Ep.14 ふと感じた異世界感

 マテリ·デナキュガ·リガブの3人は精霊が去った後、来た道を戻り村に帰っていた。


 〈それにしてもデナキュガもリガブもやけに歩くスピードが遅い。空腹になって歩くことに集中出来ていないのだろうか?でも2人とも俺とは違ってペースは安定してるし左右の揺れも少ない。よく分からなくなってしまった。〉


 「マテリ、足元気を付けろよ?」


 「悪いな……こういう所もあんまり来ないもんだから不慣れなんだ」


 そういったのも束の間、マテリは転倒してしまう。


 「おっ、うわぁ!痛ってぇなぁ……」


 〈登り中は何ともなかったのに下山になった途端これだ。チゴペネにいた時は山はずっと遠くに行かなければ見ることが出来なかった。それが今は村のすぐそこまで迫ってくるところに住んでいるのだ。こんなんで環境に適応出来るのだろうか。先が心配になってくる。何かアドバイスを教えてはくれないのだろうか〉


 「なぁ、お前ら2人ともさっきから1回も転んでないけど、何かうまく歩くコツでもあるのか?あるなら教えて欲しいんだけど」


 「じゃあ俺達がどんな歩き方してるかよく見てるんだ。今ここで往復するからしっかり確認しとくんだぞ?」


 デナキュガが歩き方を実践してみせた。坂と坂の間にある平らな広場のようなところを行ったり来たりを繰り返し、マテリにこうやって歩くんだぞと見せていた。

 

 「どうだ、分かったか?」


 「全然」


 〈つまらなそうに答えた。ただ行ったり来たりを繰り返してるだけで何にも答えてくれない。当然健闘なんてつかない。こっちはクイズを楽しみたいわけではないのだ。こういった行動は時間の無駄でしかない。彼の行動を遮ろう。〉


 「なぁ、俺はクイズをしたいんじゃなくて転ばない歩き方を知りたいんだ。そんな意地悪しないで早く教えてくれよ」


 「……ああごめん、でも本当に何にも気付かないのか?けっこう大げさにやったんだけどなぁ」


 〈彼は残念そうな顔をしているが分からないものは分からない。早く教えてほしい。〉


 「全く分からない。俺の歩き方と何が違うんだ?」


 「じゃあ今度はお前も一緒に歩いてみろ。一緒にやった方がすぐに習得できるさ。だから歩いてみろ」

 

 「こ、こうか?普段通りの歩き方だけど」


 するとデナキュガはすぐにマテリの歩き方の欠点を見つけ出した。


 「ほら、そこだよ。もう俺は分かったぞ」


 「だからそれは何だよ」


 「腰だよ。お前、歩く時に腰を一緒に出してるだろ。そのせいで一歩一歩が大きいんだよ。歩幅が大きいから小さな足場を踏みそこねるんだよ」


 「ああ、なるほど。意識したことなんてなかったよ。俺ってそんな歩き方してたのか。言われなきゃ分かんないよ」


 〈歩き方なんて気にしたこともなかった。歩き方に違いがあったことだって彼に指摘された始めて気付いたのだ。歩き方の違いという概念がそもそもないのだからデナキュガのこの問題に答えられるはずなんてない。無理難題を突きつけられてしまった。脳内に新しい知識が横から入ってきてグイっと何かに押されたような気分だ。〉


 「でも今覚えただろ。俺達がやってるみたいにもっと小股で膝を動かすことを意識するんだ」


 「普段やってない動作だから思う通りに足を動かせないんだ。ちゃんと出来てるか見ててくれよ」


 ❝ザクッ!ザクッ!❞マテリとデナキュガの落葉を踏む音が広場に響く。片方はうまく歩いているがもう片方はよく躓いている。前に出そうとしている足が腰に引きずられて形が崩れてしまうのだ。それを見てリガブは思わず隠れて笑っていた。やはり勾配のあるこの森の中で奇妙な歩き方をしているので笑いを抑えきれないのだろう。


 「どうしても腰からいく癖があるんだなぁ……そこを直すのが一番なんだけど……まぁいいや、取り敢えずもっと歩幅を小さくすることなら出来るだろ?そこを意識して降りるんだ。じゃまた下りるぞ」


 3人はデナキュガを先頭にまた下山を始めた。


 〈小股に小股に……デナキュガはこれを意識しろと言っていたが確かに重心が安定した気がする。自分がどれだけこの世界について無知なのかを知った気がして何だか悲しくなってきた。精霊になって楽園を探すというゴールがどんどん遠のいていく気がする。〉


 〈嫌だ嫌だ、まだまだ序盤だ。こんなところで挫けているようだとそのうち野垂れ死にすることは目に見えている。何とかしてこの感情をなくさねばならない。〉


 「ハァハァ……なぁ少し休憩してくれないか?さっきから歩き方を意識してるせいか体力の消耗がすごいんだ」


 「そうだな、少し急ぎすぎたかもしれないな。まだ時間はあるし少し休もう。そこらへんの石に腰掛けると良いぞ」


 「ふぅ~疲れたし腹減ったなぁ……」


 〈まさか歩き方を指摘されるとは思っていなかった。そしてこの時自分は改めて異国に、異世界にやってきたのだと実感した。村で生活しているうちにどんどん彼らと自分の価値観や行動の違いが垣間見えるのだろう。ちゃんと慣れていけるだろうか?〉


 「それにしても見通しの良い森だな」


 〈ネガティブになっても仕方がないので辺りを見渡して気分転換しようと首を左に向けた。チゴペネにいた時には気にしていなかったが薄く小さい緑色をした葉から光が差し込む姿を見たことがなく観光気分に満たされ、ネガティブな考えが飛んでいった。〉


 「なぁデナキュガ、この辺りの木って随分葉っぱが小さいけどこんなんで木って育つのか?」


 「あ、当たり前だろ。枯れ木からどんどん芽吹いてきてんだからこれから成長してくとこだぞ?植物ってそういうもんだろ?」


 「それは知ってるけどこの辺り一帯全部葉っぱが薄いからそれまで枯れてたのかと思って……」


 「?……おかしなこと言うヤツだな。何が言いたいんだ?」


 「木が1本だけ新芽が出てるんなら葉っぱが付け変わる時だって分かるんだけど、ここの木は辺り一帯が一斉に芽を出してるもんだからつい最近まで木が枯れてたのかと思ったんだよ」


 「ああ!そういうことか。内容が途切れ途切れに言われると何が言いたいのか分からないんだよ。もっと結論を絞ってから話すことを心掛けてくれよ」


 「わ、分かったよ……でも言われるみるば俺って内容ごっちゃごちゃになってるな……気になるところがあったら指摘してくれないか?」


 「お互いにな?っでさっきの話だけど、新芽が出てるからにはこれからどんどん葉っぱは大きく濃くなってくんだ。これから温度は上がってくから当然だな。逆に聞くけど、お前の世界だと木は枯れることがないのか?さっきから枯れてる枯れてるって連発してるもんだから気になってな」


 「チゴペネじゃこんな風に一斉に芽吹くなんてことないからな。爆発事故で葉っぱが落ちた後にこんな風に一斉に芽吹くのはニュースで見たことあるけど、ここも前にそんなことがあったのかと思ったんだよ」


 〈ここも過去に爆発事故があったのかと一瞬焦ったがデナキュガによれば違うようなので安心だ。それに葉っぱはこれからどんどん濃くなっていくというではないか、チゴペネみたいにもっと賑やかになっていくのではないかと楽しみだ。〉


 「何か、チゴペネだとあんまり景色に変化が無さそうだな……常に濃い緑色の木が茂る世界か、さぞかし森の中は賑やかなんだろうな。機会が巡ってくれば一回行ってみたいな」


 「本当にね、是非ともデナキュガにもチゴペネを歩いてほしいもんだよ。でもこういう一斉に明るい緑色の森を歩くってのも悪くないね。ところで、そろそろ体力が戻ったから先に進んでも大丈夫だ。足止めて悪かったな」


 「いや、平気さ。もともとお前の動き方にハラハラさせられてたし一回休ませた方が良いって考えてたんだ。無理して怪我したら元も子もないからな。これからもまた山に登ることが多くなるけど、さっき俺が言った通り小股で歩くことを意識するんだぞ?そうしてけば次第に慣れて転ばなくなってくるからな」


 「やってみるよ」


 〈これからチゴペネの賑やかな森の中に近付いていくと考えると気分が高まる。それにつられて疲れたも吹っ飛ぶ。この広場の地点ですでに半分くらい降りてきたのであとはデナキュガに言われたことを守ればすぐに村に着くだろう。下山中は特に足に意識を向け、歩くことに集中した。〉

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