超常現象研究部
「茜ちゃんが来てくれた!」
部室に着くや否や、れい先輩が出迎えてくれた。
「どうもです」
れい先輩は私の肩越しに後ろを覗き込み「蛍ちゃんも来てくれた!」と騒ぐ。そんな彼女に朝芽野は自己紹介をする。
れい先輩は昨日の雰囲気を微塵にも感じさせず、私はそれが妙に怖く感じた。一年逢わなかっただけでこうも接し方が分からなくなるなんて思いもしなかった。
しかし、そうなるのも頷けてしまう。
私はれい先輩が卒業して間もなく天文部を退部した。私はやはり誰かと親しくなることはできないと気付き、そのまま誰とも接することなく中学を卒業したのだから。
本当は高校も通うつもりなどなかった。そのまま就職しようと考えていたが、兄がそれを許さなかった。怒ることなんて滅多にない兄が珍しく私に怒鳴りつけた時は、呆気に取られたものだ。
結果的に私は兄の母校である滝野森高校に通うこととなった。偏差値の高い高校だったが、私の特技を駆使して何とか合格できたのだ。
「さささ、入って入って」
れい先輩に導かれるままに部室へと入る。
中の光景は想像以上にオカルトに包まれたものだった。
教室の中央には赤い布が敷かれた大きな机が鎮座している。恐らく4つの机をくっつけているのだろう。それ以外の机は後ろへと下げられ、椅子だけが無造作に置かれた状態だった。
後ろに並んだ机の上には、未確認飛行物体らしき模型や何かの岩の破片など様々な奇妙な物が乱雑に置かれている。
中央の机上にはノートパソコンが開かれたまま置かれており、画面には何やら気味の悪い部屋のような場所が映し出されていた。待ち受け画面だろうか。
前の黒板には、UMAや妖怪などのイラストからトンネルや歩道橋などの景色の写真まで、様々な資料らしきものが磁石でとめられていた。ふと、落書きだらけのブロックで塞がれたトンネルが映った写真に目が留まった。
テレビで見たことがある。
たしか、旧犬鳴トンネルだったか。
「朝芽野、昼休みなんで来なかった?」
部室内を観察していると突然、後方から女の声が飛んできた。
後ろの机に広げた化粧品を背に、椅子に
そういえば朝芽野、昼休みに誰かと会う約束をしていたと言っていた。もしかして、その相手があの彼女なのか。
ウェーブのかかった茶色の髪は肩まで伸び、メイクも相まってかギャル風の容姿に見える。しかし、ぱちりとした目元が少し垂れており、どこかおっとりとした印象を掻き立てているようにも思えた。
彼女は椅子から立ち上がるとこちらへ歩み寄り、朝芽野の揺らめく髪をぐりぐりと掻き回した。
「聞いてんのかおーい」
「ちょ、やめっ、てくださいよ」
彼女は木嶋よりも背が低く、朝芽野の髪を掻き回す間も短いスカートを気にもせず背伸びをしている。見ていられないほどにプルプルと足が
「昼休みはちょっとこの2人と急な話があって」
彼はチラッとこちらを見やる。その目は申し訳なさそうに細めていた。
「あんたたちも超研の体験入部者?」
彼女のその言い方からするに、元々朝芽野は今日体験入部に来ることを事前に伝えていたのだろうか。
私が頷くと、
「そっか、よろしくー。あたしは
と軽い調子で挨拶をした。
口端を上げてくりくりとした目を向けられ、すかさず私と木嶋はそれぞれ名乗った。
にこやかに頷くと、紗倉は朝芽野に向き直る。
「で? あんたはあたしに何の用だったわけ?」
「ああ、ええとですね。2人きりでないと話せないことでして」
「はあ? 突然あたしに声をかけたと思えば『話があるので昼休み空いてますか』って言うから待ってたのに、結局めんこいおなご2人とイチャイチャしてたってか」
まるでおっさんのような口調になる彼女だが、話の内容には朝芽野の行動の不審さが溢れていた。
確かに昼休みに彼を呼びつけたのは私だ。しかし、てっきり約束というのはただクラスの男子との
この2人も、私とれい先輩のように同中学の関係なのだろうか。
ふと木嶋の方を見ると、口許に不敵な笑みを浮かべていた。
視線に気付くと、私の耳元でこう呟く。
「多分ね、アレだよ堂城さん」
「アレ?」
「恋だよ、恋」
ははん、どうやら私の管轄外の話らしい。当然ながら毛頭踏み込むつもりはない。
部室にはれい先輩と紗倉の他には誰もいなかった。と思いきや、後ろに並んだ机の下からひょこひょこと左右に揺れる何かが飛び出ていることに気が付いた。
「あれ……は?」
「ああ、あいつね」
紗倉が振り返り、ため息を吐く。
「あいつは
「はあ」
よく見ると制服を着た風船のような男が、膝をついて机の下に上半身を潜らせていた。
何かを探しているのだろうか。
「やや、もしかして体験入部者かい?」
背後からの陽気な声に振り向くと、そこにはトーテムポールを連想させるほど背の高い男が立っていた。
もしかすると190センチくらいあるのではないだろうか。制服の丈が足りていなくて、両手足首の肌色が見えていた。
短髪に細長い顔、目が異様に細くて開いているのかどうかが分からない。その為か常に笑っているようにも見える。特徴的なのはその鋭く曲がる
呆然と立ち尽くしている木嶋は、その背の高さに口をあんぐりさせていた。
「やあやあ、こんにちは」
そんな木嶋に気付く気配もなく、またしても陽気な声を私達に投げた。
皆ぎこちなく会釈をすると、
「ふむ。嬉しいね、3人も来てくれるなんて」
とわざとらしくふんふんと頷く長身男はまるで、ハリウッド映画に出てきそうな雰囲気を漂わせていた。
「おい
「本当よ。もっと
「薄らって。仕方ないじゃないか。僕は背が高いんだもの」
陽気さは常に彼の長身に
「ん?」
と、そこで高木と呼ばれた彼は、木嶋の顔をまじまじと見つめ始めた。
「あう……」
見つめられ、硬直した木嶋の目線が私に飛んでくる。
SOSの合図だ。
「あ、あの。彼女が何か?」
訊ねると、彼はハッと目を逸らし、
「ああ、いや、どこかで見たことある気がして」
と呟くが、すぐに首を振る。
「いや、気のせいだね。ごめんごめん。さてと、では行こうか」
てっきり部室に入るのかと思ったが、高木は
「どこ行くんですか?」
朝芽野が訊ねると高木は「家庭科室だよ」と返答した。
なぜ家庭科室なのかと訊こうとしたその時、部室から「あったぁあああ」と叫ぶ声が響き渡り、言葉は遮られた。
「気にしなくていいよ。植木は変なやつだから」
紗倉が吐き捨てた。
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