くものかぞえかた

 結局僕らはアイスを食べたあと、ナンパをするでもなく泳ぐでもなく、

やたらヒリヒリする肌と共に微妙な時間を過ごした。


(あの拓馬が人に気を使うなんて天地がひっくり返るかもしれないな)


帰りの車窓から、半日を過ごした海岸に別れを告げた。

晴れ渡る空には少しだけ薄くなった飛行機雲がふんわりと、

でも真っ直ぐに夕空を走っているのが見えた。


 家に着くと、それなりに空は暗くなっていて母さんが夕飯を食卓に並べている時だった。

「おかえりーどこ行ってたのー?」

「うみー」

「あら、いいわね♪母さんも連れて行ってよ〜」

「今度ねー」

僕はソファで適当にネットニュースを漁りながら生返事をした。

そうすると、後ろから母さんが覗き込んできて

「ねえデート?相手どんな子??」とやけに高い声でうるさいから

「かわいいかわいい拓馬だよ」と投げやりに答えたら

「なーんだーてっきりあんたが海なんて行くから

母さんデートかと思っちゃったわよー」

と少し面白くなさそうにキッチンに戻っていった。

母さんは歳の割に見た目が幼いからか、たまに女子高生みたいな一面を見せる。



 その夜僕は自室のベッドに寝転がり、莉紗のことを思い出していた。

亡くなる日の前日、莉紗は少しうきうきしていた。

どこか落ち着かなくて、まるでクリスマスプレゼントを待っている子供の様に。

次の日、お気に入りの白いリボンをポニーテールに結んで、弾んだ足取りで

出かけた莉紗は帰り道で車に轢かれた。


好きな男とデートでもしていたんだろうか。

最後の最期まで莉紗は幸せだったのだろうか。

好きだと伝えられていたら、未来は変わっていたのだろうか。


自問自答を繰り返す過程の途中、

僕は誰かに呼ばれる様にふわりと眠りに落ちた。



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