Ep.15 下山後の小さな不運
マテリ達3人が山を下って時間が経った。そしてもう既に人里へと着いているのだが、マテリはデナキュガに言われた通り足元を気にするのに夢中な状態、もう到着していることに気付いていない。
つまりまだ前進しているのだ。その先に水溜りがあることを知らずに……。それをデナキュガは楽しそうに見続けていた。それを一緒に見ていたリガブは止めようとしたが。
「おいリガブ、せっかくだからアイツが落ちるのを眺めないか?アイツの間抜けな姿が見れるぞ」
「おいおい、それはさすがに可哀想だろ……」
「大丈夫大丈夫、所詮膝下までの深さしかないし、転ぶだけで怪我はしないよ」
「お前中々悪いこと考えるな……まぁいいや」
そんな2人の考えをよそにマテリは水溜りの方向へと一直線、デナキュガはドッキリのようなその展開を楽しんでいた。
「あぁぁぁ!チッ!やっちまったよ……」
〈足元に夢中になりすぎていた。薄橙だった肌の色が一瞬にして泥の色へと変った。完全に油断していた。デナキュガに言われたことを意識しているあまり地面には窪みや水溜りがあることを完全に忘れていた。泥に覆われた左足を見てちゃんと前を見てれば良かったと後悔すると同時に洗うのが面倒だなという気持ちにも陥った。〉
「また洗うのかよ……面倒くせぇなぁ」
〈さっき、この村の水は菌が少なく清潔だというのは知ったがそれでもいちいち足元に冷たい水をかけるのは手間がかかる。しなくて済んだことなのに……文句を言いながらも汚れたところを擦りながら洗った。〉
「おい!お前らまさか知っててそのまま見てたんじゃねぇだろうな」
〈リガブはともかくデナキュガは明らかに笑っている。きっとこのことを知っていて気付かずに落ちるところを狙っていたのだろう。たちまち文句の矛先が彼に向かった。〉
「デナキュガ!お前笑ってるな。絶対知ってただろ、お前のせいで足が汚れちまったじゃねぇかよ」
「あっはははは!いやいやごめんって、あんまりにもお前が水溜りに一直線だったからさぁ、お前がドジ踏むところが見たくなったんだよ」
〈絵に描いたようなドジの踏み方をしたせいで恥ずかしくて顔が赤くなり始めた。大衆の目の前でコケた時と同じ恥ずかしさだった。しかし、見渡してもこの状態を見ていたのはデナキュガとリガブ、それに少数の村人だけだったのが不幸中の幸いだ。さて、ヤツにも同じく泥を浴びてもらおうか……〉
「ったく!なぁ、お前にもこの泥ぶっかけてもいいか?ちょっと腹立たしいからそれくらいさせてくれ。ハハハッ!」
もはやマテリは怒っているのか笑っているのか分からない。デナキュガに向けて右手に盛った泥を投げつけて追いかけ始めた。
「ほら待てよ、それ!俺に恥ずかしい思いさせやがって、お前も一緒に泥だらけになれよ!」
「うわぁ、きったねぇ……お前……、やってくれたな」
「さっきのお返しだよ。ふぅ〜スッキリしたな。これでお互いさまだな。お前も泥まみれになって笑えてくるよ」
〈泥がデナキュガの右腕に当たったのを確認してイライラが飛んでいった。口を横に広げ白い歯を剥き出しにして喜んだ。吐く息も回数を重ねるごとに温度が下がっていきゆっくりとなっていく。そして泥を乗せていた右の手の平見て洗い流そうと思考が浮かんできた。〉
マテリは手を洗おうと近くを流れる小川に向かう。
「ここで洗うか」
マテリは足を勢い良く小川の中に突っ込んだ。
「冷てぇ!」
〈そうだった。この世界の水がチゴペネと違って冷たいことを忘れていた。氷の中に閉じ込められたような感覚が足に走り、一瞬動かせなくなった。すぐに治まったので一度足を水から出したが足は氷と同じく冷たい。次はつま先から慎重に入れることを心掛けよう。〉
「!?やっぱ冷てぇなぁ……」
〈冷たさに動きが止まりそうになるがここは我慢してさらに足を中に入れる。つま先、かかと、くるぶしと徐々に足が水に浸る。この時点で既に足を引き上げたいのだがずっと汚れたままというのはもっと嫌なので我慢して汚れた部分を手で擦る。〉
〈泥を踏んですぐに水に突っ込んだおかげで一回擦っただけでかなり汚れが落ちていく。絵の具が付いた筆を水の中で擦る時と同じようなものだろう。10回も擦れば足は元の薄橙に戻るだろう。〉
「まあこのくらいで良いか。ったく、もうこんなことで恥かくなんて御免だよ。今度こういうのあったら前もって知らせてくれよ」
「わ、分かったよ。そうした方が良いってことも分かったし、俺も酷い目にあったからな」
デナキュガもマテリがここまで恥をかいたとは知らずに仕返しにあってしまった。これは本人にとっても予想外だったようで泥を当てられた右腕の部分を何度も目視していた。
「マテリ、腹減っただろ。村の方に戻ろうぜ、そろそろ昼食の時間だから皆用意してるだろうよ。さっきまれびとの話は聞いただろう?これからスルサカと村人が苦労して作った作物の料理が出てくるぞ」
〈確かに腹が減ってきた。だが違和感を感じる。太陽が動くスピードに対して食事する時間が早いような気がするのだ。多分昼食の次は日が落ちた後の夕食だろうがそれまで長過ぎる。これは空腹感とも闘わねばならないかもしれない。〉
「はーい、もう俺も腹ペコだよ。この村で採れた野菜の料理か、そういえば本格的に食うのは始めてだな。どんな料理が出てくるんだろうな」
〈ちょっと不安にも思うが行くとしよう〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます