とけたあいすのそのおんど

 海水浴場はそこそこ賑わっていて、それぞれビーチボールやら水の掛け合いやらで、皆夏を満喫していた。そんな中僕らは何をするでもなく柵に腰掛けアイスを食べていた。



いや、正確には沈黙に耐えながら暑さに耐えられなかったアイスを眺めていた。

何かおかしい。

いつもなら「あの白の水着の子めっちゃ可愛くね!?ちょっとgetしてくるわ」

とか、「このアイス俺の奢りなんだから、英語科のスピーチだけでも

手伝ってくれよー」

など口から生まれた拓馬はアイスを食べている時でも話題が絶えない。


それなのに。

わかった。この顔は話したいことがあるけど気まずいって顔だ。

何を話したいのか。


「…莉紗ちゃんの命日ってもうそろそろだよな」

来たか、この話題。

何となく予想はしてたけどいざ聞くとやっぱり胸が痛む。

出きるだけ平静を装って僕が発せたのは

「もうそんな頃か」という一言だった。


ほんとはそんなこと思ってないのに。

片時も忘れたことなんてなくて。


一年たっても忘れられないなんて女々しすぎるけど

莉紗の好きだったオレオもちょっと高く結んだポニーテールも

全部全部好きだったのに。


伝えることもなく

遠すぎるところに莉紗は一人で旅立った。

僕が天の巡り合わせでそこに行くにはあと何年も何十年も歳を重ねないと行けないところに。


まったく小さい頃から破天荒で、木登りをしたかと思えばお気に入りのスカートを木に引っかけて泣きわめいたり、フィギュアスケートの真似事をして足を挫いたり。その度におんぶすることはできなかったけど、肩を貸して家まで帰ったのは他でもない僕だ。

その借りを返す前に逃げるなんて、本当に騒がしい幼なじみだ。


拓馬が少し気まずい顔をして


「好きだったんだよな…莉紗ちゃんのこと」


なんて言うから僕は口に含んだソーダ味のソフトクリームを気管に詰まらせた。


「ああ、好きだったよ。ずっと」

「忘れるなんて辛いよな。どんなに可愛い女の子みたって無理だよな。いや、お前がそんなに本気じゃなかったなら、新しい彼女でも作っちまえって言おうと思ってたんだけど、そんなわけ無いよな」

「やっぱり女々しいよな」


好きだとも伝えられなかった相手が

死んで一年たってなお忘れられないなんて

やっぱり苦しいし、莉紗も怒るかな。


「いいんじゃねーの?」

予想外の言葉過ぎてまたしても僕はまたしてもソフトクリームが気管に詰まりそうになった。

「だって誰かが…莉紗ちゃんのこと覚えててあげないと可哀想じゃん。

 何も皆が無理して

…莉紗ちゃんのことを過去にする必要なんてねーよ」


確かにそうか。僕は今まで自分が辛かったことから逃げることばかり考えていたけど、そうじゃない。


覚えている。きっとそれが今の僕の使命だ。

拓馬もたまにはいいこと言うじゃないか。


「そうかもな」

僕は溶けたソフトクリームのコーンと水平線を重ねて眺めながら莉紗の笑顔を思い浮かべた。

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