 その結果、奴隷商にのダメージはない、むしろ助かったとすらいえる。

 だが、この2人ともう1人をリーダーとし団結している者達からすると、大きすぎる損失といえる。


「当分は無理かな?」

「うむ…………いや、以後は不可能になるやもしれぬな」

「……どういうことだい?」

「ウィロウ公爵から打診があった……翠風の聖女の後見人に就いたから王家による認定を公布して欲しいとな」

「翠風……よりにもよってそこを選ぶか……なるほど、こちらの弱点を良くわかってる」

「そのようだ……聖女在るところは聖地に等しい。であれば――」

「聖女のまわりにいる者達は、敬虔な信徒。手を出せばネフル天聖教を敵に回す」

「うむ……これから先、人族以外の種族に迂闊に手出しはできない、これ以上のを作ることは困難というわけだ……ではな」

「やれやれ、やっぱりそれしかないか」

を抜き、その先で我らの真似事をする者達を変える、それが最善であろう」

「……どうにも厄介な話だね」

「それほど悲観したものでもなかろう。安定していたものが不安定へと転じる、それは世に混沌が広がるということ」

「…………いい隠れ蓑になる、と?」

「然り……我らは強大なれど僅少。国の首を挿げ替える前に、近衛衆をどうにかできるのであれば――」

「絶好の機に成り得るということだね」

「左様……東に覚醒をもたらし、その結果、彼奴らの3割でも動くようならば……かろうじて殺れるであろう」

「そこからは私の役割だね」

「うむ、御主がになれば、我らの悲願は限りなく近づくことになる」


 美青年――ナヴァル王国第2王子アルフリート=A=ナヴァルは、目の前の細身の初老――ナヴァル王国宰相ダグラス=ランフィスタ侯爵へグラスを傾ける。


「全ては我らが神のため」

「我らが神に全てを捧げん」


 今は大陸に存在しない宗教、その信者が肌身離すことのない純白のを胸に当て、2人は目を閉じて祈り、同時に、王国宰相である初老がつぶやく。


 それは、呪いと同義であり、怨敵へ向けた宣誓である。



「世界の主たる神皇ファルスに全てを捧げる栄誉に感謝するがいい――よ」








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