第6話 Little Romance(6)

「とにかく。 ひなたの服じゃあ、かわいそうよ。 あなたのを何か貸してあげないと・・。」


ゆうこは志藤をみた。


「ハア? おれの? 逆にデカいやろ、」


「このピンクのパーカーよりマシよ。 今日はちょっと肌寒いし、」


「いや、いいっス・・このシャツで帰るから・・」


浩斗は言ったが、下着のシャツで帰すのもなんだと思い、



「んじゃ。 来いよ。」


志藤は自分の部屋に彼を呼んだ。



「あんまりカジュアルっぽいの持ってへんからな。」


志藤は箪笥を漁った。



浩斗は珍しそうに部屋を見回している。




「・・あの~~。」


「あ?」



「おじさんは。 オーケストラとかの仕事をしているんですか。」


部屋はクラシックのDVDや本ばかりだったので、聞いてみた。



「ん。 まあ今まではね。 4月からはちょっと仕事変わっちゃったけど。 このシャツでいっか、」


志藤はストライプの綿のボタンダウンのシャツを彼に手渡した。



「あ・・すんません、」


浩斗はアゴで会釈するようにそれを着た。



「ちょっとデカいか。 ま、袖めくれば・・」




彼は思わずそのシャツの匂いをかいだ。



「な・・なんやねん。 ちゃんと洗ってあるし、」



「い・・いえ。 なんか大人のにおいだな~って、」



「なんや、そら。」


笑ってしまった。



「うち。 とーちゃんいないし。」



浩斗はボソっと言った。



「お母さん、雑誌の編集の仕事やったな。 ほんま忙しくてタイヘンやろ。」



「まあ。 姉ちゃんがいますから。」



「そうやって、おまえのことを頑張って育ててるんやもんなあ。」



「はやく・・大人になりたい。」



浩斗は小さな声で言った。



「・・んで。 かーちゃんが仕事しなくってもいいように。 おれが働く。」



中学1年生の子が


こんなことを言う。



志藤は小さな感動を覚えていた。



「そのシャツ。 やるわ。 もう着てへんし。 20代のころ買ったヤツやもん、」


ニッコリ笑って言った。



「え、いいんですか・・」



「ほんま。 ありがとな。 ななみを助けてくれて。 助かった。」



志藤はぐりっと彼の頭を撫でた。


浩斗は嬉しそうにはにかんで笑った。






「昨日。 ごめんね、」


翌日、学校に行ったひなたは浩斗に言った。



「え?」



「お母さんに怒られなかった?」



「怒らねーって。 ひなたのとーちゃんにシャツもらっちゃったって言ったら、『こんなに高いのいいの!?』って。高いブランドもんだったみたいでさあ。」



逆に喜んでいた。



「つったって・・お古じゃん・・」


「いーの、いーの。 おれのトレーナーだってもうキタなかったしさ。」


浩斗はごきげんだった。



「でも。 いーよな、」


「え?」



「ひなたのとーちゃん。  いくつかわかんないけど。 若くて、カッコイイし。 優しそうに笑うし、」



父を褒められて、ひなたはちょっと照れて、



「もう・・43のおじさんだよ。」


と言った。



「うちも。 ああいうとーちゃんだったらな。 きっと母ちゃんも離婚しなかったんだろーな~って、」



「え、」



「ぜんっぜん働かなかったんだって。 とーちゃん。 しかも、浮気もしちゃったらしいし! 母ちゃんは気が強いから、あたしがひとりで子供たちを育てます!って出て行っちゃったんだって。 だから、よういくひ?とかも、貰わなかったって。 ほんっとどーしようもねーよな。」


浩斗は笑った。



「ふうん・・」


「ああいうカッコイイとーちゃんがいたら。 やっぱ高野センパイもかなわないかなあって、」



「はあ?? なにそれ、」


話題が変わって、ひなたは彼を見た。



「うん。 かなわねーって。」


浩斗はそれを自分にも言い聞かせるように言った。



「ま。 ウチのパパでよければ。 いつでも貸すし、」


ひなたはボソっと言った。




まったく。


何言いたいんだか・・




彼の気持ちは全くわからなかった。

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