第5話 天理の日常
天野天理という人物は赤色が好きだ。ありとあらゆる私物のほとんどが赤、またはそれに近い色で埋め尽くされている。カーテン、部屋の壁、勉強道具。また、トマトやリンゴなど赤い食べ物も好きだ、逆に嫌いな色、食べ物は特にない。天理の赤に対する拘りは異常である。10人中天理は色で例えると何色?と質問すれば最低でも9人は赤と答えるだろう。しかしチェスには赤がない、白と黒のみ、天理は思っているのかもしれない、なぜ白と黒があって赤がないのだろう、と、しかし実際のところそれを思っているか思っていないのかは天理にしかわからない。天理の思考は誰にもつかめない。もしかしたら自分だけが天理のことを知っているつもりでも実は全然違っている可能性もある。天理は赤が好き、というのも実際のところ確定とは言い切れない、ただ趣味で赤ばかりに染め上げているだけかもしれない。もしかすると天理の本性が暴かれるかもしれない。
密室
「天野天理という人物はあのゲームにはもってこいの人物だった、しかし彼女を入れるにはいろいろと問題が発生する。まず、第一に本性がつかめない、あのゲームは本性を暴くゲーム、見ただけなら無気力に入るのだろうが半分当たり、半分外れ、チェスやある一定の事柄に対すると冷静になり何も考えてないようでちゃんと最後まで考えをしている。無感情、無表情を入れるのはありだったかもしれない、ただ、彼女に関しては本当に無感情だったのか、となると本性は無表情になる。しかし彼女をあのゲームに加えるにはリスクが大きすぎた。花野アリスと同学年、横口未来と同じく過去も現在も変わりがないため偽性格にお題なしを二つ使わないといけない。ただでさえお題なしのプレイヤーは不利な状況に置かれる、二人もお題なしがいればお題なしにデメリットしかなくなる。それに本性欄に情報がなさ過ぎて他のプレイヤーと同じ答えを入れる必要が出てくる、そうなるとゲームが成立しない。そこで補充したのがバランスを保つための琴吹海利だ。正直に言うと彼女には勝ち目はない。ただ、独裁的なアリスにつけば威圧的な礼を、威圧的な礼につけば独裁的なアリスを潰せることができる、また、天才的な人間もいる中単独で勝つのは不可能、天才的な人間に利用される可能性もあったが貶めるために琴吹海利という忠誠心の高い琴吹海利を投入した、天理はなかなかに逸材だったがポイントで本性を増やされたら我々でも太刀打ちできない、つかめないでも入れるべきか。無表情を本性とし、あとの飾りは赤が好き、あとは…」
昨日の就寝は午後の9時、そして7時の起床だ、睡眠は十分だ。今日は月曜日、中学生の天理にとっては一番嫌いな曜日。
「行ってくる…」
「弁当忘れてるわよ」
「ん…」
親から弁当を受け取る天理。
「今日部活は?」
「多分ある…」
「そう、じゃあ行ってらっしゃい」
「ん…」
登校中、警戒は怠らない、もちろん琴吹海士に対してだ。
警戒しつつ学校に到着。席に座る天理、一番右端前の席は真ん中よりはましだが教室の玄関が前にあるので左端後ろの席が良かったのが正直なところだ。
いつもの光景、友達同士話しつつ、黒いパーカーの少女はいじめられ、話している中にさくらもいた。だが無関心、興味を示さない。
「眠い…」
十分な睡眠を取ったのにも関わらず天理は机で寝始めようとする。すると誰かがやってきた、名前は忘れた。興味がない。
「天理、今日も休むの、今日は補習とかないよ」
思い出した、天理の真相に迫ってきた女子生徒だ。
「今日はいく…」
少し驚いた表情だったが。
「なら良かった」
等と話しているとチャイムが鳴った。朝礼だ。
昼食、急いでご飯を食べ昼休みに席から立つことなく眠りに入る。天理は相当寝るのが好きなようだ。
目覚めた天理、もう少しで授業が始まる。天理は携帯で誰かとやり取りをしたかと思うとチャイムが鳴り、いつも通り、授業に励むのだった。
放課後、今日は補習もない、頭痛も信用性がなくなってきている。同じ部活の生徒が天理に近寄ってくる。最悪の部活の時間だ。そんな時、放送が流れた。
『天野天理さん、大道寺さくらさん、明智香さんが呼んでおられます、至急、理科室まで来てください』
もちろん天理の計画通り、天理は明智先輩に呼ばれたから部活行けないかも、と放送で聞こえているとは思うが念のために2年の部長に言うように伝える。
天理は急いで理科室に向かう。明智とさくらの姿があった。
「天理君、さくら君、君たちには少し話しておくことがある、今日は部活を休みたまえ」
「なんですか明智先輩…」
「どうしたんですか明智先輩」
二人は顔を見合わせる、もちろんこれは全てフリである。
学校から出る明智、さくら、天理。だがまだ最悪の事態を想定する。
「わかりました、さくらさんと、明智先輩は先に行ってください、私は後から行きます…」
さくらと明智は分かったかのようにどこかへ立ち去る。
天理はそろそろ打開策を考えなければならない。琴吹海士というストーカーをどう対処するか。今のところ気配はないが見られている可能性は十分にある。なるべく人気のない路地裏を通る。そこで赤い髪の男が何か珍しいものを見るような目つきで天理の前にやってきた。その男は天理の目を見る。
「お前は見たことのない目をしているな、光のような目でも闇のような目でも普通の目でもつまらねぇ目でもゲス以下の目でもねぇ、初めてだぜ、俺が人の目を見てつかめねぇのは」
変なのに絡まれた。ここは逃れるべきだろう。見た感じ高校生っぽいが。
「急いでるんで…」
「おい、お前名前は?」
声が聞こえたが無視して早足でその場を去る。もう少しで目的地に着きそうなとき、路地裏に黒いパーカーの少女が座り込んでいた。天理のクラスメイトだ。近づく。パーカーの少女は天理に気づいて逃げ出そうとする。
「待て…」
天理の言葉に足を止めた。
「この偏見でできた世界に復讐したいと思わないか、アリス…」
「ぇ…あっ…えっと…」
話が通じないのは分かっている。天理はアリスに対して怒りもなければ憐みも示さない。
「私の作戦が成功すれば私にもアリスにもプラスになる…」
「え…ぇ…」
「琴吹海士を使う…」
その言葉に何かを思い出したかのように、いじめられていて琴吹海士の存在を忘れていたのかもしれない。
天理は誰にも聞かれないように作戦内容を震えるアリスに話す。するとアリスは笑みを浮かべた。邪悪な笑みを。
海士は裏路地に行くも、またも天野天理を見失った。すると赤髪の男が近づいてくる。
「なにやってんだお前」
「あ、いえ、何でも」
見たところ高校生だろうか、メモ帳を取り出し男は問いただす。
「つまらねぇ目だなぁ、まあいい、お前名前は」
「こ、琴吹海士です」
「お前か、待てよ?てことはさっきのが天野天理か」
まるで海士のことを以前から知ってるかのような口ぶり。
「あ、貴方は」
「黒龍連だ、お前天野天理のストーカーしてただろ」
中学生最強と言われる堀下という女すら軽くいなした高校生最強の人物、黒龍連、その言葉を聞いただけで海士は震えだす。黒龍に嘘など吐けない、ウソがばれたら最悪殺される。
「は、はい、警察にだけは」
「まあいい、お前の姉ってどういう性格だ?」
「姉がいるの知ってるんですか?もう姉が高校1年生になってから離れました」
「その時の性格は」
「一言でいうと暴力的ですかね」
「なるほどな、まあお前男だろ、男なら正々堂々くだらねぇことしねぇで告れや、明日も学校なんだろ?ストーカーでもしねぇで告りやがれ、俺の部下にお前の行動把握済みのやつがいんだよ、次してんの見たら半殺しにするぞ」
海士は磯野川から弱みを握れと言われ黒龍からストーカーを辞めろと言われどちらか裏切ることになる。もちろん黒龍に磯野川がかなうはずがない。海士は告白する決心を決めた。
ようやくついた小さな喫茶店、さくらと明智は天理を待っていた。
「待たせた…」
「やあ天理君、今日は磯野川から逃げられたね、ストーカーの方からも逃げられたのかな?卒業までに一回もこの作戦を使われないと思っていたよ」
「もう少し出し惜しみしたかったところ…」
「でもこういうのもいいじゃん」
「しかしだ天理君、二日連続は疑われるから明日は避けようじゃないか」
「もちろん…わかりやすい真似はしない…」
「だが天理君、さくら君、たとえ陸上部、バスケ部に入っていたとしても磯野川のような一人は調子に乗る人物は存在するといっても過言ではない」
「まあ私は天理ちゃんと香ちゃんと会えたしそれだけで十分なんだけどねー」
「もし私が本当の天理君やさくら君を知っていて部長候補にするならば天理君、さくら君は副部長だね」
「まあ磯野川を部長にも副部長にもなんとしてもしなかった香ちゃんだから説得力があるねー」
「そんなことをしたらこれからのテニス部が不安すぎて私が困る」
「崩壊間違いないな…」
「一応2年の部長君には本当の天理君を知らないからさくら君を部長候補にしておいたよ、そのためにも天理君、さくら君を陰で支えてくれたまえ、多分副部長は次に上手い人を選択するだろうね、天理君に学ばせてもらったからね、上に立つものは必ず強ければいけない理由などない、真の頂点は意欲、人間関係、そして他人に楽しさを与えられる人間とね…」
「そういう意味では私は部長にも副部長にも向いていない…意欲も人間関係も楽しさも与えることはできない…さくらこそ部長にふさわしい…」
「問題はまとめ上げられるか、そのための天理君だよ、陰でのリーダーというべきだね、君がテニス部に興味がないのは知っている、しかし、就職のために絶対にやめないのも知っている」
「でも天理ちゃん上手くなってるけどねー、私後衛だし天理ちゃん前衛だし一緒に組めれば文句ないんだけどな~」
「そう、さくら君の言う通り、強さ弱さよりも人間関係、そして楽しさ、君たちがいなければ私は気づくことはできなかっただろう」
「サーブミスとかしちゃったら気を遣うけど天理ちゃんとか香ちゃんとかだったら気を遣わなくていいからね、まあ香ちゃん後衛だから組めないけど」
「ふむ、なら二年の部長君に他の前衛後衛を入れ替えてローテで組ませてみてはどうだろうかと提案しておこうか」
「絶対嫌だ、磯野川前衛だしいずれ私と組むことになるじゃんそれ」
「そうだったね、今の二年が引退してからがよさそうだね、でも君たちは磯野川のような人間にならないことを信じているよ」
「当り前…」
「もっちろーん」
喫茶店で三人はゆっくりと過ごし三人は帰宅した。
天野宅へ到着、もちろん警戒は怠っていない。
「ただいま…」
「おかえり、天理ご飯できてるわよ」
「ん…」
ご飯を食べ終え風呂に入ると8時過ぎまでネットで会話し父が帰ってくる、いつものように何かを一気飲みし天理は9時前には寝るのだった。
「おやすみ…」
次の日、いつも通り7時に起き、十分な睡眠を取っている。
今日は弁当を忘れることなくいつも通り警戒しながら登校、学校の席に着く天理。
そしてこの日から波乱が起きるとはだれも予想はしなかった。
教室の玄関から一直線にやってきたのは琴吹海士。
「天理さん、実はどうしても伝えたいことが」
「なに…?」
無理矢理無人の教室のベランダに呼び出された天理。
「なに…?早くして…眠たい…」
海士は決心したのか。
「実は僕は、天理さんのことが好きです」
と言ってきたが、特に天理は動揺しない。まるで獲物が食いついたかのような邪悪な笑みを浮かべる天理。
「無理…」
海士は残念そうにする。しかし。
「でも、アリスは琴吹のこと好きらしい…」
予想外の言葉に逆に海士が動揺する。
「いやでもアリスさんは…」
「アリスさんは何…?」
「いじめられてるし」
「偏見…?」
「え?」
「私がいじめられてたら私のこと好きじゃないんだろうね…」
「いや、そういうわけじゃ…」
「実際アリスいじめてるの…タイマン?」
「どういうことかな?」
「数いないといじめられないんでしょ…一人でいじめる勇気はないんでしょ…」
現状を把握する海士、確かに無数の人でいじめている。
「アリスに告ればおっけーもらえるんじゃない…?」
それだけ言うとベランダから出て席に座る、そしていつも通り寝そべる。
事は急に動き出す、どんな人間にも失敗はある、それは天理も含めてだ。休憩時間、天理はあるものを落とした。それを拾い上げて確認する女子生徒、その女子生徒はかつて天理の真相に近づいてきた女子生徒だった。
「え…天理って…は…」
「見たな…?」
天理は慌ててそれを奪い取るように取って立ち上がり、その女子生徒を黙らせるため顔面を躊躇なく殴り飛ばした。一発でかつて真相にたどり着こうとしていた女子生徒はダウンした。その光景をアリス、さくら、海士含め、全員が驚愕する。ダウンしたにも関わらず天理はその女子生徒を一方的に蹴り続ける。天理は大きく態度を変える。
「知られた以上始末しねぇとなぁ、あぁ?」
いつもの無感情の瞳はなくあるのは殺気。殺意の目だ。その光景は中学最強の堀下など可愛いレベル、高校生最強の黒龍連の女性版といってもいいほどの恐ろしさ、アリスをいじめていた人間ですら驚愕している。怖すぎて誰も止める人間はいない。ついには血しぶきまであげる。
「言い…ません…」
「声がちいせぇぞこら」
「ぜ、絶対に言いません」
今ある全力でその女子生徒は天理に許しを得ている。天理は女子生徒の髪を引っ張り上げ耳元で言う。
「だから言っただろ、私を知れば態度を変えるって」
それだけ言い残すと先生に見られていたことを知っていたのか天理は。
「職員室に行けばいいんだろ?」
と先生に向かってまで反抗的態度を取る。
二時限目から四時限目までは天理は教室にいない。天理が知られたくないもの、それを知った少女は病院送りとなった。
説教を受けたのか天理は昼食から戻ってくる。しかし殺意の目は変わらない。弁当を食べる様子もない。天理の支配が始まる。
「おい琴吹、来い」
もはや別人、以前の天理ではない。もちろん逆らうことはしない。
「は、はい」
怯えながらやってくる琴吹海士。
「お前アリスに告ったんだろうなぁ?」
「え、いや」
天理は近くの壁を思い切りぶっ叩いて答える。
「あぁ?アリスに告ってこい、命令だ、それとも私とやんのか?」
絶対的支配権、海士は逆らうことなどできない。一人身のアリスの元へ向かう。
磯野川に天理の弱みを握れと言われた海士、弱みを握るにはいいチャンスだった、
しかし、その磯野川より明らかに強い女に逆らうことなど自殺行為だ。
続いて天理はさくらではないテニス部の生徒に告げる。
「今日は休むから伝えとけ」
「は、はい…」
5限目からの授業、天理はノートに何も書き写さずほぼ寝た状態で授業を受ける。
先生はその態度にわかっているもののどう対応すればいいのかわからなく見て見ぬふりをした。放課後、明智から個人チャットが来ていたが内容を確認する前に職員室に行かなければならない。
職員室では天理の親が見知らぬ大人に謝っていた。しかし、天理は自らの親に対してさえも殺意の目を向けている。
「お前らのせいだろう…」
先生に謝るように勧められたが。
「私に謝る権利はない…勝手に人の個人情報を見られたんだから…」
その見知らぬ大人は天理が病院送りにした生徒の親らしく今はその生徒と通話しているらしい。話が終わったのか頭を上げてください、と態度を変える。
「偏見か…」
特に明日から何日か休め、や退学処分はなかったらしい。天理の親は天理に怒るも天理は小さく呟くのだった。
「なら見捨てろよ…」
時間は5時、明智のチャットを確認、昨日の喫茶店に来てほしいらしい。
喫茶店に到着。明智と私の話が始まる。
「さくら君から聞いたよ、取り乱すなんて珍しい、言及をするつもりはないが例の、私にもさくら君にも教えられない秘密かい?」
「まあ…」
「誰にだって知られたくないことはあるさ」
しかし天理はこの失敗で完全に正気を失ったわけではなかった。天理のキレた性格を利用し琴吹海士とアリスを強制的にくっつけることができた、これは昨日アリスと話していた計画だ。そしてさらに天理のキレた印象を見せつけることにより頭痛で部活を休むなど言っても今後は真相に迫ってくる女子部員はいないだろう、逆らう人間はいなくなった。その気になれば磯野川などいつでもやれたが隠しておきたかっただけなのである。普通の学園生活を送るために、ただし、今日真相を知った女子生徒が言いふらすなら天理は女子生徒、磯野川もろとも真相を知った者すべてを始末するだろう。
「さくら君も怖がっていたよ」
「手を出す相手くらい選んでる…さくらには出してない」
「私が知ったらどうなるのかな?」
「場合によっては明智もやる…」
「なるほど、そこまで知られたくないんだね、一応友達ではあるけどこの情報が堀下に行くと面倒くさいことになりそうだ、私でも止めれないかもしれない」
「堀下が真相を知らない以上手を出すつもりはない…あくまで私は真相を知った人間だけ…でも、真相を知るようなら明智の友達でも堀下はやらせてもらう…」
「君の場合、堀下や、黒龍さんのような支配ではなく、口封じが正しいのかな」
「そう、私はのんびりしたいだけ…」
「気になるが聞かないほうがよさそうだね」
「死にたくないなら…」
「ふむ、心得ておこう、これで当分は部活さぼりの計画を立てなくてもよさそうだね」
「まあ、今回はやらかしてしまったがそれがあるからまあいいか…問題は言いふらすか言いふらさないかだけど…」
「言いふらさないに賭けたいね」
会話を終えると帰宅することとなる。癖になってしまったのか、警戒心だけは怠らない。帰れば親の説教が待っているだろう。
今日は問題がたくさんある。その日、赤い髪の男が乗り込んできた、顔を知るものも少なくはない、黒龍連だ。生徒に問いただす黒龍。
「おい、放送室ってどこだ」
生徒は震えながら案内する。
放送室の生徒に黒龍は命令する。
「お前が部長か?まあいい、天野天理と磯野川早見を呼び出せ」
天野天理というワードに震えだす生徒。その様子を黒龍は見逃さなかった。
「あぁ?なんだあいついじめられてんだろ、まるで脅迫されたような顔してんなぁ」
「天野天理さんっていじめられてたんですか?だからあんなことを」
「おい、詳しく聞かせろ」
生徒は噂にはなるが大まかな話をする。テニス部の生徒の暴行を加えたこと、態度が急変したらしいこと。
「テニス部には裏がありそうだな、とりあえず呼べ」
「は、はい」
『天野天理さん、磯野川早見さん、至急、放送室にお越しください』
そうすると短髪の髪がくしゃくしゃした少女一人だけやってきた。
「え、この人って…」
「当ててやろうか?お前はいじめてる側の磯野川早見だな、目を見ればわかんだよ、ゲス以下の目しやがって」
「い、いじめてなんかいません」
「俺の前でとぼけるか、俺の下から報告受けてんだよなぁ、お前の中学にも俺の下はいるんだよ、実際見てるやつもなぁ、これだけ言ってもとぼけるか」
「でも、少しです」
「深刻そうにしてたけどなぁ、お前が原因なんじゃねぇのかコラ」
「ひぃっ」
「どうする、ここでぶん殴られてまだ続けるのと謝ってもうしないと誓う二択だぜ」
「あ、謝ります、もうしません」
「言ったからなぁ、俺の下が見てること忘れんなよ、次やってんの見かけたらぶっ潰しに行くからな」
「は、はい…」
「もういい、失せろ」
磯野川は去って行ってしまった。
「おい、ところでお前ら、天野天理の写真とかねぇのか?」
「はい、職員室から持ってきます」
そして黒龍はその顔に見覚えがあった、黒龍が初めて目を見てもなにもつかめなかった少女、同時に興味が沸いた少女、その赤い少女は天野天理。
なかなかいい駒を感謝するよ。そんな表情でアリスは海士の告白を承諾した。アリスが興味のある人間は目の前にいる海士ではない、未来、光、そして今日天理が加わる、この三人だけだ。この人間は琴吹海利と似ているところがあるうえに苗字も同じだ。もし弟なら利用できるだろう。
「路地裏に行って何するの?」
海士は尋ねる。
「あっ…ぅ…えーと」
海士は強いわけでは無ければ弱いわけでもない、普通だ。しかし、気は弱い。
もう少し強い駒が欲しかった、と言わんばかりに、アリスが少しずつ本性を現す。
「か、いし…?」
「ん?」
「かい、り?」
「なんでお姉ちゃん知ってるの?」
「ふふっ…いいだろう…」
「アリスさん?」
「僕と天理は繋がっている、僕の言うことを聞かなかったらどうなるか、分かるね?」
唐突の態度の変化に驚きを隠せない海士。言われてみればなぜ天理はアリスに告るように言ったのか、この二人はグルだった、何かが一致しているのだろう。何かの契約かもしれない。
すると意地の悪そうな女性二人組がアリスを見つける。
「やれ」
「え?」
「男だろう?二人位余裕だろう?逆らうなら天理を呼ぶぞ」
天理と相手するか意地の悪そうな女性二人を相手にするかの二択、もちろん後者を選択した。
アリスの企みが始まる。
「ただいま…」
「天理、話をしましょう」
父も帰ってきていた。
「なんで暴力なんて振るった」
「黙れ…」
「自分が何してるのかわかってるの?」
「そんな人間にしたお前らのせいだろう…」
親には何のことだかわかっていた。
「私はバレた人間にしか振るうつもりはない…お前らも言いふらすならここで始末する…」
「振るっていい理由にはならないだろう」
「おやすみ…」
「待て、話は終わってない」
鍵を閉めた。
親の声がうるさい中何かを大量に飲み眠りにつく。
明智にとってのキングは黒龍連、しかし天理にとってのキングは大切な存在、恋人なのだろう、今の天理にキングはいない。仮にキングができたとしてキングはどんな手を使っても守らなければならない。天理がポーンであろうがクイーンであろうが関係ない。その気になればすぐにキングに捨てられる。だからこそ天理はキングにすら反抗する。白でもなければ黒でもない白の皮を被った赤のポーン。どうせキングを守るために捨てられるのであれば一マス一マスと進みクイーンになって赤の駒としてキングにすら反抗する。味方、恋人など所詮ひと時だけ、その味方や恋人すら天理は駒として利用するだろう。天理に仲間など必要ない。どうせ裏切られるのだから。天理にとっては全ての人間が駒に過ぎない。駒としか見えていない。それは明智、さくら、親にも言えることだ。これこそが天理の思考。天理は感づかれるわけにはいかない、この秘密を、悟られてはいけない。この世界は天理にとってゲームでしかない。悟るか悟られるかの悟りゲーム。天理は悟られないことに意識している。他の人間には興味もなく関心もない。人間だとすら思っていない。天理は一歩、また一歩とひっそりと最後のマスまでたどり着こうとしている。
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