第2話 暗闇の少女

翌日

 私は昨日、駅に行く途中にパーカーの少女と会ったことを黒龍さんに話す。


「逃げられたのか、血だらけって、やる側じゃなくてやられる側だったってことか、それで人気のないところを選んで逃げてたんだな、顔は見えなかったらしいが女性に間違いはねぇな」


「昨日会った場所に血の痕跡が残っているかもしれません、その血をたどってみるのはどうでしょう?家は絞れるかもしれませんよ、こんな事態放っておけません!」


「確かにそうだな、今日は圓崎と紫藤は呼ばずに三人で行く、お前ら二人は痕跡を追って家を探してくれ、俺は他を手あたり次第探す、数がいたところで見つからねぇと意味がねぇしな」


「暴力は…」


「振るうなだろ?わかってんだよ」


 今日は三人でパーカーの少女を探すことになった。



 学校が終わり、駅にまでやってくる。


「まずは聞いとかねぇとな、どこだ?」


 ここです、私は昨日見つけた場所に黒龍さんを案内する。わずかだけど赤い模様が見える。


「なるほどな、なら痕跡は任せたぜ、6時に駅に落ち合うか」


「はい、わかりました」


 私と朱音ちゃんは痕跡を辿ることにする。



 よし、俺はとりあえず数打って探すか。

 一時間経過、見つからねぇが未来たちが家くらい特定してるだろ。俺は6時にその家に訪問してみたいところだが他人が訪問しても追い出されるか、と未来たちが家を見つける想定をしていた中、路地裏から音が聞こえた。鈍い音だ。この奥だな、そこには二人の女とパーカーを着た少女がいた。

 一人目の女はパーカーを着た少女の首を締め上げもう一人はわき腹に蹴りを入れている。なるほどな、いじめか、俺も暴力で人間を支配してきた、だからこそ止める権利はないのかもしれないが少しくらい善の心はある。オレには抵抗力があったが未来たちが見たら心を苦しめるだろう。


「オイ、お前ら何してるこら」


 俺に気づくと女二人は去って行ってしまった。

 パーカーの少女は崩れ落ちもがいている。


「大丈夫かお前」


「ぁっ…ぇ…?うぅ…」


 今はまともに話せそうにないな、まだ時間はある、ここで休ませておくか。馬鹿だな俺も、連絡先くらい交換しておくべきだったか。

 しばらくすると後ろから声がかかる。


「見つけたよー、ぼこぼこにしようぜ」


 あぁ?俺に喧嘩を売るやつがいるとはな命知らずだな、面白れぇ。

 だが後ろを向くと男二人が声をかけているのは俺ではない、視線はパーカーの少女に言っている。俺もいじめてる側の構図に入れられたか?男二人は俺のことは眼中になかったらしいが後ろの一人が気づいた。


「あ、貴方は黒龍さん」


「オイ待てよ」


 逃げ出す男二人のうち前側の男を捕まえた。


「こいつに何するつもりだったんだ?」


「こ、黒龍さんならわかりますよね?」


「吐け、質問してるのはこっちだ」


「い、いじめようと…」


 確定した、この少女はいじめられている。


「こいつがなにしたんだ?」


「この人頭おかしいんですよ、話しているとイライラするほど、話が通じないというか」


「で、どこ中だ」


 どうやらこの男とパーカーの少女は同じ中学らしく中学一年生らしい。


「で、名前は」


「え、僕は…」


「お前の名前なんてどうでもいいんだよ」


 色々と事情徴収して解放した、名前にも心当たりはねぇな。がさっと声が聞こえる。パーカーの少女が俺から逃げ出すように這いつくばって移動しようとしていた。


「おい、どこ行く気だ」


 パーカーの少女は俺が怖くなったのかパーカーで顔を隠す。そういえばまだ顔を見ていなかったな。


「顔を見せようか」


 俺なりに優しくいってみた。ガタガタと震えている。俺の名は知られているのかもしれねぇな。だが、一瞬見えた、その闇のような目が、俺以上の闇を持つであろう絶望的なその目の裏にはいじめを言づける決定的な何かがあるのだろう。


「はぁ…はぁ…」


 段々体調が回復してきたか?駅で落ち合うのは間違いだったがここにいるのも間違いだ。俺がいじめてると捉えられても全く不思議じゃないからな。この路地裏を出ると人目に付く、俺とこんな傷ついた少女が一緒にいたら怪しまれる。未来たちが来てくれればいいけどな。そろそろ話せるようになったか?


「お前家どこだ?」


「…ぇ?あっ…うーん」


「家がないのか?」


「んー…んーと…ぇ?」


 話が通じない、つかめないな。まずは未来たちと合流したい。とりあえず駅に向かうしかないのか。手を取って路地裏から抜け出そうとすると全力で抜け出したくない意志が力で伝わってくる。どうする?仕方ねぇが脅すか。


「いいからついてこい、分かったな?」


 こくりと頷く、抵抗力がなくなり、俺はそのまま駅に連れていく、6時を回ってるな。相変わらず下を向いてて顔がわからねぇが目は見えた、あの時と同じ目だ。できるだけ遠回りし人目を避けたことによって気づけば7時前、帰られても文句言えねぇな。ようやく駅に到達だ。未来がいない。気まずいな、朱音は俺を怖がっている。このパーカーの少女は人間自体を怖がっている。


「未来は?」


「あ、黒龍さん探しに…その人ってまさか」


「例のパーカー娘だ」


 俺だけではなくやはり女の朱音にも顔を見せないか。


「未来に連絡しとこ」


 そうだよな、朱音と未来の間柄なら連絡先知ってるよな。仮に未来と会ったところで人が増えて怖さが倍増するだけだけどな。未来ならこの問題を解決するために動くだろう。俺は興味があった光と闇が合わさったときどうなるかという興味が。


「あ、遅れました」


 遅れたのは俺だけどな。びくりとパーカーの少女は震えだす。いや違う、未来の方を見た。そして未来は驚いている。


「えぇ!?アリスさん?」


「は?」


 俺は頭を整理する、確か尋問して聞いた時もアリスとかいう名前だったな。未来とアリスは知り合いだったのか?全く正反対のこの二人がか?これはアリスではなく未来に問い詰める必要がある。



 私はあのゲームが終わった後とあることを聞いた、それはアリスさんは案外近くにいますよと、それは1県、2県離れた場所だと思っていたけどまさか駅単位で近くにいたなんて。


「おい、どういうことだ未来、知り合いか?」


「私が悟りゲームを通じて知り合った友達です」


「本当にあるように思えてきたな、恐ろしいことにな」


「ぇ…?あっ?ぅぐっ」


 アリスさんは戸惑っている、アリスさんはきっとなれればあの時のように話してくれるはずだ。でも今回は私以外に朱音ちゃん、黒龍さんがいる。アリスさんは傷ついているが。


「暴力は振るってませんよね?」


「むしろ俺は止めたからな」


「そういえばちなみに未来と痕跡を調べてた結果コンビニ前から痕跡が浮かばなかった」


「昨日はコンビニに行ったとみていいな」


 アリスさんが私に近づいてくる。この場を収めるのは私しか無理だろう。


「とりあえず謎は解けて本名もわかって未来のそのゲームにも信憑性が湧いてきたがまさか興味本位で調べたらこんな展開になるとはな、その悟りゲームとやらにも興味がわいてきたな」


「ぃ、いえ…いえ」


「あ、家に帰らないとね、アリスさんは私が送ってもいいですか?二人きりになりますけど」


「俺は大丈夫だぜ」


「大丈夫、未来、任せたわよ」


「わかりました、ではまた明日」


「明日学校休みよ」


「あ、そうでした、また月曜日」


 それだけ言い残して黒龍さんと朱音ちゃんと別れアリスさんと二人きりになる。


「大丈夫ですか?」


 アリスは当たりを確認し誰もいないことを確かめる。


「なかなかすごい友人を持っているね、羨ましいよ、でもまさか最後に伝えた言葉、こんな近くにいたなんてね」


「私も二駅しか離れてたなんて思いませんでしたよ」


「本当に君は…僕の計画を邪魔するのが得意だね、次のゲームを開催提案しようとしていたのに希望ができてしまったじゃないか」


「自殺はさせませんよ、どんな手を使ってもです」


「君は一人暮らしなのかい?」


「そうですね、アパートですけど」


「君の家に泊まるのはだめかい?」


「え、それ親が許すんですか?」


「パパなんて僕のことを何とも思ってないよ、僕は一日千円の価値だからね。それにあの地獄の環境で過ごしたくない」


 なんとなくだが予想できた、仕事が忙しい父親は子供より仕事を優先してアリスさんは一日千円でいつも暮らしているのだろう。そして亀裂が生まれてしまった。そして昨日の件、傷ついた今の状況を見ればいじめを受けている、もともとはコミュニケーションを取るのが苦手だったのだろう、だが、あのゲームの他の4人のメンバーには素を見せた。心を許していたのだろうか。


「コンビニに寄りたいけど怖いからついてきてほしい、いつも怖そうじゃない店員と人が少なめな時間を狙ってるんだ」


「いいですよ、二人で行きましょう、でも千円で足りるんですか?」


「僕は昼におにぎりとジュース、夜にサンドイッチとジュースがあれば十分さ」


「今日はゲーム以外で初めて会った記念です、もう二千円くらい使ってください」


「いや、あとで借りを返せ、と、未来ならそれはないか、でも僕は大丈夫だ」


「食べないと大きくなれませんよ」


「大きくなれなくても問題はない、僕は死ぬのだからね」


「まだあきらめてなかったんですね」


「君が現れたことにより死ぬ気が失せつつあるのは事実だが僕は示さなければならないのだ、ぅ…問題はここだな…」


 レジの前、いつも苦しい思いをして買っていたのだろう、おにぎりやサンドイッチなら温めますか?やお箸をお付けしますか?と聞かれる心配がない。



「はぁ…なんとか買えた」


「私の家に来るのはいいんですけど料理とかうまくないですからね、あと服とかどうするんですか?」


「今日は血も出ていないしこれでいいよ、家に戻りたくないからね」


 サラっと今日は血も出ていないなんてとんでもないことを言う。


「親に連絡しなくていいんですか?」


「連絡手段がないからね、携帯は持たされていないし」


「私の使いますか?」


「大丈夫だよ、パパは千円だけおいて仕事に戻るだけだからね」


「そんなことはないと思いますけど」


 そうこう話しているうちに駅に着いた。


「こんな夜なのに…人が多いな」


「切符ですよ」


 珍しいものを見るような目で見つめる。


「これをどうするんだい?」


「え?乗ったことないんですか、通すんですよ」


 試しに通して見せた。同じくアリスも通して見せる。


「おぉ、こんなことをしないと乗れなかったのか」


「知らなかったんですね」


 待つこと三分電車が到着する。


「こんなに人間がいるのか、話しかけられなければいいが」


 端の方に行き未来の後ろに隠れるように乗る。



 最寄りの駅に着き、アパートの二階、私の家にアリスさんと二人は着いた。もう辺りは真っ暗。アリスさんを家に招く。


「おぉ、いい匂いだね、僕の吐き気がするような家のにおいとは大違いだ」


 アリスさんは一体どんな家庭環境で育ってきたのだろう。

 私は下手だったけど料理をする予定だったけど、アリスさんとコンビニに立ち寄ったのでコンビニのおにぎりを、アリスさんはサンドイッチとジュースを夕食にすることにした。食べ終わったがあまりにも少なすぎる量。


「アリスさん、これだけで足りますか?」


 私は冷蔵庫をあさり昨日の残飯になるがサラダを取り出す。


「おお、豪華だね」


 アリスさんは勢いよく食べつくす。食べつくした後に私はアリスさんの傷を見る。


「アリスさん、傷大丈夫ですか?」


「未来、そのあれだ」


 アリスさんが私に何か言いたげだ。


「どうしたんですか?アリスさん」


「あれだよあれ、僕たちは会ってしまったんだ、ゲーム以外でね」


「もしかしたら会ったら死刑なんですか?」


「そうではなく仮にも僕は中学一年生、君は僕より年上、君の後輩なんだ、だからアリスでいい」


「呼び方ですか、アリス、ですか、アリスちゃんなんてどうでしょう」


「まあ、さん付けよりはしっくりくるね」


「ならそうしましょう」


「後はその敬語もぎこちないな、僕は後輩だからね」


「えっと、じゃあこんな感じかな?」


「ゲーム以外で気を遣われると僕もしんどいさ」


「そんなことないと思いますけど、思うよ?アリスちゃん」


「友達を持ったらこんな気分なんだろうね」


「もう私とアリスちゃんは友達だよ、あのゲームの時から、あの時は戦友だったね」


「戦友か、それも悪くないね」


 するとアリスちゃんのバッグから白い紙が見えた。その視線に気づいたのかアリスちゃんはその紙を開いて見せた。通知表だった。


「つまらないものだよ」


「見ていいのかな?」


「別にこんなもの数字でしかないからね」


 そしてアリスちゃんは通知表を見せてくる。その結果に驚愕した。1から5段階の通知表。2と5以外ない。数学、美術、音楽が特出して5、それ以外が2なのであった。合唱部の私ですら音楽は4なのに。


「す、すごいね」


「僕は欠落品だからね、大した数字を取ることはできない」


 5を三つ取ってる時点でだいぶすごいと思うけど、と思いつつある一定の分野には誰にも負けない才能を持っているのではないのかと思い始める。


「じゃあ僕は寝かせてもらおうか」


 そういうと私のベッドに行くと思ったら私のベッドの横の床で眠ろうとし始めた。


「え、そこで寝るの?」


「もっと離れたほうがいいかい?」


「いや、ベッドで寝ようよ」


「君が寝れなくなってしまうよ」


「別に私は床でもいいから」


「僕は泊まらせてもらってる身だ、それは困るな」


 私は少し考える。ベッドの大きさ、アリスちゃんの小柄さ。


「なら二人で一緒に寝よっか」


 アリスちゃんは少し戸惑いを見せながらもベッドに入る。


「気持ちいい…未来のにおいがする」


 どんな匂いなのだろう。それだけ言うとアリスちゃんは安心したかのように眠りに落ちてしまった。



一方

 黒龍と朱音は電車に乗って帰り始めている。


「未来たち大丈夫かな…」


 心配そうにする朱音。


「大丈夫だろ、お前実は心配性なんだな、ま、親友っぽいしわからなくもねぇか」


と、少しだが会話をしていた時黒龍の携帯が鳴りだす。黒龍は通話に出る。何かを話していた。


「なんだお前か、寝てたらどうすんだよ、あ?なんだって?聞こえねぇ、電車の中だ」


 黒龍はスピーカーをオンにしその携帯をかけてきた主の声は朱音まで聞こえる音量になる。


『だから、あたしのじいさんがやられちまった』


 ヤクザ関連の話かと思ったがじいさんと言っていたため寿命だろうか、声の主は女性、黒龍の彼女、といろいろ考えを張り巡らせる朱音。


『ほんとあたしが帰って数日後に病死だってよ』


「帰ってってなんだ?」


『お前に行っても信じねぇだろ、まあ先輩からの命令だ、一日くらいでもいいから顔出してくれよ』


 帰ってという言葉に引っ掛かる朱音だったが彼女ではなく先輩からのしかも命令をしている。


「日曜までなら付き合ってやる、出席日数もやべぇしな」


『出席日数以前にお前暴力振るいすぎて退学してんのかと思ったぜ』


 この女性の人物は黒龍が暴力を振るう支配者だとわかったうえで命令している。黒龍の弱みを握る女性なのだろうかなど朱音は考え始めるが黒龍が命令に従うなんて想像は全くしていなかった。黒龍以外のしかも女性の暴君が存在するということだろうか。この日から朱音は黒龍連という人物像を変え始めようとしていた。ただ単に暴力を振るう人間なのではないのだろうかと。



 時は遡り同日、それはまだパーカーの少女の姿がわからず未来たちの学校では黒龍、朱音、含む三人が作戦会議していたであろう小休憩の時刻。

 とある中学校、赤いロングの髪、赤い服、赤い筆箱と赤が好きなのか赤で統一されたその少女は私服だ、この中学校は私服でも制服でも許される学校だ。一年一組、一番右端の一番前の席に座って授業を終え小休憩に特に席に立って誰かと話すこともなくいつもの光景を机に寝そべりながら眺める。たくさんの人がたくさんの人達と話し始めに行く。いつものように黒いパーカーの少女は無数の人たちに囲まれて精神的にも肉体的にもダメージを受けているがその赤き少女は何の興味も示さない。憐みもなければ怒りもなく、虚無。不意に声がかかる。唯一男子で話しかけてくる生徒だ。


「あ、天理さーん」


 どうやら少女の名前は天理(てんり)というらしい。


「……」


 見向きだけする。


「アリス不登校から帰ってきたね、そういえば前僕が言ったお姉ちゃんが行方不明っていう話は解決したよ」


「で…?」


 どうでもよさそうに返す天理。


「そ、それだけ伝えたくて、そういえば天理さんって彼氏とかいるのかな?」


「いないけど…」


 面倒くさそうに返す天理。


「どういう人が好きなの?」


 必要以上に聞いてくるその男性に嫌気がさしたのか天理は。


「どっか行ってくれる、琴吹…私は眠たいの」


「は、はい」


 それだけ言い残すと琴吹という男性はどこかに去って行ってしまった。



 昼食の時間、ようやく一人になれると思っていた天理の前に新たな刺客、名前は忘れたが同学年のクラスメイト。


「天野さん一緒に食べよ」


 天野、そう、彼女の名前は天野天理(あまの てんり)、見たところ、一人でいるのがすきそうだ。


「ん…」


 それだけ言うと食べていた女性は話題を持ち掛ける。


「天野さんって今日の数学のテスト何点だった?」


 目的はやっぱりそれかと言わんばかりに46点の数学のテスト点数を嫌そうに、早くどこかに行ってくれという表情で見せる。


「あちゃー、あと4点か、明日休みなのに補修いかなけゃだね」


「うん…」


 特に関心なさそうに返事する。食べ終わり先ほどの女性はどこかに行ったので昼休みになり机の上で寝そうにしていたところ。


「天理、海士と付き合ってたりする?」


 違う女性が天理に話しかけてくる。琴吹海士(ことぶき かいし)、小休憩中に話しかけてきた唯一男性の中で話しかけてくる人物だ。


「いや…?」


 変な誤解を生みそうになりつつあるのを想定し始めたのか面倒くさそうに答える。


「ほんとにぃ~?」


「付き合ってないけど…」


 イライラしながら答える。


「ま、別に他人の恋愛事情に口は出さないけどさ」


「ふぅん」


 さっき出したくせにといった表情で適当に受け流しようやく机で寝そべり少しの睡眠を取ることができた。



 放課後、面倒くさそうな性格で部活は入っていないと思われるだろうが実は女子テニス部に入っていた天理。しかし、5限目の英語で赤点を取ってしまったため居残りで補修を受けることになった。


「天理もだったんだ」


 またまた先ほどとは違う女性に話しかけられる天理。すると天理は立ち上がる。


「ちょっとトイレ…」


 それだけ言うとトイレではなく補修を受けず赤点から免れた同じ女子テニス部の女性に先輩に補修で遅れる、明日も補修で遅れると伝えるように言う。


「りょーかい、たまに思うんだけど天理ってさ、今10月だけど3年の先輩たちが8月に引退してからさぼったり成績落ちたりわざと補習受けに行ってない?まるで3年の先輩たちが引退したらテニス部に興味がない、どんな手を使ってでも少しでも多く部活に行かないようにしてない?」


「なんで…?」


 無感情無表情の天理をその女性は全く読めない。


「補修って1時間くらいで終わるよね?サッカー部の同じ補修の男子生徒は1時間後くらいに帰ってきたのを作越しに見たけど天理はその時間になっても帰ってこなくて補修の日は絶対に顔を出さないよね、補修がない日は頭が痛くなったとかいうし、3年生が引退してから」


「追加で補修受けてただけ…」


 天理は適当に流す。


「前言ってたよね、3年の先輩に誘われて仕方なく部活に入ったって、実はテニス部自体に興味がない?」


「……」


「それに2年の先輩に嫌いな人いない?たまにすごい目で2年の先輩を見ることあるよね、悪い意味で、一人しか知らないけど、その人を避けてる?」


「別に…」


「でもその先輩が逆に補修とか休みの時は天理は顔を出す、普通に部活に参加するよね」


「ま、補修始まるし今日は頑張ってみる」


 天理は話を濁して会話を終わらせた。



「遅かったね天理、始まるよ」


「部活遅れることも伝えといた」


 素直に話す天理。


「伝えてなかった訳ね、それは伝えないとね」


 そして補修を終え終わったのは5時30分、追加の補修などない。部活はこの季節はテニス部は7時まである。


「疲れたー、じゃあね天理、部活頑張って」


「ん…」


 しかし、天理はその女性が部活に行ったのを見届けると部活に向かうことはなかった、下駄箱に向かい、下校するのである。



下校中


「またか…」


 天理は独り言のように何かを呟く。そして電柱を見る、天理の目には誰も映らない、しかし天理は発す。


「琴吹…」


 天理がそういうと天理が見ていた電柱から琴吹海士が姿を現す。


「奇遇だね天理さん」


「この一週間…ずっと…ね」


「何のことかな?」


 海士はよくわからないように話した。


「いつも隠れて私を監視して何の用?」


「今日はたまたまあったんだよ」


「今日も昨日も一昨日も…ね…家まで着いてこないでくれる?」


「も、もちろん」


「じゃあ帰って…?」


 海士は去っていった。天理の悩みの一つである。この10月になるまでに6月から4か月も追いかけまわされているのだから。



天野宅

 父は仕事、母は料理を作ってちょうどできていた。


「ただいま…」


「あらおかえり、今日も部活早かったわね」


「まあいろいろあった…」


「ご飯できてるわよ」


「ん…」


 食事をとり風呂に入り8時過ぎまでSNSで誰かと会話した後父が帰ってきたがおかえりとしか言わず何かを一気飲みして。


「おやすみ…」


「あら、まだ9時にもなってないのに寝るの?」


「うん…おやすみ」


「明日部活は?」


「明日補修…だからない」


「なら早起きしなさいよ」


「ん…おやすみ」


「おやすみなさい」


 そして9時前には睡眠を取るのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る