第4話 束の間の休日

 日曜日、天野天理からすれば最高の至福、しかし一歩間違えれば最悪の休日になる。

 午前、天野宅から出る、弁当を持ち周囲を警戒している、電柱や民家の角などあらゆるところをくまなくチェックしている。警戒する人物、琴吹海士に会わないために。

 家の周辺まではバレてしまったがまだ家自体はバレていない、そして、これから行くところには絶対にばれるわけにはいかない。駅に到着し、一駅、もう都会だ、そこのとある建物に警戒を怠らずに入る。だが、常に最悪の事態を想定して行動しなければならない、それが天理の考えだ。

 ようやく到着、チェス同好会、そこにはいかにもスポーツガールな少女、大道寺さくらがいた。


「おっはよー、天理ちゃん」


「さくらか…」


「今日こそ勝って見せるからね」


「うん…頑張れ…」


 さくらは驚いた様子で天理の後ろの人物を見る。


「あれ?香ちゃん?」


「明智か…受験勉強は…」


 現れたのは明智香(あけち かおり)、銀髪のロングの髪をしておりその姿は可憐の一言がふさわしい。明智は部活引退後、チェス同好会に顔を出さなくなっていた。


「ここでは久しぶりということになるね、さくら君、天理君、たまには息抜きも必要ではないか」


「ふぅん」


 興味なさそうだがなにか裏がありそうに感じる天理。


「ちょうどいいね、まずは次こそ香ちゃんをチェスで倒しちゃうよ」


「ふふっ、確かに、私は引退後から来ていないからね、天理君にはもちろんかなわないけど、さくら君にもかなわなくなっているのかもしれないね」


「ほんとに息抜きだけ…?」


「どゆこと天理ちゃん?」


 さくらはよくわからないのか疑問を浮かべる。


「私もここで学ばせてもらっているからね、やはり天理君には感づかれていたようだ、もちろんチェスもしに来たよ、それよりもだね」


 天理とさくらは明智の話を聞く。


「君たちは同クラス、確か私の知る情報が正しければ花野アリス君という人物に心当たりはないかね?」


「あ~…」


 さくらは暗そうに話す。


「障害者だからいじめられてるよねいろんな人に」


「君たちもいじめているのかね?」


「磯野川と一緒にしないでよ」


 磯野川早見(いそのがわ はやみ)、さくらと同じく短髪だが髪はくしゃくしゃ整った顔立ちとは言えず、明智、さくら、天理が嫌う2年の天理にスマッシュなどでいじめをする人物である。


「おっとこれは済まない、あんな人間と一緒にするつもりはないよ、そのアリス君という人物をいじめている人物を教えてくれないだろうか、上からの指示でね」


「上からの指示…キングがいる訳か…」


「またそうやってチェスで例える~、天理ちゃんの悪い癖だよ、でも多すぎるよね」


「私は人間に興味がない、クラスメイトの名前も覚えてない、さくらは友好的…さくらならわかるはず…」


「まあ、うん、そうだね、私の知ってる限りだけどものすごい量いるよ、私の友達もいじめてる人いるしね」


「ふむ…では後ででいいから時間があったら聞かせてくれないかね、それと、ダメ押しで聞かせてほしいのだが琴吹海利という人間を知らないかね」


「琴吹…琴吹海士じゃなくてか…」


「なんか天理ちゃん付きまとわれてるよねー」


「ふむ、海士と海利か、可能性が高い、明日でいいから姉がいるなら名前を聞いておいてもらえないかね」


「別に…今日でも聞けるけど…」


「どういうことだい?」


「いつも日曜日は私の最寄り駅で待ち伏せしてる…」


「うっわー、天理ちゃんもうそれストーカーだよ」


「大変な目にあっているようだね、とりあえず情報は3人グループのほうに載せようか」


「おけおけー」


「ん…」


 会話を終え携帯を開く。明智、さくら、天理の3人グループ、最後の文章は、俺のスーパーオメガドライヴがお前たちを越して見せるぜ、と書かれていた。さくらの文章だ。もちろんさくらは普段こんな喋り方をしないがSNS、ネットではアニメの男のキャラになり切って話している。いわゆる中二病だ。ネットではさくらは男なのである。



昼食


「まだ香ちゃんに勝てないー」


「さらに実力を増しているね天理君」


「ふん…」


 久しぶりにチェス同好会で3人の昼食。


「ところでだ、さくら君、スーパーオメガドライヴとは何かね?」


「スーパーオメガドライヴとは…」


「はぁ…」


 天理は長すぎて聞く気にもなれないので耳をふさぐことにした。


「終わった…?」


「なかなか考えられている機能だね」


 どうやら説明は終わったようだ。


「そういえば天理君、君の悩みはその琴吹海士というストーカーとそして磯野川のいじめだね、後者に関しては後々さくら君にも及んでくるかもしれない、しかし私は最強のキングの支配下となった」


「そのキングが何者なのか知りたいところだ」


「私たちの中学の最強の人物さえ凌駕する存在だ」


「堀下…」


「そう、堀下は女でありながら男女年齢関係なく最強クラスだと思っていた、しかし上には上がいた」


「堀下を凌駕する存在…クイーンにナイトを融合させたチート駒…」


 さくらはひらめいたかのように聞き出す。


「それってもしかして…黒龍連さん?」


「ばらすつもりはなかったんだけどね、堀下以上の存在なんて一人くらいしかいなかったね」


「なんで…琴吹とアリスのいじめる人を聞いた…?」


「そこなんだよ、彼はもしかするとこちら側の人間なのかもしれない、アリス君のいじめた人間を特定する辺り天理君のいう白かもしれないね、そして琴吹君という存在もストーカーをしているようだしそういった連中にしか手を出さないのかもしれない」


 最強の駒が白に回った可能性がある、だが天理は最悪のケースも考える人間。


「それがただの気になっただけという可能性は…」


「十分にあり得るね、いつものをするかい、天理君」


「今回は間違えれば命はない…明智、そして私同様に…さくらも危機が待っている…」


「私は構わないよ…さくら君と天理君のためなら駒になろう」


「私もさ、結局天理ちゃんと香ちゃんくらいだし、憧れてるの、いいよ、今回も天理ちゃんの駒になるよー」


「今回は私にもリスクがあるが…成功すれば…」


 天理はさくらと明智に今日実行することを告げる。



 チェス同好会が終わり明智、さくらと別れた。最寄り駅、今回は敵が現れるのを待つ。

 久々に明智と戦った。戦法を変えてきたようだが天理に対しては無意味だった。

追ってきた、気づいている。


「琴吹…」


「あ、天理さーん」


「琴吹って姉いる…?」


「あれ、前お姉ちゃんがいなくなって帰ってきたから大丈夫だよって話さなかったっけ」


「興味なくて聞いてなかった…名前は…?」


「興味を持ってくれたんだね、お姉ちゃんの名前は海利だよ」


「琴吹海利…?」


「そうそう」


「ふぅん…じゃあ」


「お姉ちゃんが欲しいの?」


「……」


 天理は興味がないので無視した、もちろん追いかけまわされていないかの警戒は怠らない。家に帰ると携帯を開く、最後の文はさくらの文だ。


『これで全員だぜ、俺のナイトレーダーにかかればちょろいもんよ(ナイトレーダーとは歴代の戦士…)』


 面倒くさいので長い文章を読むのはやめ、とりあえず。


『姉、琴吹海利』


と入力した。



 いつも天野天理を見失ってしまう琴吹海士。今日も同じく見失った。急に走り出したかと思うと急にいなくなる。すると年上の女性に声をかけられた。


「あんたの行動見てたけどそういうのなんて言うか知ってる?」


「え?」


「ストーカーっていうのよ、警察に報告しちゃおっかなー」


「そ、それは」


「天野が好きなのね」


「うっ」


「ならあたしと協力しない?」


「協力って何を」


「あたしはあんたがストーカーしてることをばらさない、その代わり天野の弱みを握れ、一石二鳥よね、その弱みを脅しに使って告白すれば逆らえないわ、どう、それをあたしに伝えるの」


「君に…貴方になんのメリットが」


「最近来ないのよねあいつ部活に、いじめるネタが欲しいだけ、まああたしに逆らうなら警察行きだけど逆らわないなら告白の手伝いしてあげる」


「わかりました、貴方に付きます、だから警察だけは」


「じゃあ誓うってことね、絶対弱みを握りなさいよ」


「はい、ところでお名前は?僕は琴吹海士です」


「あたしは磯野川早見よ」



 日曜の朝か、昨日の葬式はなかなかのもんだったな。人の死か、考えたことなかったな。隣で光は寝てるが光はあのじじいが大好きだったな。心の中では泣いてたんだろうな。

 それと焼肉中、スピーカーオンで聞いていたが光もアリスも未来も知り合いだった、ほぼ確定だな。月山礼とは会えそうにない、あとは琴吹海利か。

 それよりも驚いたのがアリス、あいつあんな冷静にしゃべれんのか、結構肝が据わった態度だな。俺に慣れたらあんな喋り方になるってことか?


「おはよう連」


「起きたか光」


「今日でお別れか…じいさんともお前とも」


「寂しいのかぁ」


「んなわけねぇだろ」


 大きな木だ、何年前の木だこれ。


「じいさんはこの木大事にしてたな、今度はあたしが大事にしないとな」


「好きだよなぁ、あのじじぃのこと」


「うるせぇな」


 木の下に着く。


「この木の下で寝るか、付き合え、命令だぞ」


「また先輩特権かコラ」


「おやすみー」


 こいつ俺の膝で寝やがって俺を何だと思ってやがる、蹴り飛ばすぞ。

 まあ、今日ここにきていろいろわかったこともある、そういう意味では感謝してやるよ。



 昼食も終わり墓に一礼して帰る時間か、名残惜しいな。


「おう、連帰る時間か」


「明日の学校に響くしな」


「真面目になったなぁ、誰の影響だ」


 赤飯を持ってきた光。


「まあ来てくれたしな、持ってけ」


 赤飯を受け取る。


「おう、ありがとな、じゃあな」


「ふん、もう帰ってくんなよ」


 それだけ言うと光はどこかに行ってしまった。

 お前が呼んだんだろ。

 駅か、家まで遠いな。



 午後6時ごろだろうか。俺のグループに意外な人物からチャットだ。明智香、内容は個人チャットにお邪魔していいかどうか。つかめたのか?いいぜ、と送っといた。

そして明智との会話が始まる。さてどういう感じだ、しかし内容は意外だった。


『貴方はなぜアリスさんのいじめている人と琴吹海利という人物を知りたいのですか?』


 ただの疑問か、だが俺にこんなことを送るってことはなにか裏があるな。どう返すか。


『琴吹海利に関しては言えねぇ、アリスへのいじめを止めるためだ』


 するとさらに質問してくる。


『琴吹海利は犯罪にかかわっているのですか?』


『それに関しては分からねぇ』


 すると明智は攻めてきた。


『本当にいじめをなくしたいのであれば交換条件を提案したいのですがよろしいでしょうか?』


 俺の柄もあるし信じてもらえてねぇな。


『話だけは聞く』


 既読がつき、明智は返す。


『もし、私の後輩がいじめられていてストーカー被害に遭っていた場合、救済してくれるのでしょうか?』


 なかなか提案方法が上手いな、こんなに手際よくできる人間に見えなかったけどな。


『俺のやり方で救済する』


 もしではなく本当だった場合他にもいじめられている人間がいるというわけか。


『わかりました、では私が提案しましたのでまずは海利さんと近しい人物を私がお伝えしたらストーカー被害を受けている生徒を救済してくださいお願いします』


 なるほどな、まずはってことはどっちも情報を持ってるわけだな。一個ずつ慎重にか、いいだろう。


『いいだろう、まずは聞く』


 さて、琴吹海利と親しい人物は誰なのか。


『1年1組琴吹海士、アリスさんと同じクラス、姉に琴吹海利を持ちストーカーしている張本人です』


アリスと同じクラスだと?それにストーカーをしている張本人?海利は弟を持っていたということか。


『ストーカーの被害者は誰だ、お前か?』


『いじめられている後輩を助けてくれるならアリスさんをいじめている人間も含め答えます』


 なかなか面白い条件を出してくるな。いいだろう乗ってやる。


『助けてやる』


 そうすると一旦既読がつき何分かしてチャットが届く。


『アリスさんをいじめている人間…まだいるかもしれません』


 そこには大量の名前が書かれていた、しかし琴吹海士の名前はない。

 42人か。多すぎるな、まだ答えてないことはあるな。


『交渉は成立だ、だがストーカーされてるやつといじめてるやつの名前、いじめを受けてるやつの名前がわからねぇと助けようがねぇ』


 すると、見知らぬ名前が飛び出した。


『いじめている人物、テニス部、磯野川早見。いじめられている人物、天野天理、同様にストーカーされている人物天野天理』


 なるほどな、どっちも同一人物か、もちろんアリスをいじめている欄に名前はない。磯野川早見はアリスをいじめている人物の欄にも名前がある、確定黒だ。


『天野天理は何年何組だ、帰宅部か?磯野川早見は何年何組だ』


『1年1組アリスさんと同じクラステニス部の天野天理、2年2組、磯野川早見』


 なるほどな、上級生からの部活を通したいじめか、それにアリスは部活関係なく上級生からいじめられてんのか。


『情報感謝だ、明日から対策する』


『ありがとうございます』


 天野天理、この人物もアリスと同じ人間なのか?



 今日は日曜日、アリスちゃんはぐーぐー寝ている、昨日頑張ったからね。でも今日はアリスちゃんを家に帰す日でもある。明日からの学校、それと同時にまた痛い思いをする。この状況をどう切り抜けられるのだろう、私には一体何ができるのだろう、自分の無力さを知る私。すると電話が鳴る、朱音ちゃんだ。


『もしもし未来、今日遊べるー?』


「うーん、今日は…」


 アリスちゃんが朱音ちゃんに慣れれば大きな進展につながる。


「アリスちゃんいるけど大丈夫かな?」


『人と話すの怖いんじゃないのー?』


「慣れてもらうために朱音ちゃんを呼ぶんだよ」


『そういうことね、おっけー』


 それだけ言うと通話は切られた。どうしても心を鬼にしなければ切り抜けられない。


「おはようだね未来」


「アリスちゃんおはよう、今日はパンだよ」


「豪華じゃないか」


「今日は朱音ちゃんって人と話してみようよ」


 びくりと震えるアリスちゃん。


「大丈夫だよ、怖い人ではないから」


「殴ってきたらどうするんだい…」


「それはないよ、もしあったら私が止めるから、それに明日から学校だよ」


「地獄の時間が近づいてくるね…」


 死んだような目をするアリス。


「未来は信用に値する人物ということだね?」


「そうだよ、親友だからね。だからアリスちゃんも話してみようよ」


「親友か、僕にはできないだろうね」


「私とアリスちゃんも、もう友達を超えて親友みたいなものだけどね」


「はぁ…やれやれ」


 アリスちゃんは何かを諦めたかのように大人しく待つことにしたらしい。

 数分後、朱音がやってくる。


「未来、来たよー」


 びくりと震えだすアリスちゃん。


「えっと、アリスちゃんだったかな?こんにちは」


 朱音ちゃんは刺激を与えないように優しく挨拶をする。


「ぁっ…こ、こ…」


「ま、まあ二人とも座ろうよ」


 この空気を和ませるのは私しかいない。アリスちゃんはこくりと頷きぎこちない会話をしながら気づけば夕方、アリスちゃんには申し訳ないけど学校に行ってもらうために家に帰す必要がある。しかしそれは同時にアリスちゃんはまたいじめられることを意味する。

 しかし変化はあった。朱音ちゃんとアリスちゃんは少しずつではあるが会話ができるようになっている。


「アリスちゃんはそのパーカー好きなんだね」


「隠せるから…」


「でもそういう黒いパーカーかっこいいと思う」


「暗いのは好き…」


 もう夜、この調子ならアリスちゃんを外に出して家に届けることはできるかもしれない。


「アリスちゃん、私と朱音ちゃんと一緒に帰ろっか、二人がついてるからね」


 アリスちゃんは迷いながらもこくりと頷いた。

 最寄り駅に着く、朱音ちゃんとアリスちゃんを二人きりにさせるのは心配な私はアリスちゃんの家まで着いていくことを決める。朱音ちゃんは自分の切符を私は私とアリスちゃんの切符を買おうとしていた時、7時過ぎだろうか、朱音ちゃんのSNSからチャットが鳴る。


「あ、黒龍さんのグルチャだ」


 6時過ぎにもグルチャから明智香という人物から意味深なチャットが送られていた。

 その時に黒龍さんと朱音ちゃんが電車で帰っているときに私の携帯電話番号を勝手に教えてごめんと謝られたが別に気にしていないうえに昨日の時点で知っていた、そのおかげで思いもよらぬ人物と話せて逆に感謝していると私は言った。そしてもう一つ、黒龍さんが管理するSNSグループに朱音は入れられたらしい、人数は50人以上、内容がわからないが明智香という人物と黒龍さんは何かしらの関係があるのだろう。 

 7時過ぎの今送られたメール、それを読む。


「琴吹海士、磯野川早見をつまみ出せ、え、裏で暴力振るってるのかな?」


 しかし私は琴吹海士という名前に心当たりはないが似たような名前の人物になら心当たりがある。

 更に黒龍さんからのチャットは続く。


「天野天理を探し出せ、うーん、心当たりがないなぁ」


 しかし、天野天理に関してはつまみ出せではなく探し出せになっている。天野天理、そのワードを聞いた時アリスちゃんは駆け寄ってきた。


「はぁ…天野天理は…」


 何かを諦めるアリスちゃん。もちろん私の隣には朱音ちゃんがいる。


「出席番号一番、天野天理は僕のクラスメイトだ」


 その豹変した態度に朱音ちゃんは驚く、アリスちゃんは朱音ちゃんに心を許したということだろうか。出席番号一番の生徒は比較的覚えられやすい、それによってアリスちゃんは覚えていたのかもしれない。


「天理は見た感じ僕に暴力を振るうような存在ではない、いじめにも何にも無関心といった感じだ、自分から話すようなところは見たことがない、それ以上はいじめられていて見れていないけれどね」


「これが、アリスちゃんの本当の姿?」


「そういうことになるね、朱音は未来の親友らしいし信じてみることにしよう、いいさ、僕は未来なしで帰れる」


 この様子だとアリスちゃんを朱音ちゃんに任せてもよさそうだ、アリスちゃんに新しく心を許せる人物ができた、これは進展だ。


「朱音ちゃん、アリスちゃんのことを頼んでも大丈夫」


「もっちろーん、当たり前じゃん、あたしは信じられたってことだよね、じゃ、アリスちゃんいこー電車来ちゃうよ」


「そうするよ、最後に未来言っておかないとね」


 アリスちゃんは私に告げる。


「君は優しい善人だと思っていたけど思い違いだったよ」


 確かにそういわれるのも無理はない、無理矢理合唱部に連れて行ったり、朱音ちゃんと会話させたり、明日暴力を振るわれることがわかっていながら家に帰したり、それに私はもともと自分を善人だと思ったことなど一度もない。


「なぜなら君は、僕のハートを鷲掴みにしたんだからね」


 それだけ言うと切符を受け取り改札口に走って切符を通すのを忘れてしまい、改札口の障害物に頭をぶつけながらも次こそは切符を通し障害物が開いたのを確認するのを見ると去って行ってしまった。最後のアリスちゃんの言葉、私は自宅に帰りながら考えるも全く意味が分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る