第13話 Little Romance(13)
ひょいっと取り上げると、何か2cm角ほどのガラスのかけらだった。
「あっ! これだっ!」
ひなたは目を輝かせた。
「はあ? なにコレ・・」
彼女が必死に探していたものがこれかと思い、浩斗は気が抜けた。
「ね、あと5~6個くらいあるはずなんだよ! もっとない??」
「もう無理~~、」
さすがに根を上げた。
・なにやってるの・・」
後ろから呆然とした声をかけられ
「は?」
二人はその方向を見た。
ゆうこが凛太郎とこころを連れて買い物から戻ってきた。
ゆうこの目の前にはそのガラスのカケラが置かれていた。
「これを・・拾ってくれたの?」
ゆうこは驚いた。
目の前に座った二人ふたりは腕が傷だらけだった。
「どーしても。 探さなくっちゃって。 思って。 そしたら浩斗が通りかかって。」
ひなたはうな垂れた。
「・・ありがとう、」
ゆうこはまたも胸がいっぱいになって、そのカケラをそっと手にとった。
「おばさん・・」
浩斗は驚いた。
「浩斗くんも・・ごめんね。 ほんっと。 ありがと。」
「もっと! 探したかったのに、」
ひなたが言ったが、
「ううん。いいの。 いいのよ。」
ゆうこは微笑んだ。
浩斗はおやつを食べて帰って行った。
ゆうこは二人が必死に探してくれたそのカケラを麻でできたコースターの上に乗せて、また同じように自分たちの寝室のサイドボードに置いた。
「・・これね。 ほんとはウサギの形をした置物だったの。」
ゆうこはそこにいたひなたに言う。
「え・・」
「このくらいの。 すっごくかわいいガラスのウサギ。」
ふと微笑んだ。
「それが・・パパとの思い出の品だったの?」
「厳密に言えば。 ママとの思い出のものじゃなくて。 ママとパパが出会うずっと前にね。 パパが結婚しようって思ったて人がいて。」
ゆうこは静かに話し始めた。
「・・・」
その言葉にひなたは驚いた。
「その人。 事故で亡くなっちゃったの。 おなかに赤ちゃんもいて。 もうすぐ結婚式って時に。 その人のことは・・ママも知らないんだけどね。 その人の形見だったの。」
その話に
ひなたはショックを受けた。
「その人のことを思い出すようなもの・・パパは全部処分しちゃって。 でも、これだけはずうっと捨てられなくて。 東京に来たときにもこれを持って。 パパはずっと、その人のこと愛してるってママは思ってたから。 ひなたができて、パパに結婚してくれって言われたときもママはすぐにはうなずけなかった。」
ゆうこはあの日のことを思い出していた。
「パパはその人の思い出のものを処分しようとして、ママと言い争っている時にね。 そのガラスのうさぎを落としてしまって。 割れちゃったの。 その時ね。 ママはこうしてその人のことを思い続けるパパ全部を好きだなって思って。 もう、そういう人生を送ってきたパパと一緒になりたいって思ったから。 その人のことを忘れてほしいとか・・そんな風には思わなかった。」
「ママ・・」
ひなたは絶句してしまった。
「そのときの気持ちを忘れたくなくて。 その人がもし亡くなっていなかったら当然、パパとママは結ばれることもなかった。 ひなたたちも生まれることはなかった。 でも、いろんな運命が動いて、あたしたちは出会えたし・・ひなたたちも生まれて来てくれたって思ってる。 この人が亡くなってしまったっていう事実も、悲しいけどあたしたちの間ではもう・・それが人生のひとつであったって思うから。 色んなことを思って、このウサギのカケラをここに置いてたの。」
ゆうこは優しくひなたに微笑みかけた。
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