第14話 Little Romance(14)

母の話は


衝撃的だった。



「・・あ、あたしは・・生まれてよかったの?」



ひなたは涙をぽろぽろとこぼした。



「当たり前じゃない。」


ゆうこはたまらずにひなたを抱きしめた。



「ひなたが来てくれなかったら。 パパと結婚したいとかそんなふうに思えなかったと思うし。 なにより・・ママはすっごい幸せだもん。 今でも。 ひなたのおかげで幸せになれたって思ってる、」



そして、笑顔を作りながらも鼻をすすった。






「え・・ひなたに話したの??」


志藤は帰ってきてその話を聞き驚いた。



「ほんと。 必死に探してくれたから。 きっと、もうわかってくれるんじゃないかって思って。」


ゆうこはそのカケラを見てポツリと言った。



「でも、 もう過去のことやし、」


志藤は子供たちにはあまり自分の過去のことを触れて欲しくないような気がしていた。




「あたしは。 こうやってずっとあなたを愛してきたんだって。 それを言いたかったの。 なんだかあの時の気持ちを思い出してしまって・・胸がいっぱいになっちゃって、」


ゆうこはまた涙が出そうだった。



「ゆうこ、」



「だって・・絶対に間違ってなかったって。 思えるし。 あなたと奈緒さんのことだって、あたしたちの幸せに関係ないことじゃないもの。 あたしはずっと大事に思っていきたいの。 だから子供たちにもわかってほしいと言うか、」



そんな彼女を後ろから抱きしめた。



「・・ありがと。 ゆうこ、」


志藤はいつまでも変わらない彼女の優しさに涙が出そうであった。





とりあえず


ひなたはいつもどおりに戻ったようであったが、


やっぱり、両親の話を聞かされて考え込むことが多くなった。




「な。 明日の日曜さあ。 部活休みなんだけど。 映画とかいかない?」


浩斗は普通に誘ってきた。



「え、映画? 浩斗はうるさいのが好きだからな~。」


あまり乗り気ではなかった。



「なんだよ、うるさいのって・・」



「あ、そだ。 明日、みーちゃん来るってゆってたんだ。」



「みーちゃんって?」



「パパとママの友達~。 パパの会社の社長の・・えっと息子の奥さん。」



「なんじゃ、そら。」



「浩斗もくる?」



「え、おれ?」



「うん。 すんごいおもしろい人だから。」


ひなたはニッコリと笑った。






二人が普通に廊下で話をしていると、


「ね・・あの子? 高野くんフったっていう1年、」



「信じらんないよね~。 んで、なに? あれカレシ?」



3年生の女子から容赦ない陰口が、本人にモロ聞こえる。



「やっぱおまえ3年女子から狙われてるって~、」


浩斗はコソっと言った。



「ふん・・くだらない! よくわかんない男とつきあえってこと? 冗談じゃないって! 言いたいヤツには言わせておけばいいの!」


ひなたは絶叫した。



「バカ! でっかい声で・・」


浩斗のほうが焦って周囲を伺ってしまった。



「いいよ、別に。 も~~、」




ひなたは同級生どころか、上級生も教室を覗きに来るほど、学校でも有名な美少女なので


当然、上級生の女子からの風当たりは強かった。




しかし、元々周囲にとらわれない自由な彼女は


全く気にもしていなかった。



そして、下駄箱の靴の中には


『ケータイのメアド教えて!』


のメモが入っていたり。




「持ってないっつの! ケータイは!」


それを苦々しく握りつぶした。



「モテるよな~~。」


浩斗は部活に行く格好でナニゲにそれを見ていてため息をついた。



「も、なんっかウザいってゆーか。 めんどくさい。」


ひなたはもう放っておいてほしいと思った。



「んじゃあ。 おれがカレシってことにすれば?」



浩斗は笑ってそう言った。




「はあ???」


びっくりして彼を見た。



「・・ってことにすればさあ。 こんなんしてこなくなるかもだし、」


浩斗は恥ずかしそうに言った。




「ばっ・・バカ・・」


ひなたも何だか恥ずかしくなってプイっと横を向いて、乱暴に靴を取り出してそのまま急いで帰ってしまった。

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