新入部員歓迎会【2】
「朝芽野さ、なんで超研に入ろうと思ったの?」
紗倉が訊ねる。
確かに、朝芽野は私や木嶋とは違い元々超研に入部する予定だったみたいだ。
何かこの部に入る理由があるのだろうか。部長の高木がUFOを目撃したと言ったように。それともただの好奇心か。
彼はこう答えた。
「昔、不思議な現象に立ち会ったことがあるのですが、その真相が知りたくてこの部に入りました。聞けばここは、そういった怪奇現象を調査しているそうですね」
調査がどれほど本格的なものなのかは分からないが、どこまでいっても部活動に変わりはない。そこまで深く調査をするわけもないだろう。彼が過去に何を見たのかは知らないが、わざわざ部活に入るほどのことなのだろうか。
そもそも未解決事件が好きだという時点で、典型的なミステリ好きではないか。ミステリとオカルトは水と油、決して交わらない関係のものだ。
彼のことがますます分からなくなってきた。
朝芽野は謎だ。
「そうだね。ここの生徒が依頼をしてくれることもあるし、学外からの依頼もいくつかね」
高木が答えた。
まさか依頼が来るとは思わなかった。それに学外からも。
「馬鹿馬鹿しい」
と、そこで朝芽野の向かって右隣に座る筋肉質な男が吐き捨てる。
「2年4組、
高木が言い返そうと口を開くが、それを遮るようにして名を名乗る。不穏な空気が辺りに
尾木と高木が睨み合い、すぐに高木が目を逸らして不敵に笑う。
「あ? んだてめえ」
「なんでもないよ」
今にも高木に飛びかかる勢いで尾木が立ち上がろうとしたところで、紗倉がわざとらしく長いため息を吐いた。
「ほんっと、相変わらずの短期野郎だよねーあんた」
尾木の視線が紗倉へと移る。
「馬鹿にしてんのか?」
「ほんとのこと言っただけだけど?」
「てめえ殺すぞ!」
張り上げた声はおそらく廊下にも届いたほどだっただろう。
中内が場を鎮めよう机に両手をついて立ち上がり「やめなさい」と制すも、紗倉は言葉を彼に投げつける。
「あいつみたいにあたしも殺すって?」
どこか色めかしさを含んだ笑みを尾木に向ける紗倉の目はしかし、鋭く吊り上がっていた。
「あいつを殺したのが俺だって言うのか!?」
「違うのかよ!」
「ちげえよ! あいつは勝手に死んでっただけじゃねえか」
場にいる皆を置き去りに続ける尾木と紗倉の口論の不穏さは、誰が聞こうが感じただろう。私自身もその『死』『殺す』という言葉を使用する彼らに、
荒立たしく立ち上がった尾木は、そのまま家庭科室を出て行った。
場の空気を入れ替えようと高木が立ち上がり、窓を開けに行く。そして席に座ると金髪頭に目を移した。まるで何事もなかったかのように淡々と言う。
「次は安住だよ」
「……え?」
「自己紹介」
「あ、ああ。2年4組、安住
何か言いたげな目を私達に向けるが、特に話し出す気配はない。
と、そこで紗倉が言った。
「そういえば、あんたまーた
「うっせぇなぁ」
「どーせ駐輪場に霊がいるー、とかでしょ?」
安田とは体育教師のことのようだ。
「いるんだって!」
「いるわけないじゃん霊なんて」
どうやら幽霊に否定的な人物は紗倉と尾木の2人らしい。ということは、この2人以外が心霊体験をした人達ということか。
安住は舌打ちする。
「お前らは知らねぇだけだ。俺のチャリが駐輪場で何回パンクしたと思ってんだよ」
「パンク?」
ここにいる全員が口を揃えて呟いた。
「え、何あんた。そのパンクが霊の仕業だって言ってんの?」
「ああそうだよ。他の奴らは被害に遭ってないのに俺のチャリだけがパンクしてるんだ。おかしいだろ?」
「誰かの
「ひょっとして、
高木が呟く。聞き慣れない言葉に反応したのは木嶋だった。
「それって、七不思議のですか?」
そういえば、部室に着く前に木嶋はこの高校には七不思議があると言っていた。
「そうそう、この高校で噂されている怪異だよ」
高木はスマホを取り出して、画面を見ながら説明を始めた。
「滝野森高校には7つの怪奇現象が存在するんだ。
その1『釘を持った男』。通称、釘男。夜な夜な学校を徘徊していて、見つかると追いかけてくる。捕まると、釘で足を刺されて走れなくなる。
その2『
その3『水から覗く顔』。夜になると水面から死人のような顔が覗く。その顔と目が合うと水の中に引きずり込まれる。
その4『火を噴く老婆』。夜な夜な老婆が火を求めて徘徊している。見つかると口から火を噴いて燃やされる。
その5『夜中に流れる放送』。夜になると誰もいないはずの放送室から放送が流れ出す。子供の笑い声や、生徒や教師の秘密が流れたりと噂は様々。
その6『死神の人影』。夜になると廊下に人影が現れる。見てしまうと泡を吹いて死ぬ。
そして、その7『首吊り女』。全ての怪異を見ると首を吊った女が現れる。
と、この7つだよ」
この高校、
「この高校、化物の巣窟ですね」
同じことを言うな寝癖少年。
どうも私の想像していた七不思議とは違う。
怪奇現象というより怪異そのものを示したものが多い。
釘男に至ってはただの変質者である。捕まると足を刺されて走れなくなるというのも、刺された足の箇所によれば走ること自体は可能な場合もある。高木が言ったように人の足ではなく、自転車の足とも言える車輪を釘で刺されるという解釈も確かにできなくもない。
『水から覗く顔』はおそらくプールに現れるものなのだろうが、ここは山奥だ。屋外のプールに猿などの野生動物が侵入する可能性もあるだろう。水から覗く顔が果たして人の顔だろうかというところだ。
そして『死神の人影』。これに関しては特に奇妙だ。見てしまうと泡を吹いて死ぬ。なぜ泡を吹く? 見たら死ぬ、だけで良くないだろうか。なぜそこに泡を吹いたら、を付け加えたのかが謎だ。
まさか、本当に死んだ生徒がいた……なんてことはないだろう。
それに『死神の人影』を見た時点で死んでしまうのならば、どう
「ちょうどその話も出たところだから、このまま超研の活動について話そうかな」
高木は既にカレーを食べ終えていた。紙コップにコーラを注ぎ足し、グイッと口に流し込んでから話し出す。
「我々超常現象研究部は、現象に着目している部だ。現象と言っても様々なものがあるけど、基本的には怪奇現象などの超自然現象を多く取り扱っているんだよ。さっきも触れたけど、生徒や学外の人達の依頼も受けていてね。実際に、研究材料としてそういう体験をした者を呼びかけてみたところ、奇妙な夢を見たとか心霊写真が撮れたなどの依頼が学内だけでも予想以上に集まったんだ。特に心霊写真に関しては、それを撮影した現地まで行って調査したりもする。そして、調査した結果を学園祭で展示、調査集の販売をして部費を確保している。その部費で新たな事件の調査をして解明していく。と、これが主な活動内容ってわけさ」
まるで探偵だ。いや、心霊探偵か。
「学外からも依頼が来るというのは」
「ああ、時々ね。怪奇現象が起きても警察にはもちろん正式な職の人に頼むのは気が引ける、という人達が多くてね。費用も馬鹿にならないし。だからSNSで呼びかけたりもしているんだ。事件が解決できる糸口が見えるのなら依頼者も安心するだろうし、僕らは僕らで研究材料が増えるのは嬉しいことだ。まさに一石二鳥ってね」
もはや部活動の域を超えているように思えた。学校側は問題ないのだろうか、こういった外での活動をしていることについて。
何気なく顧問である中内に目を向けると、高木の説明にうんうんと
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