恋と変人
「ねえ堂城さん」
頬張ったパンケーキをミルクティーで流し込んでから、朝芽野は訊ねた。
「木嶋さんは七不思議のことをいつ知ったんだろうね。彼女は超研に入る前から七不思議のことを知っていただろう?」
たしかに滝野森高校に七不思議があることは、超研の部室に向かう途中で彼女から聞いた。
「そうだな。多分去年の学園祭の時なんじゃないかな」
「学園祭?」
「彼女は滝野森高校の学園祭によく来ていたらしくて、校内の道案内もしてくれたんだ」
「なるほど。じゃあその時に噂で聞いていたのか。それで中内先生が作ったものだと気が付いたんだね」
「そうだろうな。きっと去年の学園祭の時に高木が話していたんだろうな。あの人、初めて部室に行った時に木嶋さんの顔を見て、どこかで見たことある気がするって言っていたからな」
「そうだったっけ? ほんと記憶力すごいね。全然覚えてないや」
輝いた目が眩しくこちらを向く。しかしすぐに目を逸らし、彼は小さくため息を吐いた。
「結局、木嶋さんと杉野浩輔との関係は分からないままだったね」
事情聴取の際、中内は木嶋に対して自分が受け持つクラスの生徒だとしか言わなかったそうだ。木嶋と杉野浩輔との関係性も結局分からずじまい。
しかし、私は知っている。
木嶋蛍は、杉野浩輔に恋をしていたのだ。
一緒にいるだけで、まるで本の世界に迷い込んだみたいな幸福感を味わえるほどに、彼女は彼に恋をしていた。
ただ、それだけだ。
『この世界にまともな人なんていないよ。みんな変人。人はね、それを個性って言うんだよ』
彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。
紗倉は言っていた。
あの夜、公園でいじめられていた杉野浩輔は笑っていた、と。
まるで「助ける必要はないよ」と言っているようだった、と。
杉野浩輔は、彼女を……木嶋蛍を助けようとしていたんじゃないだろうか。
いじめを止める為に賀ヶ島と付き合ってまで現場に来た彼女が、自分自身を助けようとするのを止める為に、彼は心配させまいと笑っていたんじゃないだろうか。いじめを止めれば、その矛先は木嶋に向いてしまうから。
だから、杉野浩輔は最後まで木嶋蛍を
人は好きな人の為ならば、自身までもを犠牲にできる変人になる。
私にはまだ分からないこと。
けれど、いつかふたりの気持ちが分かる日が来るだろうと、私は思う。
「堂城さん、それは何?」
そして、それを開いた。
『友達になってくれてありがとう』
彼女の字で、そう書かれていた。
真っ直ぐで、とても可愛らしい字。
甘い香りが鼻をつき、私はすんと鼻を
「なんでもないよ」
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