第2話 Little Romance(2)
「おかえりなさい。 今日は早かったのね。」
「5時間授業だから。 あ~~、おなかすいた。」
ひなたはリビングのソファに鞄を放り投げた。
「おねえちゃん。 ほら、ママが作ったアップルパイがあるよ。」
妹で小学校5年生のななみがお皿を差し出した。
「あ、おいしそ~。」
と食べようとすると、
「こら! 手をあらいなさい。」
ゆうこは彼女に注意した。
「ハイハイ・・」
「ねーね! みてっ、かわいーでしょー。」
洗面所から出てくると小学校1年生になったばかりのこころが着ている洋服を自慢しにやってきた。
「あ、新しいヤツだ! おばあちゃんに買ってもらったね?」
「だってこのまえこころのおたんじょうびだったから。 きょうとのおじいちゃんとおばあちゃんがおいわいくれたからって。 ママが!」
「洋服ならいっぱいあるのにさ~。」
「いつもねーねばっかりあたらしいおようふくずるいもん!」
ふくれるこころに
「長女はねえ、いろいろタイヘンなんだから! 親のめんどうだって見なくちゃなんないんだからっ!」
ひなたは頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。
「もう、なにをバカなこと言ってるのよ・・」
聞いていたゆうこは呆れた。
おやつを食べていると、
「あ。 今日さあ。 なんか知らないけど。 3年生の人にコクられちゃった。」
ひなたはナニゲにゆうこに言った。
「は?」
「3年のバスケ部のキャプテンの人! あたし全然知らないんだけど。 高野とかいう人でさあ。 いきなり給食の前に呼び出されて!」
「それで?」
ゆうこは心配半分に聞いた。
「断ったよ~。 いきなりナニ? って感じだし。」
「高野って。 お父さんが区議をしてるあの高野さんちの子じゃないの?」
ゆうこは地元なので、ひなたの同級生の親も知り合いが多い。
「え? そーなの? しらない~。」
ひなたは全く興味がなかった。
「まあ・・その気がないなら・・しょうがないけども。」
とりあえずそう答えるしかなかった。
「あ~、おいしかった。 ちょっと涼太郎! 牛乳持ってきて。」
ひなたはそこにいた涼太郎に命令した。
「自分のが近いじゃん・・」
「今、立とうとしたでしょ! いいから持ってきなさいよ!」
「もー、うるせー・・」
仕方なく立ち上がった。
家ではまるで女王様のように妹や弟に振る舞い。
口だけは達者で、もうゆうこさえも負けてしまうこともある。
いったいこの子は
将来、どーなっちゃうのかしら・・
ゆうこはちょっと心配になるくらいだった。
ひなたは思い出したように
「・・ねえ、あたしって『ファザコン』だと思う?」
真面目にゆうこに言った。
「はあ?」
「裕香が。 あたしのことそーゆーから・・」
「ファザコン・・」
すると、ななみが
「ファザコンって。 お父さんが大好きなひとのこと言うんだよね?」
と言った。
「まあ、そうだけど。」
ゆうこは頷いた。
「でも。 裕香はあたしのパパがカッコイイから、ひなたは他の男子に興味がないんだってゆーんだよ?」
「なによ、それ・・」
半ば呆れた。
「ま。 でも。 パパかっこいいもんね。 授業参観とかでパパが来ると、他のお母さんたちからも『ひなたちゃんのパパはかっこよくていいわね~。』ってよく言われたし。」
ひなたは本当にパパっ子で、
今でもたまに休みの日には二人で仲良く腕を組んで出かけて行ったりも平気でする。
普通は年頃の女の子は父親から離れてゆくものだが、ひなたに関してはまだまだそれもなかった。
志藤も5人の子供を平等にかわいがっているが
どう見ても
ひなたを溺愛していることが、もう周りもまるわかりなほどあからさまだった。
それでも
もう中学生になったのに、こんなんで大丈夫だろうか・・
とゆうこは密かに心配もしていた。
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