Ep.16 異世界の生活品

 〈それにしても腹が減った。空腹なのでそんなに味に不安はなかったがそうでなかったら口に入れるまでかなりの時間を必要とするだろう。なぜならチゴペネにいた時に他の地区の食事が美味しくなかったからだ。でもさっき口にした緑色の塊は美味しかった。これは他の食べ物も期待して良いのだろうか。〉


 「なぁ、ここの村の料理ってうまいのか?さっきリガブも言ってたけどまずは皆と飲み食いしなくちゃならないんだ。料理はうまい方がいいよ」


 「ん〜どうだろうなぁ……他の村から良い評価はあんまり貰ったことがないからなぁ……でもお前がさっき食ったのは美味かったんだろ?それが良かったんなら食事に関しては問題ないと思うけどなぁ」


 「どうして?さっき食った緑色の塊と同じ成分が入ってるのか?」


 「俺達はあんまり食事は気にしない方だけどあれと同じ材料で作られてる料理を食うから味は悪くないと思うぞ?」


 「なるほど、それならそんなに心配はいらないな」


 〈チゴペネでは食事はこだわる人が多かった。俺の住んでいた住宅の周辺には大きなイェレマケ川から採れた魚市場があったし、暖かい気候を活かして果物や野菜を育てたりもしている。商店街に行けばそういった食料が確保出来たので自然と食にこだわるようになったんだと思う。〉


 〈だがここを見渡す限り大きな川は見当たらないし、村にも大きな市場はない。チゴペネの隣町に行ったとき、そういった光景を目にしたがそこの食事が不味くて吐き出したことを覚えている。ここも光景は似ているので同じようなものだろうと思い聞いてみたがさっき食べた緑色の塊に似ていると回答がきたので心配は薄れた。〉


 「じゃあマテリは先に村の方に戻っててくれ、俺も後からすぐに追いつくからさ」


 「ほらマテリ、行くぞ」


 「あ、うん……」


 〈とりあえずリガブと一緒にテーブルのある村の建物に移動した。その途中にも森の方に近付いていくデナキュガを見ていた。何を取りに行ってるんだろう?推測するとすればこの村には電気が通ってないので薪を集めている。チゴペネでも電気が通る前は明かりは火を使っていたというからある程度分かる。〉


 〈きっと夜に備えて薪を集めに行ったのだろう。チゴペネも都市化される前は一帯に木々が生い茂っており皆が薪を集めに行ったと記録に残っている。そして夜に明かりを灯して集いを楽しんだらしい。明かりのないこの村では昔のチゴペネの生活を模擬体験することになるのだろう。キャンプをしているようで面白さもあるがそれがずっと続くと考えると不安が止まらない。〉


 〈ひとまず不安になるようなことは考えないようにしよう。リガブと一緒に木で出来たテーブルに座りデナキュガの到着を待った。その間にリガブと小話して時間を潰す。〉


 「なぁリガブ、お前ってデナキュガとはどんな関係なんだ?」


 「ん?ただの友達だよ。あいつ結構人間関係の広いヤツだからな。色んなヤツと交流があるんだよ。困ったことがあったらアイツから人を紹介してもらうといいぞ」


 「ああ、分かったよ。ありがとう。交友関係が広いってことはもしかして精霊にも知り合いがいたりするのか?」


 「あるよ、何なら俺も何人かの精霊とは仲が良いんだ。精霊と親しくなると人間には出来ない色んなことが体験できるぞ。俺は精霊の一人に日が落ちる前に隣の町に連れてってもらったことがあるよ。いや〜あれは忘れられないよ」


 「へぇ、それは楽しそうだな」


 「お前もここの生活に慣れれば誰か精霊と仲良くなれるかもな。そうなれるように頑張れよ」


 「確かにチゴペネにいた頃には出来なかった体験ってしてみたいな、しゃないと退屈な生活になるもんな」


 「なぁに2人で話してんだ?戻ってきたぞ」


 2人が話している間にデナキュガが戻ってきた。両手にはこれ以上入らないというほど薪が詰められテーブルから少し離れたところに置いた。


 「おぅ、お疲れさま」


 「いやぁ〜結構重くて運ぶの大変だったよ」


 「そりゃあそんな顔が見えなくなるぐらいまで詰めばそうなるだろう」


 「まあな、あとこれもだな」


 「何だその赤いのは」


 〈気になったのはデナキュガがポケットから出した赤い粉だった。最初は香辛料だと思ったが薪の凹んだ部分にかけていたのでそれは違った。食べ物でないとしたらどんな使い道があるのだろう?〉


 「あぁこれか、これをかけると擦った時火が着きやすくなるんだよ。作り方は簡単なんだけど時間がかかるのが厄介なところなんだよね……じゃあマテリ、どれだけ簡単に火が着くのかじっくり見てろよ」


 そういうとデナキュガは自然に出来た木の溝に細い棒を当て、複数回擦り始めた。


 ❝ボワッ!❞デナキュガが擦ったか所から音を立てて火が上がった。炎は人の手ほどのサイズまで高くなりデナキュガはそこに落葉や木の粉を詰めて火を維持した。


 「わぁ!火が着いた。すげぇ……こんな道具みたことないぞ」

 

 〈数回擦っただけなのに火が着く、この現象はチゴペネで見たことはない。イベント時は大体、力のある者が何度も何度も擦って煙を立たせてから着火するのが定番で俺もそれくらいしか見たことがなかった。〉


 〈何が起こったのか分からず一瞬、頭が固まったが火着けた後の工程はほぼ同じでこれからイベントが始まるぞとワクワク感が出てくる。〉


 「じゃあ、水汲みに行くか。リガブ、火ちゃんと見ててくれよ」


 「分かってるって、お前もちゃんとキレイな水汲んできてくれよな。水がダメだと全部不味くなっちまうから」


 「はいはい、じゃあマテリ行くぞ」


 「あっ、はい」


 マテリとデナキュガは水汲みするために湧き水の方向へと歩いていった。

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