第5話始まったいじめ
彼ら彼女らへの悪口は止む気配は無かった。それどころか日に日に悪化していき悪口の内容も酷くなっていくばかり。
そして次の日の朝、美晴は教室へと向かうなりある異変に気づく。自分の机の上に花が飾られていた…。
犯人はきっとサキ達だろう。
「あれえ?美晴、あんた生きていたの?てっきり死んだかと思って花を飾ってあげたのに、なあんだ生きていたんだ!」
突如サキの忌々しい声が教室に響き渡る。
目の前を見てみるとサキ、正美、加奈子、美香の4人がいた。
「どうせなら死んでくれて良かったのに。」
正美が不気味に笑いながら言う。クラスメート達は見るまいと美晴からわざとらしく目を逸らした。
「て言うか、みんなあんたの事嫌ってるのになんでしぶとく学校に来る訳?」
加奈子が真顔で美晴に酷い事を言う、美晴が言い返せないでいると美香が乱暴に美晴の髪の毛を引っ張ってくる。
「なんか言ったらどうなのよ!」
「痛い、痛いよ、離して美香ちゃん…。」
美晴がそう言うとその言葉に逆上した美香が
「あんたなんかに拒否権なんてものは無いわよ!」
と叫ぶなりわざと机や椅子に身体が打ち付けられるような所で美晴を思い切り突き飛ばした。
小柄な美晴の身体は簡単に倒れ、椅子や机に打ち付けられる。
全身に激痛が走り、思うように動けない。
床に倒れて動けずにいる美晴にサキがズカズカとやって来ると
「お前、ムカつくんだよ!!いっつもいい子ぶりやがって!!」
と叫ぶなり美晴の横腹を思い切り蹴り付ける。
「ううっ…」と言葉にならないうめき声を上げてお腹を抑えて丸くなる美晴。
サキ達は痛みに苦しむ彼女の姿を見て笑っていた。クラスメート達は止めもせずにみんなして見て見ぬふり。
中には苦しむ美晴を見てクスクス笑う者も居るくらいだ。
「なんかもう飽きちゃった。もう行こっ。正美、加奈子、美香。」
飽きたのかサキはそう言って取り巻きの正美、加奈子、美香を連れて教室を後にする。
美晴は痛む身体に鞭打ってなんとか立ち上がるとフラフラとした足取りで保健室へと向かう。
教室を出る時数人の女子が美晴を見つめながら楽しそうに笑っていたのだ。
まるで遊びを楽しむ幼子のように…。
それから程なくして、登校して来た明日美、里沙、奈央が教室の扉を開けて入ってくる。
するといつの間にか戻ってきたらしいサキが他クラスにも聞こえる程の大声で言った。
「あっ、売春女里沙が来たーー!!」
突然の事に里沙はどうして良いのか分からなくなる。
そして里沙の机には…
「帰れ売春女」「死ね」「調子乗んなクソビッチ」など数々の悪口が油性マジックで書かれていた。
「ねぇ、里沙って売春してるらしいよ?」
「あー知ってる。中年のキモイオッサンと仲良く歩いている写真が晒されていたよね。」
と教室の隅から何やら不穏な会話が聞こえてくる。
「俺、アイツのこと美人だなと思っていたけどもう無理だわ。」
「分かる。キモイオッサン相手に援交とかマジでキショすぎ。」
クラスの男子達もみんなして里沙の悪口を言っている。
「ちょっと何出鱈目言ってるのよ!!里沙は道が分からない人に案内してあげただけよ!!」
奈央がサキ達に反論するとサキは奈央の頬を徐に引っ叩いた。
「…ッ!!」
パンっと乾いた音が教室に響き渡る。
「お前、ムカつくんだよ!!偉そうに振る舞いやがって!調子に乗りやがって、サバサバしたアタシカッコいいんですって思い込みやがって!!」
サキの怒号が教室中に木霊する。その迫力に誰もが逆らえない。
「ちょっとなんて事するのよ!」
明日美がサキに歯向かうが、取り巻きの正美が明日美の脛を思い切り蹴りつけた。
「痛っ!」
痛そうに脛を抑える彼女を見てはサキ達は面白そうに笑っていたのだ。
そして一時間目の休み時間。サキ達がとある本を持ってまたみんなに誰かの悪評を言いふらして面白がっているらしい。
その手に持っている本といえば「壇ノ浦夜合戦」確かこれは江戸時代に書かれた好色小説で所謂二次創作のはず。
一体サキはどこでその存在を知ったのだろうか?
「マジで信じらんないよね〜。本当最低最悪じゃん。」
「初めはカッコイイなあ〜なんて思っていたけど一瞬で幻滅したわ、最悪死ねばいいのに。」
「確か源義経って明日美と仲良いんだよね?じゃあ明日美も最悪じゃん?」
サキの話を聞いた先程の女子3人グループである奈々、奈津、美絵の口から発せられる言葉はどれも醜いものだった。
間違いないサキ達が後世の創作をあたかも事実であるかのようにみんなに言いふらしたのだろう。
それに噂話が大好きな奈々、奈津、美絵にその話をばら撒いたみたいだ。
奈々達は噂話が大好きなだけあって直ぐにこの話を学年中に拡散させる。
その証拠に彼がみんなから悪く言われるのを聞いてサキ達はハイタッチを交わしている。この様子を見れば犯人はサキ、正美、加奈子、美香であることは火を見るより明らかである。
「裕太の兄である一翔さんって剣道、弓道の大会でズルしまくってるらしいよ。」
「しかも高校は裏口入学らしいね。おまけに学校ではイジメの主犯だって有名らしいよ。」
「マジで見損なったんだけど…。この一翔って奴帰り道事故にでも遭って死んでくれないかな〜。」
「それに山崎君って裏で女子に暴力を振るっているらしいね。」
「あー知ってるー。ネットの掲示板に書かれていたよね。
しかも顔写真付きで晒されていたし。」
「本当最低だよねー。てかこいつも死ねばよくね?」
そしたらさっきまで義経の悪口を言っていた奈々達が今度は一翔と裕太の悪口を言い始めた。
これもきっとサキ達が言いふらしたのだろう。
そもそも一翔は中学時代から優等生って有名だったから裏口入学だなんて絶対に有り得ない。
それに剣道、弓道だって実際に強いからズルという話も全くの嘘っぱち。
それに彼がイジメなんて絶対にする筈がない。
確かに裕太はお世辞にも愛想が良いとは言えないけれど女の子相手は愚か、人に暴力を振るうような子じゃない。
「季長さんってさあ、人を斬り殺したりして遊んでるらしいね。」
「マジで信じらんないよね!本当最低!!コイツも死ねばいいのに。」
「コイツまじ無いわ〜明日美ちゃんの男友達どいつもこいつもクソばっかりじゃん。」
竹崎さんがそんな事する筈が無い…。1日会っただけだけれどそれは絶対に無いと断言出来る…と美晴は思った。
これもきっとサキ、正美、加奈子、美香の仕業だろう。
一翔と義経、季長、裕太の悪評はサキ達の手によって学校中に広められた。
一翔は「学校でイジメの主犯をやっている」や「イジメで人を自殺に追いやった」と言うもの、裕太は「体育館裏に女子を呼び出して殴る蹴るの暴行を加えていた」季長と義経は「農民を斬り殺して遊んでいる」や「庶民から税を絞り取ったりしている、税が少なかったら庶民を酷い拷問にかけている。」などその内容は聞くに耐えられないほどに酷いものばかりであった。
忽ち彼らの評判は地に落ち、クラスメート達は暇さえあれば彼らの悪口を言う始末である。
「マジでさあ、裕太って奴感じ悪くない?
話し掛けても素っ気ないしさあ。」
「あー分かるわ。てかアイツって裏で女子を殴ったりしてるんでしょう?
マジで最悪すぎるでしょ!!!ていうかあんなのと一緒にいる明日美も絶対クソでしょ。」
教室の隅から聞こえてくる数々の醜い言葉の散弾…。
「里沙って売春してるんでしょ?バレても清楚系を必死に装ってるのマジ受けるんですけど〜」
「アイツってそういうの興味ありませんって顔してかなり股が緩いんだね〜。」
教室の隅で数人の女子が裕太と里沙の方を見ながら心無いことを楽しげに言いまくる。
悪口を言われた里沙は気まずそうに俯き、裕太は両手を握り締めてじっと耐えるのみ。
「アイツの兄の一翔っていじめで人を殺したんでしょ?」
「あ〜知ってる。散々人をイジメといてよくのうのうと生きていられるよね。あの人殺しメガネ。」
「あと季長って奴人を斬り殺して遊ぶとかマジ最悪過ぎでしょ。」
「貧乏過ぎて頭に栄養が回らなかったんじゃね?だから善悪の判断もつかないとか?」
「あの義経って奴、小さい頃坊主相手に売春してたらしいよ?」
「何それマジで汚ーい、キモすぎ〜」
クラスメート達はサキ達を止めないどころか楽しそうに彼ら彼女らの悪口を言っていた。
サキ達が言いふらした嘘だとは知りもしないで好き勝手醜い言葉を言いまくっている。
サキ、正美、加奈子、美香はその様子を見ながら嬉しそうにハイタッチを交わしていたのだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます