第15話 夢か現か③

 今年も、もうすぐすると、お盆の季節がやって来ます。


 幼い頃、と言っても、確か小学校1、2年生の頃でしょうか?

 祖母の家に、お盆とお正月に行くのですが、偶々、その年のお盆は、お泊りをしました。


 寝るところは、仏間の畳の上でした。

 そこに、家族と川の字になって寝るのです。


 お仏壇の横には、お盆特有の提灯?または灯籠?に模した、丸い雪洞の灯りが、柔らかな黄色い色を辺りに揺らめかしながら、灯っていました。


 もちろん、そういう豆電球を使っているのでしょう。


 消灯しても、それが灯っている為、仏壇横の掛け軸の下にある、仙人か神様を象った彫刻の置き物が、二つ、薄っすらと見えていました。


 その部屋から出たすぐの廊下端には、地下に続く階段があります。


 地下は、割と深く、もちろん、真っ昼間でも電灯を灯さなけりば、暗くて中は見えません。


 私は、そんな地下が怖くて、子供ながらに、不気味さを感じていました。


 さて、いざ寝ようと部屋の天井の照明が消されました。


 わたしの寝ている場所は、先程の掛け軸が掛けてある床の間が見える位置でした。


 子供だったので、照明が消されると、すぐに眠気が襲ってきました。


 その時、何気ない調子で、見ていた掛け軸の下にある木彫りの神様だか、仙人だかが、二人で、身振り手振りをしながら、頻りと話しているではありませんか。


 眠い目を何度しばたたかせても、動いて見えます。

 横に寝ている兄を起こしました。


 ですが、うるさいなぁと相手にしてくれません。


 私は、仕方が無いので、それを見つめ乍ら、じっとしていました。


 でも、眠くて仕方がありません。


 そして、私は、いつの間にか眠っていました。



 そして、朝になりました。


 私は、昨夜のことは、やはり、何かの間違いだろうと思い、いつしかそのことを忘れて、朝ご飯を食べました。


 そうして、仏間に行き、もう帰るので線香をあげに行きました。


 見るとは無しに、あの置物を見た所、その置物の顔の口の部分が赤黒く変色しているのに気がつきました。


 何だろうと思いましたが、これは古そうなので、そんな色に勝手に変色してきたのだろうと勝手に判断しました。


 帰るのなら、葡萄酒を持って帰れというので、私と兄は、地下へ降りて行きました。


 そして、葡萄酒の瓶を持ってきましたところ、それを作っている祖母が、この葡萄酒、少し量が減ってるねと言いました。


 その時は、祖母が葡萄酒の量を勘違いして覚えているのではと思いました。


 ですが、ちょっと気になることがありました。


 私は、あの床の間の置物にある変色したシミの匂いを嗅ぎました。


 すると、微かに、甘い葡萄酒の匂いがしたのです。


 祖母が言うには、時々、葡萄酒の味見をしに、地下室へ降りて来られるらしいのです。


 でも、誰も見たことが無いとのことでした。


 もし、私があのまま眠らなければ、それを見ることが出来たかもしれません。


 いいえ、やはり無理だったのでしょう。


 あれは、仙人か神様だから、私にあの時、睡眠魔法をかけたに違いないのです。


 私は、今も、その体験が忘れようにも忘れられません。


 この前、祖母が亡くなりました。


 お葬式があり、あの仏間に行ってみると、床の間にあった、あの木彫りが無くなっていました。


 そこの家人に訊いても、誰もその所在を知りませんでした。


 去年も、確かに見たのに、いったいどうしたことなのでしょうか?


 今となっては、私の記憶しか、あの木彫りは存在しないのでした。


 だから、あなたにも、この記憶をお伝えしますね・・・うふふふふふ。

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