第5話 Little Romance(5)

「なんか。 ちっちぇーなあ・・」


ひなたに貸してもらったパーカーを着て、浩斗はちょっと文句を言った。


「文句言わないで。 パパのじゃ大きいし。」


洗面所で洗濯をしながら言う。



「ねーね。 これやって・・」


凛太郎がやってきてDVDを差し出す。



「え~? いまできないよ~。 ちょっと待ってよ、」



「凛太郎。 こっちおいで。 やってやっから。」


浩斗は凛太郎を連れて行った。



ひなたはそんな浩斗の姿を見た。



さっき。


手がぶつかったとき


ちょっとだけ


どきってした。


わかんないけど・・



戸惑う気持ちを無理やり押し込めようとした。



浩斗は幼稚園の時と


ぜんぜんおんなじ。


自分も彼も


大きくなってないって思ってしまうほど。



だけど。


背も


手も


足も。




いつのまにあたしよりもずっと大きくなって。



やんちゃ坊主という言葉がぴったりの男の子で


元気いっぱいで、よく先生から怒られて。


いつもクラスの中でも、二人でみんなを引っ張って


すんごい楽しかった・・



浩斗は年の離れた大学生のお姉さんがいて、いつも弟や妹が欲しくて


こうして、ひなたの妹弟たちをかわいがってくれた。




病院に運ばれたななみは、念のため1日入院をすることになってしまった。



「着替えを持ってくるから一回帰るね。」


ゆうこはベッドに横たわるななみに言った。


「ヒロトくんの・・」


ななみはか細い声で言った。



「え?」


「お洋服・・きっとよごれちゃった・・あたしをおんぶしてくれたから・・」


泣きそうな顔で言うななみに



「ちゃんとお洗濯してあげるから。 大丈夫。 浩斗くんはそんなこと気にしてないよ、きっと。」


ゆうこは安心させるように頭を撫でた。



「たいしたことなくて、よかったな。」


帰り道、志藤が言った。



「大きくなれば少しずつ良くなるって言われてるけど。 やっぱりまだまだ激しい運動は。 ななみもひなたみたいに元気に遊びたいでしょうに、」


ゆうこはため息をついた。



「でも、浩斗くん。 必死におんぶしてきてくれて。 男の子って逞しいですね、」



「ん・・。」



「あの子は小さい頃から正義感が強くて。 誰かがいじめられてると、飛んでいって『やめろ!』っていける子だったし。 男っぽくって、でも優しくて。 ウチの涼太郎もあんな男の子になってくれたらなあって、」



「あいつさあ、いっつもおれが話しかけると、すーっと引いちゃって。 なかなか寄ってけえへん、」


志藤は笑った。



「浩斗くんちはママがずっと女手ひとつでお姉ちゃんと浩斗くんを育ててるから。 お父さんってのが慣れないのかもしれない。 だって、浩斗くんが5歳の時に離婚しちゃったし。 お姉ちゃんもちゃんと大学にやって、エライなあっていつも思って、」




「ん・・」



それぞれ


いろんな家庭の事情があるよな・・



志藤はそんな風に思ったりしていた。



「そっかあ。 入院しちゃったんだ・・」



「ほんと、浩斗くん、ありがとね。 あれ? 洋服・・」


戻ってきたゆうこは浩斗の着ている服を見て言った。



「も、それが! ひなたがおれのトレーナー洗濯してくれるって言ったのはいいんだけど! 乾燥機にほうりこんだまんまにしちゃって! なんっかボロボロになっちゃったんですけど!?」


浩斗はジロっとひなたを睨んだ。



「な! なんか・・わかんなくって!! どんくらいで乾くのとか!」


ひなたは言い訳をした。



そして、そのトレーナーを見たゆうこは驚き、



「いったいどんだけ乾燥させたの・・」


と言うほど。 もう襟口と袖口がボロボロだった。


「え・・1時間半くらいかな・・」


ひなたが目を逸らしながら言うと、志藤は思わず



「粉にするつもりやったんか??」


とつっこんだ。



それには思わず浩斗も笑ってしまった。


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