第6話 逆襲
水曜日の7時、天理はいつものように起き、親を避け、朝食は取らず弁当だけ持って、いつものように警戒は怠らず学校に向かうのだった。
天理は昨日のことなどなかったかのように席に着き寝そべる。
「お、おはようございます、天理さん」
震えるように挨拶をする女子生徒、天理は名前すら憶えていない。
「ん…おはよう」
昨日の態度とは裏腹にいつもの性格に戻っている天理。もう誰も天理に下手に話しかけてこない。天理はようやく一人で静かに眠ることができるのだ。この教室のクラスメイトは天理の手中に落ちた。
しかし、寝ようと思っていたがチャイムが鳴ってしまい、朝礼が始まる。
この日はいつもの通りの授業態度。小テストがあり、そのテストが返されたが休憩中、聞いてくるものは誰一人としていなかった。
しかし、昼食、天理の隠していたものが暴露される時が来るのである。
先輩二人が天理の教室に入ってくる。一人は中学生で知らない人間はいないだろう、中学最強の女性生徒、堀下である。もう一人は堀下の忠実なしもべといったところだろうか。名前は知らない。最強の人間である、人望がつくのも無理はない、堀下は言う。
「右端の一番前の生徒、こいつね」
他のクラスメイト30人、天理、昨日の病院送りの生徒を含めず28人はその光景に嫌な予感をしつつも興味があるのか離れながらも見つめている。
「あんたが天野天理ね」
「そうですけど…堀下さんですか…?」
「そうよ、なんかあんたのおかげであたしより強い生徒がいるとかあたしの立場崩れかけてるんだけど」
「そうですか…」
どうでもよさそうに天理は寝そべりながら話を聞く。
すると唐突に始まった。堀下は天理の机を思い切り蹴り天理の机と後ろの机に挟まれた天理は身動きが取れなくなる。
「うっ…」
その光景にやはり中学最強なのは堀下なのだろうとみていたクラスメイトは実感する。天理は普段は怒ったりせず無表情のためそのギャップから堀下より強いのではないだろうかと思い込んでしまっただけなのかもしれない。身動きが取れなくなってしまった天理は何もできない。
「どうしたの、面白そうな相手だと思ったのに」
天理は中学最強の堀下に抵抗する意思は見せなかった。
「そういえばこいつ、あるものを見られてから態度が激変したって聞いたわね、真紀」
「はい」
真紀と呼ばれたもう一人の先輩、堀下の忠実なるしもべとみて間違いないだろう。真紀は天理のバッグを開けて中身を確認していく。天理は天理の机を思い切り堀下に押し蹴られているため抵抗できない。
「これっぽくないですか?」
真紀はバッグからあるものを取り出した。それを堀下に見せる。天理はついに抵抗の意志を見せたが動けない。
「なになに、発達障害、3級、こいつ障害者だったのね」
天理は辺りを見渡す。天理のクラスメイトがほとんど見ていたがその言葉を聞いたのか見て見ぬふりをしだした。天理はついに動き出す。
天理は膝で自分自身の机を左に突き飛ばした、動けるようになった天理はまずは真紀という人物を足で蹴り飛ばし真紀という人物は気絶した。次に堀下からその手帳を奪い取るように取り、向ける殺意の目、それは昨日見せたあの目そのものだった。
「お前…見ただけじゃなくてよくも言いふらしたな、あぁ?」
その急変した態度に驚きつつも面白そうな笑みを浮かべる堀下。
「いいわね、やりがいがあるわ」
堀下からの猛烈な蹴りが天理のわき腹に直撃するかと思ったがその足を両手でつかみ引っ張り上げることで堀下はバランスを崩し仰向けになった、さらに天理は堀下の腹めがけて足を真上から堀下の腹に直撃させる。
「ぐはぁっ…」
何発も何発も直撃させる。続いて天理は腹に直撃させていたその足を堀下の顔の目の前で止めた。
「一生話せねぇようにしてやろうか、おい」
「やめて、やめて」
「土下座しろ」
「わかった、分かったから離して」
それだけ言うと天理はいったん離すと堀下は解放される。
「なんてね」
不意に天理の腹めがけて堀下は殴ろうとしてくるが天理はその手を掴み、堀下を後ろ向きにさせると堀下の後ろの髪を掴み、近くにあった壁に堀下の顔をぶち当てる。
「あっ…ぁっ…」
一度や二度ではない、何度も、何度もだ。天理に恐怖を覚え、震えだす。
「土下座しろって言ってんだろ」
懲りたのか堀下は土下座する体制になる、堀下にとっては後輩に頭を下げるなど屈辱だろう。頭を下げようとする堀下。
「おせぇんだよ」
天理は思い切り堀下が少しずつ頭を下げようとしていた頭を足で思い切り振り落し、強制的に土下座させる。そのあとに教室から追い出すように腹を蹴り、堀下は教室から廊下に蹴飛ばされた。堀下は真紀を置いて逃げるようにふらふらしながらその場を立ち去る。戦場は血だらけだ。
「綺麗な色だな、なぁ?」
次の天理のターゲットは堀下の言葉を聞いてしまった天理のクラスメイト全員、異変に気付いたのか先生が何名か駆け寄るのを天理は見たが気にせず近くの生徒から順番に潰していく。天理に人情などない、駒としか見ていないのだから、天理に容赦などない。
「天野さん、なにしてるの?」
「うるせぇ、お前には関係ねぇ」
先生にまで反抗的態度を取る天理、しかし暴力は振るわない。それは先生だからではない。先生は天理が障害持ちという真相を知らないからだ。先生が見ているにもかかわらず、平気で男子女子関係なく、暴力を振るう天理、その光景は暴君。
抵抗するも天理の前では無力、首を掴まれ意識を飛ぶものもいれば蹴り一発でダウンする者もいる、しかし数が多すぎる、教師も多く来すぎた。
「お前ら、他に言ったらわかってるな?」
クラスメイト全員が頷く。それは堀下をぼこぼこにしたことではない、天理が障害持ちということ、だが教師たちからしてみれば暴力のことだろうと思うのだろう。天理は無数の先生たちと共に教室を後にする。
堀下は年下の生徒に土下座させられ真紀を一撃で仕留められ力の差を思い知らされ実質中学最強の座はなくなったただの堀下となってしまった。屈辱である。しかし、堀下は最後の反撃に出る。
3年の教室、可憐な明智は優雅に本を読んでいる。チェスの本だ。そんな中あり得ない光景を目の当たりにする。とある生徒が教室から帰ってきた、全身血だらけの堀下だ。明智は嫌な予感が脳裏をよぎる。
「どうしたのかねその怪我は」
しかし無視して今にも泣きだしそうに堀下は席に座る。さくらからチャットが鳴る。今回のチャットではさくらは男のキャラになり切っていない。つまり緊急事態ということだ。
『秘密は教えられないけど私は秘密を知っちゃった、あの堀下さんにまで圧倒的差で天理ちゃんはいじめてた、どうしよう香ちゃん』
明智は曇る。まさか本当に堀下を倒すとはそれに圧倒的差で。もちろん堀下を倒した天理に明智は勝ち目はない。まずは話し合わなければ。
『いつもの喫茶店に二人で集合しよう』
そして昼休みが終わるチャイムが鳴る。
放課後に路地裏、アリスと海士はいた。海士は完全にアリスに掌握されている。今日もアリスに近づいてくる赤いフードの少女、顔は見えない。珍しく一人だ。ポケットに手を突っ込んでいる。
「やれ」
「はい」
アリスは海士を意のままに動かす。しかし一人の少女なのにも関わらず海士は秒殺で敗北する。アリスは逃げる態勢になる。しかし、一言でアリスは止まる。
「待て…」
その声の主はアリスが最も恐れるべき存在、威圧的な少女や意地の悪い少女のような生ぬるい暴力ではない、あの堀下さえも凌駕する存在。そしてアリスは秘密も知ってしまった。死の恐怖が迫る。怖くて動けない。ばたりと崩れ落ちる。
「お前は生かしてやる…私と同じような仲間だろ」
「は…はい…」
「琴吹は上手く使えるか?もっと駒を増やしてやる、生まれた時から決まったハンデを持たされるなんてお互い不平等だよなぁ?」
「ん…ぅ…あ…」
「お前といると私と同じクラスメイトがやってくるかもしれないからなぁ」
天野天理、赤という言葉がふさわしいが学校の時と同じ服装ではなかった、確かに赤い服だったがフードに変わっている。何も知らないかのように同クラスの男子生徒三人がアリスを見つけたようだ。
「いたぜ、先客がいるけどやるか」
天理は近づくのを待つ。アリスには絶対的安心感が生まれた。そしてほぼ接近したところで男子のクラスメイト達に振り向く天理、まずは前の男子を後ろの男子に激突させた。真ん中の男子は天理と気づくと逃げ出すように、しかし天理は逃げ出す前に顔を掴み壁に打ち付けた。残りの激突した二人は容赦なく叩き潰す。
「大丈夫だ、琴吹はまだ使える駒だから加減してる」
それだけアリスに言うと天理は去っていった。
小さな喫茶店では明智とさくらが話をしていた。
「ふむ、秘密は教えられないが、本当に堀下君をやってしまったということだね、避けたい事態だった、このままでは磯野川と同じような人間になってしまう」
「それだけは何としても避けないといけないよね」
さくらにいつもの元気はない。
「あと香ちゃん、今日多分高校生くらいの女の人からアリスちゃんどこにいるか知らないかな?って聞かれたんだけど、高校生の女の人で知り合いいる?」
「高校生の女か、知り合いと呼べる知り合いはいないね」
「いろいろと問題が起き始めてたけど私は気にするようなことじゃないと思ったけどね、それも個性だし」
「秘密のことかな?」
「うん、言えないけどね、言ったら香ちゃんにも被害が及ぶ可能性があるから香ちゃんのためでもあるんだよ」
「秘密さえわかれば可能性はあるのだがね、だが私に手が残されていないわけではない、少しある人物とコンタクトしようと思う」
「まだどうにかする方法あるの」
「希望がないというわけではないということだよ」
明智は最後の希望を信じる。
黒龍の携帯から謎のチャットが二件、明智が個人チャットに行っていいか、とりあえず承認。そしてかつて軽くいなした堀下から天野天理は障害者と個チャに連絡。
探し出してほしいだけで特徴を掴めとは言ってねぇんだけどな。などと考えつつ明智と連絡。
『今日、私のクラスの堀下と私がいじめられているといった後輩の天野天理が喧嘩をしました。おそらくですが内容は堀下が天野天理の秘密を握ったためそこから喧嘩に発展したのだと思います』
その秘密というのは堀下から来た障害者ということだろうか。
『その秘密を脅しに使って堀下は天理をぼこぼこにしたってことか』
しかし、黒龍の予想は裏切られる。
『逆です、秘密を握られた天野天理が堀下をぼこぼこにしました』
どういうことだろうか、堀下は中学最強の生徒ではなかったのだろうか。だとすると堀下のあのチャットは力で敵わなかった天理に対する嫌がらせか。堀下以上に強い人間が存在していたということか。
『情報感謝だ』
『いえいえ』
もしその秘密が障害者だったとする、となると天理という人物はその事実を隠しながらひっそりと行きたい人物ということになる。しかしバレてしまった、つまりバレてしまった堀下を口封じで始末したということになる。力を隠し持っていながらその力で支配することはせず普通の人間としていきたかった。それが天理という人物ということなのだろうか。黒龍はますます天理という人物に興味がわいた。
その夜、訪れる悲劇。暗くて何者かわからない。
「ま、待ってください、俺はただ面白くて…いえ、うわぁぁ」
「た、助けて…もうしません…ぐぅぅ…」
何かが暗躍していた。
「ただいま…」
「天理、いい加減にしなさいよ」
「ん…」
「反省してるの?」
「私を産んで反省してるの…?」
「なんでそうなるの」
「わかってるくせに…」
天理は風呂に入る。
「そろそろお父さんも帰ってくるわ」
「いつ…?」
「もういつ帰ってきてもおかしくないわ」
「じゃあ寝る…」
「ご飯は?」
「いらない、おやすみ…」
天理はあるものを一気飲みする、それは睡眠薬、そして抗うつ剤、10錠以上。水で流し込む。天理の圧倒的睡眠欲は薬の副作用から来ているといってもいいだろう。
7時、いつものように目覚める。
しかし。
「天理、分かってるわよね、今日一日は出席停止よ」
「学校には行かない」
いつもの学校に行く服ではなかった。
「何をする気」
「頭を冷やしてくる…」
それを言うと母親に何か言われる前に外に飛び出す。
磯野川はいつも通り学校に登校していた、しかし途中で妙な人物に出会う。少し気になったが顔が見えない。その人物は磯野川に気づくと少し振り向いた。ちらっと見えた。天理だ。
「天野ねぇ、そういえばテニス部の1年が独り言で天理さんって障害者だったんだって呟いてるの聞いちゃったわ」
いいネタができたが黒龍からはいじめられるのを止められている。
天理とは思えないほどの鋭い目つきに本当に天理かと疑う磯野川。
「誰だ独り言してたやつは…」
「は?」
その態度はいつもの磯野川に向ける態度にしてはでかすぎる。一応その人物を伝えるがさくらではなかった。
「まあいい…対象に入る…お前も含めてな、なぁ、磯野川」
呼び捨て、お前、いつもの天理なら磯野川先輩と呼ぶはずだった。
「いつからそんな生意気になった訳、え」
すると天理は登校中の1年の男子生徒を捕まえぼこぼこにした、容赦なくだ。男は震えている、天理の顔を見た直後にだ。
「何してんのあんた…」
「今から私にぶん殴られたいかそれともアリスの命令に従うかの二択だ、それ以外の選択肢はない」
磯野川はその言い回しから黒龍連を連想させる。確か黒龍連は言っていた、俺の下にはお前の中学の人間もいると。もしかすると黒龍連と天野天理は繋がっているのだろうか。それに予想以上の強さ。もし繋がっているならイエスという選択肢を選ばなければ黒龍連を敵に回すことになる。
「し、従うって何するのよ」
紙を渡す天理。丸が書いてある。
「ここに行け」
「わかったわよ」
それだけ言うと天理は行ってしまった、学校とは真反対の方向に。しかし、口頭だけ、行く気など一切なければいじめているアリスに従う気など一切ない。
しかし、下駄箱で磯野川は噂を聞く。
「え、あの堀下さんをぼこぼこにしたのって1年1組の天野天理?そんな強いやつだったの」
磯野川の教室でも同じような噂が流れている。天野天理が中学生最強の堀下を完膚なきまでに叩きのめしたという信じられない事実。黒龍連と天野天理、この二人を敵に回さないためにもアリスに従う決意をした方がよさそうだ。
天理のクラス。天理は出席停止でいない。病院送りにされた生徒は今日戻ってきたが異常すぎた。30人中出席者10人以上。特にインフルエンザなどの病気が流行しているわけではない。このクラスは天理の秘密を知ってから徐々に変わり始めている。
その日の放課後、黒いパーカーの少女と赤いフードの少女は合流した。
「駒を増やした…」
「ぅ…ん…」
それでもアリスは震えている。
「琴吹をうまく利用しているんだろう、私にも普通に接してくれよ、仲良くしたいんだよ」
「て…んり」
「天理だ」
「てん…り」
「そうだ」
「僕は…アリス」
少しずつ悪い意味でだが話せる人が増えてきたアリス。
「僕はアリス、天理」
「どうした?」
「今日の駒は使えるの…かい?」
「琴吹よりは使えるだろう、私はあと10人やらないと…」
「10人…」
「アリス、お前をキングとしておく、ナイトを二人にしておいた、私は秘密がバレてから防衛的思考を放棄し攻撃的思考へと移行した、そう、お前をいじめている人間にしか危害は加えていない、最初は秘密を知る人間だけ始末するつもりだったが数が多い…今日は10人くらい休んでいたはずだ、全員お前をいじめていた人物…明日私が戻るころにはアリスに手を出す人間は私のクラスメイトではいないだろう、今回のもう一人の駒は2年、アリスをいじめていた人間だ、何かされそうになったら天理を呼ぶぞと脅せばいい、確か携帯も持ってないんだったな…」
アリスはようやく落ち着いたそぶりを見せる。
「全くね、僕も持ってみたいよ」
「琴吹に関しては手を出してこないだろう…だがもし今回のもう一人のナイトがお前に手を出したようなら明日私に報告して…どちらにしても私のチェック内に変わりはない、いつでもチェックメイトできる…」
「わかった、感謝するよ、最大限に使わせてもらうよ」
そして海士、磯野川、アリスは遭遇する、前に約束したことなんて今にとってはどうでもいい。海士と磯野川の協力などとっくに無断消去されていたようなものである。今日もアリスにたてつくものが現れる。そしてアリスは意のままに駒を動かす。
「やれ」
「ただいま…」
「おかえり、遅かったわよね、また変なことしてたんじゃないかしら」
「ネットカフェで頭冷やしてた…」
「本当かしら?」
「さぁ…」
「明日の学校では変なことしないのよね?」
「物事は常に最悪のケースを想定して考えるもの」
それだけ言うと風呂と夕食を済ませ、父親が帰ってくる前に薬を飲んで眠りにつくのだった。
金曜日、今日を乗り切れば休みとなる。
「行ってくる…」
「変なことはするんじゃないわよ」
「ん…」
それだけ言うと天理は登校する、もう警戒する必要もない、もし見つけたらどうなるかわかっているであろう彼も。
天理はいつものように席に着く、皆、天理に話しかけるものはいなくなった。教室は異常、あまりにもクラスメイトが少なすぎる。前に病院送りとなった生徒、さくら、海士、アリス、他数名、天理含め10人もいない。
その光景を見てさくらは天理が関係しているのではないかと疑いを持ち始めていた。さくらは正直言って馬鹿だ。難しいことは分からない。でもさくらは天理の秘密を知っても別に天理を嫌うこともなければ憐れむようなこともしなかった。そんな小さなことどうでもいいじゃんとその程度の考えだ。しかし、さくらは意外な光景を目の当たりにする。それは普段虐められているアリス。今日は誰からもいじめられていない。そんなアリスがあの天理に話しかける。聞こえる位置まで近寄るさくら。そのアリスの喋り方はさくらの知っているアリスではなかった。さらにもともと天理はアリスと仲が良かったかのようなそんな錯覚にも見舞われる。
「やぁ天理、海士よりは使える駒だったよ、性格は最悪だけどね」
「これで私たちの平穏は少しは守られるだろう…だが長続きするかどうかは別だ…私のクラスメイト以外の人間にはまだわからせていない、把握もしていない…」
「いいさ、君という人間にも興味がわいてきたね」
「私は誰にも興味がわかないけど…」
そんな会話が終わり異様な空気で受ける授業。10人もいないクラスは静かすぎた。
さくらは数名の友達と昼食を食べるもやはり天理のことが気になる。そんな天理の元へまたしてもアリスが近づく。
「天理、僕はこういうのもしてみたかったんだ」
「一緒に食べたいってことか、まあいい…」
アリスはおにぎりとドリンクを取り出す。
「お前のご飯はそれだけか…」
「そうだよ、僕は一日千円の価値だからね」
「お前の家庭も面倒くさそうだ…それよりもだ、そろそろ海士と磯野川、捨ててもいいかもしれない…事実上付き合っていることにもなっているから」
「あの二人よりも、君一人で十分だしまず興味がないからね」
「だが、物事は最悪のケースで想定しなければならない、まだ全員わからせたわけではない、念のためつけておく必要もある」
「君がついてくれれば一番問題ないんだけれどね」
「それは面倒くさい…」
「あの二人を捨てるかどうかは僕が考えておくよ」
「お前は休日何をやっている…」
「家に引きこもっているよ、前は違ったけどね、でも僕は同級生の人間と遊ぶということをしてみたい」
「明日くらいなら、暇つぶしにいいか…」
アリスは初めて同級生の人間と遊ぶ約束をするのである。
さくらは明智に今日あったことを説明する。
「ふむ、なるほど、もしかするとアリス君と天理君は旧友、もしくは何かしらの利害が一致したとみていいね、それにその話しぶりからすると天理君は明日部活を休むつもりでいるね、私から部長に伝えておこう」
「え、何をー」
「さくら君、君が部活を休むことをだよ、そして、あまりこんな真似はしたくないが二人で天理君たちを追ってみないかい?何かわかるかもしれないよ」
「ストーカーみたいなこと考えたね」
「否定はできないね、しかし、このままさくら君と天理君が疎遠になるのも私からしてみれば見てはいられない、何か新しい発見があるかもしれないからね」
「だよねー、もしかしたらアリスちゃんとも友達になれるかも」
「いじめを受けていた子だね、正直私もうわさで聞くだけではあるものの心が痛む、その二人が遊ぶとなると一石二鳥だね」
「じゃあ、やるしかないよね香ちゃん」
「もちろん、ただし見つかったらただでは済まない、私にも天理君を止めることはできない、何があってもばれないようにが条件だよ」
「おっけー、任せてー」
明智とさくらの作戦が明日実行される。
休日の今日、部活はあるが平気でさぼる天理。休むことは昨日のクラスメイトの中にいたテニス部のさくらではない部活生徒に事前に報告していた。
「行ってくる…」
「昨日は問題起こさなかったのね、部活は?」
「休み…」
「そう、チェス以外で遊びに行くなんて珍しいわね」
「……」
天理は家を出る。アリスの指定したポイントに向かう。
「ここか…」
路地裏、人気はない、近づいてくるパーカーの少女。
「やぁ天理」
「おはよう…」
「遊びに誘ったのはいいものの遊ぶって何をすればいいのかわからないけどね」
「話せばいい、それも立派な遊びだ、遊びには種類がある、人によって変わってくるだろう。話すもよし、出かけるもよし、映画を見るもよし、買い物に行くのもよし、ここでゆったりとしているもよし、他の人間と接している、それこそが一番重要だ」
「ふふ、君の思考は面白い、ちょっとトイレに行きたくなってきた」
「ここから一番近いトイレか…」
「大丈夫さ、僕は路地裏に関しては詳しいからね、それに最近は一人でいるのにも怖さを覚えなくなってきた、僕の隣にいる人間のおかげでね」
「私は動くのが面倒くさい…ならひとりで行けるようだな…」
「そうすることにするよ」
それだけ言い残すとトイレに向かうであろうアリス、一人きりになった天理のアリスとは真逆の方向から赤い髪の男が姿を現す。
「お前は、そのなにもつかめねぇその瞳のお前は天野天理だな?」
見知らぬ男は見たところ天理より年上だ。一応敬語を使っておく。
「誰ですか…?」
「俺か、黒龍連だ」
その名前に聞き覚えがあった、それは高校生最強、知らない人物のほうが少ないだろう。しかし黒龍連を前に動揺もしなければ態度も変えない天野天理。
「最近下から変な情報がよく届いてな、前なんて天野天理は障害者なんてよくわかんねぇチャットもきやがった、お前は何者だ?」
黒龍は明らかに先ほどの天理とは目つきが変わっていることに気づいた。
そして黒龍に言うのだ、天理は黒龍がどれだけの化け物か知っているにもかかわらず態度を変えた。
「お前もか…お前も私の秘密を知ったのか…誰がばらしたか知らないがばらされるわけにはいかねぇよなぁ、あぁ?」
黒龍はその態度の豹変っぷりに驚きを隠せない。
「それに黒龍連、お前には下が多すぎると見た、ばらされると私はまた普通に生活できなくなる」
普通に生活、その言葉で黒龍はいう言葉を間違えたのを理解する。天理という人物は自分の秘密を隠すために普通の人間として生きたかった人間なのだろう、しかし、今黒龍が知っていることを教えてしまった。
「たとえ相手が黒龍連であろうと私は容赦しない」
その目は本気だ、いまだにつかめない目ではあるものの本気で黒龍連を潰す目をしているのは確かだ。
「なるほどな、バラしゃしねぇよ」
「信用性がどこにある…口封じのために消えてもらう」
天理は容赦なくあの黒龍連に喧嘩を売る。
「俺に喧嘩を売るとは命知らずだな」
天理の攻撃を華麗にかわす、つもりだったがダメージを受けた、手で防ぎきったものの相当な力。
「なら俺も容赦はしねぇぞコラ」
黒龍は脅すが全く効かない。黒龍は黒龍の高校三年生の中では最強の生徒にも月山にも堀下にも本気で戦ったことなど一度もない。容赦はしねぇは脅しである。いつか黒龍より強い人間が現れ第三者が見ていれば容赦はしねぇといった黒龍を倒したその人物は最強の座を手に入れ黒龍は注目を浴びず普通の生活を送ることもできたかもしれない。しかしここは路地裏、場が悪い、その証人者である第三者が存在しないためここで黒龍が負けても第三者がいないため信憑性が欠けるだろう。だからこそ、黒龍は仕方なく月山や堀下よりも格上な次元にいるこの天理を黒龍に喧嘩を売る相手にしては十分な存在と認めたうえで軽くいなしたレベルでは自分がやられることを理解した黒龍は本気で天理と相手をする。
天理の強烈な攻撃は続く、しかし本気で対処する黒龍ですら避けることはできず防ぐことで精いっぱい。
「その程度か、黒龍連」
防戦一方だった黒龍連だったがようやく攻撃に移行する。黒龍の攻撃は当たったものの定めた位置からはそれる。ただものではないと黒龍は再認識した。黒龍は次こそ容赦なく天理の腹めがけて殴りを入れた。直撃した。
「ぅっ…あっ…」
崩れ落ちる天理。黒龍が相手した人間ならもうこの時点で決着はついている。ガタガタと震えだすか、謝るか、しかし天理はまだ立ち上がる。ここまでやってしまった以上止まらない黒龍。二発目の腹に攻撃、これも直撃。またしても崩れ落ちる天理。怯える様子も震える様子もない、まだ立ち上がる。これには黒龍が逆に戸惑う。しかし天理は明らかに弱っている。今の天理なら、堀下2人と月山2人の四人でかかれば勝てるかもしれないレベルまで弱っている。
「まだやんのか?」
「秘密を知られた以上はな…」
まだ天理は黒龍に反抗する。腹を抑えながらだが力はまだ十分に残されている。黒龍は最後の一撃を天理の腹にお見舞いする。天理は倒れつくす。しかしまだ立とうとしているがあまりの痛みに立てないといった感じだ。
その時、黒龍のよく知る声が聞こえた。
「また暴力を振るっているんですね、それに下級生に、しかも女の子ですよ」
「未来か」
しかし、圧倒的劣勢な天理から未来に対して怒りの声、普通の人間なら未来に助けを求めてもおかしくないだろう。
「喧嘩中に水を差すな、まだ決着はついていない…」
その言葉に黒龍、未来、両者が驚く。立とうとしている天理、しかしもう立つことすらできない天理、決着はついているとみてもいいが天理は諦めていない。黒龍は理解する。この女は強い、俺より強い、それは暴力的な意味ではない、精神的な意味でだ。この天理という女にどれだけ暴力を振るってもこの女は諦めることはないだろう。だからこそ黒龍は手を差し伸べる。
「何のつもりだ…」
「俺はお前みたいな人間は嫌いじゃねぇぜ、いや、違うな、俺はお前みたいな人間が好きだ」
それは遠回しの告白。しかし、まだあきらめていないのか自分で立ち上がろうとする天理。
「好き…か」
天理は何かを企むように倒れながらも黒龍と二人きりで会話をする。
「私が好きなら私の駒になれ…最強のキングに」
「ほう、俺すらも利用するか、おもしれぇ、なら俺はお前という天野天理という人間を暴いて見せる、俺は約束は守る男だ、だから誓ってやる、秘密は言わねぇってな」
「交渉成立だな…」
この二人は遠回しだが付き合うことをお互い承認した。実質天理にキングができたということだ。
その光景を見てしまっていたアリスは天理を上回る黒龍の恐ろしさに震え、しりもちをついてしまった。未来は気づく。
「アリスちゃん?」
「ぅっ…あ…あ…」
アリスは黒龍に怯えている。しかし同時に黒龍という人物を見たような気もしなくはない。
「私が来たからもう大丈夫だよ、アリスちゃん」
未来とアリスは抱きしめあう。
その光景を見て何もできなかった3人がいた。さくら、明智、朱音だ。さくらは朱音に言う。
「そうなんですよ、香ちゃんと会う前に未来さんにアリスちゃんはって聞かれたんですよ朱音さん」
「まあねー、あたしにはタメでいいよ、さくらちゃんと香ちゃん、あの状況を止めれるの未来くらいなんだよねー」
「そうですか?朱音さん、ではタメで、それにしても天理君、まさか黒龍さんにまで喧嘩を売るとはね、それに未来さんとアリス君は知り合いなんですかね」
「なんかいろいろあったらしいよねー、アリスちゃん、慣れた人にはちゃんと話してくれるよ、さくらちゃんや香ちゃんにもねー」
「私も仲良くしたいなー」
「ふむ、私も学年は違えど同意見さ」
そして7人は終結した。明智、さくら、未来、朱音、アリス、黒龍、天理だ。
「私はさくら」
「さ…くら?」
「俺は忘れたか?黒龍だ」
「こ…こくりゅう…」
「私は明智香だよ、アリス君」
「あ…けち…」
アリスは少しずつではあるが慣れ始めた。
「さくら、明智」
しかし黒龍には恐怖感を持っているのだろうか。
「黒龍は怖い…」
「まあそうだろうな、お前は天理と仲がいいらしいな」
「そうだよ…はい…」
「大丈夫だ、俺は天理と付き合ってるからな、お前に悪さはしねぇよ」
「えぇー!?」
その言葉に全員が絶叫する。
「おい…」
言うなよ、という表情で腹に手を当てながら呟く天理。
「天理君、黒龍さんと付き合っていたのかい?やはり君は私の想像の上を行くね」
「まあ…一応…」
「だがな天理、ここにいるやつには教えてもいいと思うぜ、未来も朱音も、そこのさくらとか明智は知らねぇが馬鹿にするやつではねぇ、俺が保証する」
「天理ちゃん、私も何とも思ってないよ、その程度で壊れるわけないじゃん、香ちゃんも受け入れてくれるよ」
黒龍とさくらの言葉に天理は迷う。天理は何かを諦めた。
「隠し事はいつかばれる、持ってしまった時点でばれるのは必然だ…それが早くなるか遅くなるかのだけのこと…私はただ遅くしたかった…それだけ、会ってしまったものはいつか別れ、信用したものはいつか裏切られる…生まれてきた生物がいつか死ぬのと同じように…」
それだけ言うとここのメンバーにだけは秘密を告白した。特に誰も偏見を持つ者はいなく憐みを持つ者はいなかった。
そしてこの七人はいつしか仲良くなっていた、気づけば夕方、天理は五人と別れ黒龍と二人きりになった。
「少しくらいリードしてくれてもいいんじゃないか…?」
「あくまで俺はお前を探る、お前は俺を駒にする、が第一条件だろ?」
「物事は最悪のケースを考えなければならない、まだ私の中学に私よりも強い人物は存在するかもしれない、だがお前、黒龍連をつけておけば私に逆らうことは黒龍連に逆らったことになる…」
「なるほど、もう俺は駒として利用されてる訳か、ならお前と遊んでお前の本性を暴く、お前の好きなジャンルはなんだ?」
「趣味から探るというわけか…こういう時は多分付き合ってる人間は映画館に行くだろう、そこで誰かが私とお前の二人きりの場を見つければ騒ぎになる、お前にとっては映画にも恋愛、バトル系、種類がある…どちらにも好都合だな」
「ふん、考えたな、決まりだな」
そしてこれから黒龍と天理の探り合いが展開される。
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