Ep.22 まれびとに伝わる
マテリは精霊が近づいてきてもやはり横になったままだ。どうやら木陰の下が心地良いようでそこから動きたくないみたいだ。
その間にも精霊は地上に近付き、マテリに話しかけようとしていた。一体何の用があるのだろう?
「よぉ!まれびと君じゃん。気持ち良くお昼寝してるとこ悪いんだけど立ってくれないかな?」
「な、何だよいきなり」
〈凄くグイグイくる精霊だ。チゴペネでもこういうヤツは何回も見てきた。暖かい気候がそうさせているのだろうか。そんなヤツがここにもいたのか。〉
〈取り敢えず言われた通り立ち上がり顔の高さを近づけた。〉
「高いな、身長。背伸びしても届かなねぇか。精霊って色んな身長のヤツがいるんだな」
「俺より高いヤツはいるぞ?お前には俺が高く見えるんだな」
「っで、精霊さん達が俺に何の用なんだ?」
〈一番重要な質問だ。そもそも何で気持ち良く横になっている時にわざわざ起こしてくるのだから何か用があるに違いない、俺はただの人間なので特別な能力などない。だから余計に気になった。〉
「いや、特にないぞ。だってお前はただの人間じゃないか。ただ外からやってきたって人間が気持ち良さそうに昼寝してたから興味本位で話しかけに来たんだよ。さっき上の方で聞いたけど、本当に何の変哲もない人間なんだなぁ」
「悪かったな、まだ来たばっかりでここのことなんか何も分かってないんだ。そんなところで何の能力もない俺は迷い込んだんだよ。友達からこの世界で生き残るならここに住めって言われてな。それにお前の言う通り俺は村からまれびと扱いされてるんだ、もうわけが分かんねぇよな」
〈ちょっと小馬鹿にされたような言い方をされたのでこちらも少し皮肉気味に返してみた。でも言っていることは何も間違っていない。俺はただの人間で村人にまれびととして扱われている。精霊になるためにはここで暮らすのがその一歩だ。〉
「まあでも成長出来る余地はあるみたいだな。今夜は村人に正式に迎え入れられるんだもんな。俺も見に行くからがっかりさせないような行動してくれよな」
「ん?何の話だ?」
〈最後の話は一体何だろう?「俺も見に行くから」何を見に来るのか?眉間にシワを寄せて考えたが精霊が見に来るような行事があるとは聞いていない。〉
「あれ、聞いてないのか?このあと日が沈んだらお前を村人として迎え入れる祭りがあるんだぞ?まさか本人が知らなかったとはねぇ」
「えっ?そんなのがあんのか、一言も聞いてないぞ?」
〈本当に聞いていない。この日の夜は通常通り飯を食ってシャワーを浴び、そして寝る。これがあるだけだと思っていた。そしてその祭り……誕生日でもないのに自分が主役となる行事だ。一体何の儀式が待っているのだろう。何をされるのだろう。〉
「あぁ〜、なるほどアイツ内緒にしてんのか。サプライズにでもするつもりだったのかな」
「アイツってもしかしてデナキュガのことか?」
「そうさ。来客が来たらアイツが迎えに入れるって決まりみたいなんだよ」
「それは聞いたよ。夢の中でね」
「おぉ、なら今と同じだな。お前が見てるこの空間も夢の中だよ。お前気持ち良さそうに寝てたからなぁ。それも初めてこんなところきたみたいな顔してたからなぁ」
〈精霊の人を見る目は凄いなぁと思った。まさに彼が言った通りのままだ。気持ち良さ故についうたた寝をしてしまったのだろう。その証拠にいつもより体が軽い気がする。一瞬でここは夢の中だと察知できた。〉
「精霊ってこういう、人の気分を読み取るのが上手いのか?」
「さぁ〜、どうだろう?普段は村人見ても気分なんて察知出来ないぞ?多分お前があまりにも気持ち良く寝てたから察知出来たんだ。それだけお前は心が動いたんだろうなぁ。まぁまれびとさんだからかな」
「そ、そっか……俺ってそんなに村人から感情が離れてるんだなぁ」
「そうだな、まだ村に馴染んでないからだな。それもちゃんとここで生活してけば慣れてくって。そしたらもう村人と区別がつかなくなるけどな」
「そうなったら俺も集団の中に溶け込めたってことだよな。そう考えるとなんか嬉しいな」
「今日の夜はその第一歩になる行事だぞ?俺も見に行くのが楽しみだなぁ。友達呼んで見に行くか!」
「ちょ、そんなに期待すんなよ。こっちは昨日迷い込んだ何の変哲もない人間なんだからよ」
〈過剰に期待されては困る。それはただプレッシャーがかかるだけなのでやめてほしい。でも彼が言った通り、今日の夜は俺が村人して迎え入れられる第一歩。しっかりと染まっていけるよう頑張りたい。〉
〈不思議と前向きになれている。やっぱりさっきから浴びている優しい風や小鳥の鳴き声の影響だろう。この風土なら案外簡単に馴染めるかもしれない。今度は自分に対して期待する感情がのぼる。〉
「分かった、分かったよ。お前は村人じゃないから俺達が期待するようなペースじゃ進まないことぐらいは分かってるよ。言っちゃ悪いけど村の、相手の期待にやられちゃうじゃないかな。それでプレッシャーに駆られると思うよ。でもそれをどう乗り切るかが見たいんだよ。それにお前、今気分が良いだろ?そのノリで行けば平気だよ」
「そうか?じゃあ良いんだけど……他のヤツにもちゃんと楽しませられれば最高だな」
「俺も含めてこの村は人間と精霊と妖怪の力で成り立ってるからな。そうやって作られたこの土地の風土を気に入ってもらえてこっちは嬉しいよ。ぜひこれを良い思い出にしてくれよな。またお前が良い気分になってる時に俺の友達も一緒に来るよ。ってことでじゃあな」
〈そう告げた後❝ビュン!❞と飛んでいってしまった。とにかく彼の話で理解出来たのはこのあと、俺を村人として正式に迎え入れる儀式があるということとそれを精霊達が見に来るということだ。アコリウィからは精霊になることが街を探す術だと聞いたので、精霊には気に入られた方が良いに決まっている。彼らの期待に答えられるだろうか?〉
「はっ!やっぱ夢だったのか……後でデナキュガに聞いてみるか」
〈目が覚めた後も心地良さが残っていた。多少ガッツリと来る精霊だったがデナキュガの知り合いだと言っていたしおそらく本当だと思う。彼は人脈が広いみたいだし、精霊とも交流があると言っていた。精霊が言っていた祭りもきっと彼が招待したのだろう。なら村人や精霊を喜ばせられるよう精一杯やってみようではないか。新しい世界で自分の居場所を獲得出来るチャンスだと解釈した。〉
マテリは村人が行う儀式を意識し始めた。しかし、それを考えているうちにまた風と鳥のさえずりに誘われて眠ってしまった。
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