第4話激化

次の日、学校に行くとサキ達が美晴の机を包囲していた。

恐る恐る美晴が机に近づくとサキがニヤリと不気味な笑みを浮かべて

「美晴、アンタ昨日誰と話してたの?」

と何時ものように正美、美香、加奈子を従えたサキは高圧的な態度で美晴に迫ってくる。

「え…っと…」

一翔達の事を言えばきっと面食いなサキは彼らにアタックしに行くに違いない。

美晴が言葉を濁していると

「さっさと教えろって言ってんだろ!?」

と叫びながらサキが美晴の机を思い切り蹴り倒した。

机は勢いよく倒れ、教室中に大きな物音が鳴り響く。

その剣幕にすっかり怖気付いた美晴は感覚の鈍い唇を動かして

「一翔さんと、義経さん、季長さんと一緒に居た。」

その口から発せられた声は自分でもびっくりする程に抑揚の無く、冷たかった。

「アンタ、何有名人と平気でつるんでるの?ブスの癖にっ」

サキは乱暴に吐き捨てると何処かへと行ってしまう。

「ブスの癖にっ」その一言が美晴の小さな胸に深く突き刺さり、その日は授業に集中出来なかった。



そして次の日のこと。サキが裕太に対して甘ったるい笑顔を浮かべ、気味の悪いくらいの猫なで声でスマホを片手に持ちながら

「ねえ〜裕太君、アタシにライン教えてよー」

と馴れ馴れしく体をスリスリしながら彼にラインの交換を強請っていた。

「悪いけど俺、お前みたいな悪口ばかり言う女嫌いだから、それにこれから一切明日美と里沙、奈央の悪口を言うな。あと二度と佐竹をイジメるな。分かったら俺の前から消えてくれ。」

裕太はすり寄ってくるサキにそう吐き捨てると教室を出ていく。

その時誰も気づかなかった。サキが明日美や裕太を見つめる目が激しい怒りや憎しみがこもっていたことに。


その日からサキやその取り巻きによる攻撃は始まった。

ある日サキが裕太に向かってわざとシャーペンを投げ、それが裕太の白い頬を霞めて傷を作る。

「痛っ」

反射的に頬を手で押さえつける裕太に向かってサキとその取り巻き達が吠える。

サキ「あんたね、顔が良いからって調子乗るんじゃないわよ!。」

加奈子、美香、正美「そうよ、そうよ調子乗るんじゃないわよ!!」

「ちょっと、裕太は何もしてないじゃない!」

明日美がすかさず助けに入るとサキは彼女を思いっきり突き飛ばす。明日美は派手に机や椅子に体を打ち付けて暫く動けない。それを見た奈央と里沙はすかさず明日美を抱き起こすと両脇を支えながら保健室へと連れて行ってくれた。

「ごめんね、二人とも。」

そう言うと奈央と里沙は首を横に振って「大丈夫よ」と言った。


その頃教室では

「おい、今明日美に何した?」

裕太が地を這うような低い声でサキ達に凄んだ。

「何したって、突き飛ばしただけでしょ?それとも何かしら?」

サキがアタシは何も悪くないわとでも言うような感じで全く悪怯れていない。

「お前ら、今度明日美に何かしたら許さないからな。」

裕太は鋭い殺気を放ちながらサキ達に凄むと流石に怖くなったのかサキ達はヒソヒソ言いながら何処かへ行ってしまった。


「明日美ちゃん大丈夫?」

里沙が明日美の背中を優しく撫でる。

「うん、大丈夫。」

まだ身体は痛むけれど随分と痛みは和らいでいた。

「後で里沙とわたしがクッキー持ってくるから。」

「ありがとう。」

明日美は自分に優しくしてくれる幼なじみ達の存在を有り難く思った。


それから数日経って明日美がちょうどタイムワープして来た義経と河川敷の桜を見ていたとき。

「少しばかり葉の混じった桜も美しいな。」

「うん、そうだね。よっちゃんが平泉にいた頃はまだ桜は咲いてなかったよね?」

二人で楽しく花見をしているところにサキがやって来て明日美を思い切り突き飛ばすなり彼に

「源さん、アタシと文通しない?」

と猫なで声で強請る、一体どこで彼の名前を知ったのだろうか?それに義経は色白で目鼻立ちの整った中性的な美青年なのでサキが好意を抱くのも無理はないかも知れない。

しかしそんな彼女に対して彼は鋭い表情で

「今明日美殿に何をした?」

とサキに迫るがサキは悪怯れるどころか彼の腕を掴んで

「わたしと文通しましょうよ?」

とすり寄ってくる。

義経は彼女の腕を振り払うとサキに

「貴様のような粗暴な女子は嫌いだ、今後一切近づくでない。」

と言い放つと突き飛ばされて倒れている明日美に近づいて手を差し伸べる。

幸運な事に草や土がクッションになって大して痛くはなかった。

明日美は彼の手を掴む。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがとうよっちゃん。」

しかしサキは懲りることなく今度は一翔と季長に近づいて

「ねえ一翔さん、アタシとラインしない?それに竹崎さんもアタシと文通しましょうよ」

一翔は裕太に似て綺麗な顔をしているし季長だって整った顔立ちでそこら辺に居る少しばかりカッコいい男子じゃ相手にならない程。


しかし、裕太や奈央、里沙からサキの事を聞かされているので彼女と仲良くしようとは思わないし、二人共サキの事は軽蔑しきっていた。

「悪いけど僕は君とは仲良くするつもりなんて無いから。」

一翔はサキを冷たくあしらう、今度は季長にベタベタすり寄っていき

「ねえアタシと文通しましょうよ?」

と猫なで声で縋ってくるがそんなサキに対して季長は拒絶反応を示す。

「誰がお主のような性根の汚れたような女子などと…。」

裕太、一翔、義経、季長に尽く拒絶されたサキはいつしか彼らを憎むようになっていた。


サキ「裕太ってさ〜本当調子に乗っててムカつくよね〜。」

加奈子「分かる〜顔が良いからって調子こいててきしょいよね〜」

正美、美香「マジでそれな!」


サキ「一翔って優等生ぶってそうで気持ち悪いよね〜」

加奈子「分かる〜しかも無表情でイライラするし。」

正美「確かに、勉強出来る自分カッコいいって思ってそう。」

美香「偏差値75以上の高校通ってるからって調子に乗ってるよね〜」


サキ「義経の親父ってさ〜風呂場で殺されたんでしょ?マジでダサくなーい?」

加奈子「マジで?風呂場で殺されたとかマジでウケるんですけどー」

正美「ダサすぎてヤバーい」

美香「ダサすぎて笑っちゃう!」


サキ「季長ってさ〜領地争いで負けて貧乏生活なんだって〜貧乏人の癖に偉そうでムカつくよね〜」

加奈子「分かる〜貧乏人の癖に無理してて痛々しいよね〜」

正美「てかさ〜領地争いで負けるとか雑魚すぎでしょ!!」

美香「何これマジでウケる〜」


サキ「あの4人って顔は良いけど性格マジクソじゃね?」

加奈子「分かる〜俺って良い男だと思ってそうだよね〜。」

正美「しかも何考えてんだか分かんないしさ〜」

美香「分かる〜。」


あの日以来サキとその取り巻き達は4人の聞くだけで腸が煮えくり返るような酷い悪口を飽きることもなく言い続ける。

一回と里沙と奈央で止めようとしたけれど裕太に止められた。

「好きなだけ言わせておけば良いだろ?あんな悪口を言ったら言った分だけアイツらの価値が落ちるから。」

まあ最もだなと明日美は思った、それから彼は

「まああいつらに価値なんて元から無いのに等しいけどな。」

と付け加える。


裕太達の悪口だけでは足りなくなったサキ達は美晴ちゃんの悪口まで好き放題言いまくるようなった。

「美晴ってさーブスの癖によく生きていられるよね〜」

「分かる〜しかもチビだし、可哀相だよね〜」

「しかもぶりっ子で気持ち悪いし。」

「おまけにいちいち空気読めないしあんな奴生きてるだけで公害でしょ。」

悪口をわざと聞こえるように言われ、彼女はピクリと頬を引き釣らせる。

そもそも美晴はブサイクなんかじゃない、それどころかそこら辺の子よりもかわいいと言えるほどの容姿だ。

寧ろサキ、正美、加奈子、美香の方が圧倒的に容姿が劣っている。

遂に見かねた裕太が

「もうやめろよ!!佐竹がお前らに何かしたか?

何もしてねーだろ?お前らって本当性格終わってるよな。」

とサキ達に向かって怒鳴るがサキ達は全く悪びれない。


それからもサキ、正美、美香、加奈子は明日美の、奈央の、里沙の、美晴の、裕太、一翔、義経、季長の悪口を毎日好き勝手言っていた。


だが、周囲のクラスメート達は揃い揃って聞かないふり。

誰一人「やめなよ」と言う人は居なかったのだ。


そしてサキは美香、加奈子、正美に向かって一言。

「美晴も、明日美も里沙も奈央も、裕太も一翔も義経も季長も、アイツらマジでムカつかね?」

そう平然と口にするサキの表情には底知れぬ残忍さが含まれていた。

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