ラーメン大好きおっさん、噂される




 王都ナヴァリルシア、その歴史は古い。

 146年前、ガルディアナ大陸における人族統一国家、リルシア帝国にて大規模な内乱が勃発。5年間の動乱の末、リルシア帝国は滅ぶことになった。

 内乱の最中、リルシア帝国の皇族や貴族を頂点とする、3つの国がおこることになる。


 ナヴァル王国。

 ランベルジュ皇国。

 アードニード公国。


 この三ヶ国が帝国領土を分割し、人族領域はわずかばかりの安寧を手にいれた。


 当時の帝国貴族であるナヴァル公爵は、ナヴァル公爵領都を王都とし、ナヴァル公爵領に暮らす者にとってのリルシア帝都、という意を込め、ナヴァリルシアと名付けた。


 140年以上の歴史を持つ古都、それが王都ナヴァリルシアである。


 構造自体は比較的シンプルな城塞都市であるが、攻め入る側からみれば、とても厄介な作りである。

 中心に王城をすえ、ひし形 状に城壁でかこみ、その内を王族の私有地とする。これをナヴァル王国では王園と呼ぶ。

 出入り口は、南側に設置した1箇所のみ


 王園の外側に、貴族の居住区をしき、王園の城壁同様、ひし形 状に築いていく。

 この城壁の内側を、貴族街と名付ける。

 出入り口は、東西の2箇所。


 貴族街の外側に、商人や職人といった手合いの平民の中から、一定以上の納税をはたした者のための居住区がしかれる。ここもまた王園や貴族街の城壁同様、ひし形 状の城壁が築かれる。

 この城壁の内側を、居住者の多くがそうであったため、商人街と名付けられる。

 出入り口は、南北の2箇所。


 商人街の外側に、商人街に住めなかった平民が暮らす居住区をしく。その外側にも、他の居住区とおなじように、ひし形 の城壁が築かれ、その内側を、平民街と名付けられた。

 出入り口は、西


 ちなみにだが、平民街の出入り口、すなわち城壁外縁の門が、西と南に存在するのは、外敵の戦意を削ぐための方策である。

 地政学上、王都ナヴァリルシアが迎え撃つ際の外敵の進路は、基本的には2方向に限定される。


 北西方から襲来するデラルス大森林の魔物達。

 東方から進軍してくるランベルジュ皇国、アードニード公国の2国。


 北西方および東方から進軍してきた場合、迂回しなければ門扉にたどり着くことができない。また、西と南の城門周辺以外には、水堀が引かれているため、城壁に張り付くことも容易ではない。

 ナヴァル王国最期の防衛線として、幾度もあった存亡の危機を乗り越えてきた、不落の象徴。

 10km四方に伸びた長大かつ頑強な城壁、さらには内側に3枚の壁を備え持つ、最盛期には80万もの人々が暮らした巨大城塞都市。




 それが、王都ナヴァリルシアである。




 最近、其処そこには、ある噂が流れていた。


「よくわからんが美味いんだよ!」

「パスタとは違うんだよなー、パスタとは」

「最期の一滴まで飲めちまうんだ、やばいぜあれは……」


 平民街の城門から遠いこともあり、地代の相場がのきなみ低く、平民街でも素行のよろしくない連中が集まっている其処。


 そんな場所に、そいつらは突然現れた。


「そこの店主が強いのなんの、あのダグラダの奴らだぜ!」

「ドルズの奴らもぶっ飛ばされてたしな!」


 まともな思考の商売人であれば、店を構えることを避けるといわれている其処。

 まともじゃない商売人しかいないため、平民にも忌避きひされる其処。

 平民街の東地区を中心として、北と南に広がる、ナヴァリルシアの闇と囁かれている其処。


 ――ナヴァルにきゅうする者、無し。


 先代国王も現国王も声を大にして、貧富の差のない、自国の素晴らしい経済力を他国に誇っているからこそ、あまりにも滑稽こっけいな、そしてあまりに皮肉な名付けをされた其処。

 公には存在せず、されど驚くほど周知されている其処には、とある争いがあった。


 北のダグラダ、東のドルズ。


 王都のみならず王国全土、さらには他国にまで影響をおよぼすほどの組織力を有する、ナヴァル王国の経済圏における闇の両巨頭。

 王都ナヴァリルシアの地下組織の首魁たる両者が追い求めているとされる、ガルディアナ大陸の裏社会に伝わる、まことしやかなおとぎ話のような噂がある。


 曰く、全てを見通す瞳をもつ。

 曰く、その声に癒せぬ病はない。

 曰く、ところにて誰かを待つ者。

 曰く、その者を手に入れれば、世界をも手にいれることができる。


 その者――貧民窟の巫女姫なり。


 そして今、貧民窟に、新たな噂が流れ始めていた。




 ――ダグラダとドルズを潰そうとしてる男女 人組がいるらしい。





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