続編、悟りゲーム(パート2)

@sorano_alice

第1話 謎の人物

 謎のゲームの開催も終わり、Cの横口未来(よこぐち みらい)の勝利となり無事元の日常生活に戻された未来。戻されてから三日後、休んだ理由を聞かれて嘘が付けない未来は正直に話したが内容が内容なだけあり信用してくれる人はいなかった。悟りゲームなんて適当な名前を付けたがゲーム自体に正式名前はない。未来も冗談を言うんだね程度であっさりと終わってしまった。



 時は遡りゲーム開催前。

 9月の後半あたりだろうか、私の親友と呼べる存在、新谷朱音(にいや あかね)、ピンクのロング髪と小悪魔的性格で都市伝説や噂話などが好きな情報通なところがあるのが彼女、朱音ちゃんだ。


「やっばー、未来どうしよ、音楽の教科書忘れた」


「他のクラスの人から借りに行ったらどうかな?」


「あー、でももう時間ない、仕方ないかー」


 私と朱音ちゃんは急いで音楽室に向かう。するとピアノの上に音楽の教科書があった。


「ラッキー、今日だけ使わせてもらおう」


「駄目だよ、それ多分先生のだよ」


「内緒にしてね」


「そういわれても」


 しかし先生の教科書ではなかったらしく普通通り授業が始まり終わった後にあったところに帰すことに。


「でも勝手にとっちゃだめだよ」


「まあまあ、結果オーライってことで」


 教科書をあったところに置くと声がかかる。


「オイ、お前か」


 黒龍連(こくりゅう れん)さん。染めた赤い髪に少し長めの髪、見た目の第一印象はヤクザといってもいいだろう。その男、黒龍さんが朱音ちゃんに声をかける。朱音ちゃんは震える。無理もないだろう。黒龍さんは高校一年生だが高校一、二、三年生含めた中でも武力に関しては勝てる人間はいない、その気になれば三年生などねじ伏せられる力の持ち主だ、現に三年生で一番強い相手を返り討ちにし、服従させた過去を持つらしい。


「な、なんですか?」


 朱音ちゃんですら敬語を使うほどの威圧力。


「俺は音楽の教科書ピアノの上に置いといたはずなんだよなぁ?」


 それを聞いて私と朱音ちゃんは理解する。教科書に名前は書いていなかったものの朱音ちゃんは黒龍さんの教科書を一時的に盗んでしまったことになる。黒龍さんは敵には容赦はしない、たとえそれが男であっても女であってもだ。さらに先生が見ていないところでしか暴力は振るわないわけではない、先生が見ていようとみていなかろうと問答無用で暴力を振るう。陰でこそこそするタイプではなく真正面から行くタイプだ。退学の可能性もあるにもかかわらず容赦はない。

 異変に気付いたのか音楽の先生は現場に戻ってくる。だが先生がいるいないは関係ない。


「覚悟はできてんだろうなぁ」


「ごめんなさぃ…ごめんなさぃ…」


と小さく謝る朱音ちゃん。しかし問答無用で暴力が振るわれる。音楽の先生も止めようがないためどうしようもできない。なら、私が出るしかない。


「やめてください黒龍さん」


「外野は黙ってろ」


「暴力はだめですよ」


「引っ込んでろ雑魚が」


 振り払われるが私は必死に止めにかかる。


「ならお前からやるぞ」


 ターゲットが私に変わる。


「紫藤、圓崎、抑えとけ」


「了解っす」


 同じクラスの紫藤さんと圓崎さんだ。私は掴まれ動けなくされた。


「邪魔してごめんなさいって言ったら許してやる」


 私は黒龍さんをにらみつけるだけ。その行動に腹が立ったのか思い切りこぶしで私の顔の左側にギリギリ当たらないところで殴りかかり、一度やめる。私はただ震えている。


「ほう、これだけされて泣きもしねぇとはな、ただのヘタレ雑魚だと思っていたが肝が据わってんな、なら本気で行くぜ」


 今度は私の顔面真正面に思い切り殴りかかるそぶりを見せて辞めた。


「チッ、芯が強いな、そういう女は嫌いじゃないぜ、離してやれ」


「え、いいんすか?」


 それだけ言うと黒龍さん、紫藤さん、圓崎さんは音楽室を後にした。なんとかこの状況を打破したのだ。



 その日をきっかけに私は黒龍さんを止めることが多くなり、私が割って入ると暴力を振るわなくなっていった。黒龍さんは実は考えなしに暴力を振るう人間ではないのであろうか、そして私の介入により少しずつ丸くなっていった気がする。

 それからだ、あのゲームに参加したのは。



 そして時は戻る。10月前半。

 朱音ちゃんが話しかけてくる。


「ほんと未来がいない間大変だったよー」


「何かあったの?」


「いやぁ、みんな黒龍さん止めようとしてたけどさ、泣いちゃったり土下座させられちゃったりして、未来が帰ってきたからやっと暴力騒動が終わるよー、未来しか止められる人いないって」


「私がいない間にそんなことが」


「よぉ未来、よくわかんねぇゲームしてた面白い冗談も言えるんだなぁ」


 黒龍さんだ。慌てて朱音ちゃんは私の後ろに隠れる。


「本当にしてたんですよ」


「お前が言うと本当に感じちまうから気持ちわりぃ」


「また暴力振るってたんですね?」


「むかついたからな、言葉だけの人間は嫌いなんだよ」


「もうやめたらどうですか?退学になるかもしれないんですよ」


「ああ、やめるぜ、お前の前ではな、お前みたいな言葉だけじゃない芯の強い人間は嫌いじゃないからな」


「私の前以外でもやめてください」


「考えておいてやるよ、面白いヤツが帰ってきたことだしな」


「面白いやつって誰ですか?」


「お前だよ、お前の言うことなら聞いてやってもいいぜ」


「なら暴力はやめてください」


「ふんっ、まあそういうだろうな」


 そういうと仲間を引き連れ立ち去ってしまった。朱音ちゃんが元の位置に戻る。


「よく黒龍さんと対峙できるよね」


「実はそんなに悪い人だとは思わないんですよね」


「それならいいんだけどね、未来が帰ってきただけでも一安心よ」


 それから朱音ちゃんの噂話で盛り上がる。


「そういえば未来が二週間休む前に話してたじゃん?例の黒いパーカーの人」


 そうだ、私はゲームに呼ばれる前この黒いパーカーの人を追ってみないかという話をしていたのだ。


「ほんとに噂話だからいるのかわかんないけど未来が休んでた時探したときは一回も遭遇しなかったよ、やっぱいないのかなー」


 黒龍さんはその話を片耳に聞いていたようだ。


「黒いパーカー?いや、俺は見たぜ?未来が休む前だが一度だけな、俺らの学校の最寄駅から北に2駅離れたところでな、目だけすれ違ったが逃げられたな」


「ということは本当にいるんですね?」


「ああ、絶対にいる、そいつの目は尋常じゃねぇほど闇に染まってたな、もしかすると俺たち側の人間かもしれねぇな、俺もそいつには興味をそそられたな、身長は俺らより小さかったな、目しか見てないが多分女だ」


「この駅から北に二駅、結構都会ですね」


「見つけるのは一苦労だが気にはなるな」


「まさか暴力振るったりしませんよね?」


「聞いた感じお前と朱音で行くんだろ、お前がいるなら振るいたくても振るえねぇな、だがお前らそいつらが通り魔とかだったらどうするんだ?」


「確かに、その線もありますよね」


「見た感じ朱音は俺を怖がってるみたいだし朱音には圓崎と紫藤を付ける、俺が言うのもあれだが暴力は振るうなよ、つまみ出せ」


「わかりました」


「未来、お前は大丈夫そうだが俺と一緒に来てもらうぜ、二手に分かれたほうが効率がいいだろ、放課後行ってみるか」


「部活は、あ、今日と明日は休みみたいです」


「お前何部なんだ?」


「合唱部です」


 そんな会話をしながらパーカーの少女(?)探しは実行される。



 放課後が終わり二駅過ぎたところに私、朱音ちゃん、黒龍さん、遠藤さん、紫藤さんが集まり、私、黒龍さんチーム、朱音ちゃん、圓崎さん、紫藤さんチームが動き出す。


「目星があるんですか?」


「まずは俺が見つけた場所に行ってみるか」


 そこは路地裏、人が全くいない場所。こんなところでパーカーの人物は何をしようとしていたのだろうか。


「そういえば、私が休んでる間にここらへんで事件とかありました?」


「俺の知ってる限りねぇな、そうなると通り魔の可能性は低いか?あの目は俺に興味を抱かせた、尋常じゃない人間なのは俺の直観が言ってる」


「黒龍さんがこんなに興味持つところ初めて見ました」


「お前らは二回目だろ、お前という尋常じゃない芯の強さを持つ人間にも興味抱いてるから手伝ってやってるのもあるからな」


「そんなに強くないですけどね」


「自分では気づかないもんなんだな」


 すると、黒龍さんの携帯が鳴りだす。


「おう、そうか、ならそこで落ち合うか」


「どうしたんですか?」


「紫藤達が捕まえたってよ」


 私たちは駅前に集合する。



「黒龍さん、見つけました、男でしたね」


 紫藤さんが黒龍さんに言う。


「おいお前、面見せろ」


 パーカーの中学位の男の人は黒龍さんを見て驚いた。


「こ、黒龍連!?」


 どうやらその男の人は黒龍さんのことを知っているらしく改めて黒龍さんがどれだけ有名なのか知らされた。黒龍さんは興味なさそうな顔をして。


「こんな目じゃないな、こんな普通の目じゃねぇ」


「この人じゃないんですか?」


「ああ、こいつ以外にも確実にもう一人いる、お前はそいつの関係者か」


「黒龍さん、こいつ路地裏で男の中学生二人をいじめてましたよ」


と圓崎さんが黒龍さんに言う。


「おいお前、他にもパーカーの人間を知らねぇのか?」


 するとパーカーを被っていた男は語りだす。


「お、俺は、パーカーを被ってる多分女の人がいて気になって追いかけてたんです、そしたら誰かから逃げるように人気の少ないところに行ったりして怪しんで行動を監視してたんですよ夕方から夜の八時くらいまで見かけます、なので俺も気になって同じことを試してみたらいろんな人がやってきて喧嘩売ってきたのでやり返してたんですよ」


「夕方から夜の八時か、その話本当か?なら俺らもしてそのやってくる相手に話聞くのがよさそうだな」


「本当です、信じてください、多分身長的に合わないかと」


「つまりお前みたいな小柄な人間ってことか、それでおそらく女なんだな、もうややこしいことはすんなよ」


「は、はい、わかりました」


 それだけ聞くと男を解放した。


「多分中学くらいか、それで女ってことは確定でいいかもしれねぇな、通り魔の線は薄くなったな、もう6時か、暗くなってきたがお前らはどうする?俺は8時まで探すつもりだけどな」


「黒龍さんが行くなら俺もいきます」


「もちろん俺もですよ」


「そうか、未来と朱音、お前らは帰ったほうがいい、8時になったら真っ暗だからな」


「私はちょっと都会気分を味わいたいので夕食とか食べて帰ります、通り魔の線も薄いですからね」


「私も未来と一緒に食べてから帰ろうかな」


「そうか、二人なら心配ねぇな、俺らは三手に分かれるぞ、人気のないところを探せ」


 そう言って、黒龍さん、紫藤さん、圓崎さんと別れ、私と朱音ちゃんは駅から少し離れたところでパフェを食べる。


「いやー、最初見つかったときはよっしゃー、ラッキーって心の中で思ったけどねー」


「まあ、そんな甘くなさそうだね見つけるの、それに遠いし」


「でも女で小柄なのは確定したよね、もしかして何人でかかっても倒せない相手とか?それなら黒龍さんは大丈夫だけど圓崎さんや紫藤さんが見つけた時アウトだよねー」


 他人事のように朱音ちゃんは言うが私たちも帰り道にばったり遭遇してしまったら返り討ちにされることを意味する。


「早めに帰ったほうがいいよねー、と言ってももう7時30分だし8時過ぎる待つかー」


「でも本当に夕方から8時までとは限らないよ?10時とかまでいるかもだし少しでも早く帰るべきかな」


「言われてみればそうだよねー、じゃあ帰ろ未来」


「うん、帰ろう」


 何か所か路地裏を通りつつの駅の目標になるが途中で会ってしまった。朱音ちゃんが気づく。


「ねぇ、あれって…」


 路地裏、20数メートル先、赤い液体を流しながら倒れこんでいるパーカーを着たおそらく女がいた、わき腹を抑えている。まさか黒龍さんが暴力を振るったんじゃ、と思いつつ朱音ちゃんは声をかける。


「ちょっと君?」


 パーカーを被った少女はその言葉に敏感に反応すると必死にわき腹を抑え逃げ出す。顔は全く見えなかったが少女とみていいだろう。追いかけるものの見失ってしまう。


「あの子じゃない?ていうかあの子しかいないよね」


「うん、多分そうだと思う」


 明日の学校で黒龍さんに報告してみよう。黒龍さんが暴力を振るった訳じゃないならいいけど。



謎の少女の一軒家

「ぅっ…」


 大量に腹部から流れる血、腹部を抑えながら床に倒れこむ。今日は何者かの知らない人間からも声がかかった。徐々に追いつめられる。コンビニで買ったであろうサンドイッチとオレンジジュースを飲み干し、気を失うように眠りについた。




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