記憶【2】

 4月7日土曜日、午前2時26分──。

 滝野森高校本校舎北階段3階4階間の踊り場にて。


「蛍ちゃん! 待って!」

「……早苗さん」

「お願い……、行かないで」

「……もう、取り返しのつかないところまできてしまった。あとひとつで七不思議は完成するの。だから早苗さん。最後までやらせて」

「お願い……だから……。蛍ちゃんが死ぬ必要なんてないでしょ?」

「……ありますよ」

「ないよ」

「あります! 私は……、私の……所為せいなんです」

「……蛍ちゃん」

「私が……、図書室の本で遊んでいたあの人達に注意したから……、それで目をつけられて……、そんな私を庇った所為で杉野先輩がいじめられるようになって……、だから!」

「蛍ちゃん」

「やめてよ、早苗さん。こんな私を抱きしめないでよ。突き放してよ……お願いだから」

「ごめんね、気が付かなくて」

「早苗さん、私……」

「もうやめよう? あの子はあなたを助けたことを後悔なんてしてない。きっと誇りに思ってる。だって、あの子は蛍ちゃんのこと──」

「いいんです! いいんですよ、早苗さん」

「蛍ちゃん」

「だって、私は死ぬわけじゃないんですよ? 私はただ、杉野先輩に逢いに行くだけです。私の気持ちを伝えに、逢いに行くだけなんです。だから、早苗さん。心配しないで」

「嫌だよ、行かないでよ……、お願いだから」

「私ね、さっき先輩を見たんです」

「え? どういう──」

「バイバイ、早苗さん。またねっ」

「待って! 蛍ちゃん! …………蛍ちゃん」

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