第3話新しい友達
誰でも知っているような子って誰なんだろう?会うのが楽しみだなあ…。
まあ奈央ちゃんが一翔君も五郎君も九郎君も裕太君の二の舞だからあまり期待はしないでねとは言っていたけれど、それでも楽しみだなあ。
明日美達と会う当日、美晴は楽しみで仕方なく待ち合わせ時間よりも随分早く来てしまった。
「美晴ちゃん、お待たせ〜」
明日美の声が聞こえて目の前を見てみると、明日美とその隣に自分より少し年上の男の子が3人いる。
うち一人はメガネを掛けた優等生っぽい雰囲気を身にまとっている高校生くらいの男の子、残る2人はそれぞれ浅葱色、若草色の直垂を来ている10代後半くらいの男の子だ。
直垂って時代劇でしか見たことないなと思った。
確か今から10年以上も前、何らかの事故で時空が歪んでしまったらしく現代から過去の時代に行き来できるようになってしまったり、過去から現代へ来れたりするようになってしまったのだとか。
美晴だって恐らく過去から現代へ来てしまったのであろう人を何度か見かけたことがある。
だが、それはどれも明治時代〜昭和時代初期くらいの人ばかりで江戸時代以前の人には会った事がない。
目の前にいる直垂姿の2人は恐らく源平時代〜南北朝時代くらいの人だろうと予想。
多分服装からして武家の人だろう。
「紹介するね、このメガネの男の子が裕太の兄の一翔、水色の着物の人が源義経、黄緑の着物の人が竹崎季長。」
明日美が彼らの名前をさらっと口にする。
その名前に思わず飛び上がりそうになった。
確か裕太の兄の一翔は高校1年生の16歳、剣道3段、弓道四段で剣道、弓道共に全国大会は最強クラス、通っている高校は偏差値70オーバーの超進学校。
知らない人は殆どいないくらいの有名人である。
源義経…源平合戦の英雄で戦の天才と有名。
歴史をあまり知らない人でも知っているくらいの超有名人。
明日美曰く彼は今満年齢で18歳だそう。
竹崎季長…元寇の時な活躍した人で歴史の教科書にも載っているので知名度はそこそこ高い。
年齢は義経と同い年だそう。
そんな有名人達と一緒にいても大丈夫なのか?という疑問がふと美晴の頭の中を掠める。
すると気遣ってか明日美が
「美晴ちゃんのことは3人に伝えているからあまり緊張しなくても良いよ。」
と言ってくれる。
美晴は身体の力を抜き、3人と向き合う形になる。
今の今まで彼らの名前の知名度ばかりに気を取られて気がつけなかったけれど、一翔は裕太の兄なだけあってかなりの美形だし、義経は中性的な顔立ちの美男子、季長だって一翔、義経ら程ではないにしろ有名俳優と互角くらいの容姿で美晴には眩しすぎるくらい。
明日美くらいの美少女になると友達まで美形揃いになるのだろうかとこの時美晴は思った。
事実、裕太達だけでなく里沙や奈央もなかなかの美形だ。
「あの始めまして…わたし、美晴って言います。あの…今日一日宜しくお願いします。」
そう言って美晴は勢いよく頭を下げる。
「うん。宜しくね。」
「「ああ。」」
3人が応えたのを合図に美晴はさっと頭を上げる。美晴は肩まで伸びた黒髪を手櫛で整えながら一翔、義経、季長の3人を眺めていた。
(綺麗だな〜。こんな人と一緒に居るだなんて信じられない…。)
本来なら口を聞くのも許されない筈なのにと。
「じゃあ、公園にでも行こっか。」
明日美の提案で彼ら彼女らは公園へと向かう。その時、偶然遊びに来ていたサキ、正美、加奈子、美香が一翔達3人を熱い目で見つめていた。
(なんて綺麗な人なんだろう…。)
その思いは何時しか執着に近いものになっいくという事にサキ達はまだ気付いていなかったのだ。
そして公園について美晴はブランコにそっと腰かける。
すると、意外なことに一翔の方から美晴に話しかけてきた。
「ねぇ、佐竹ちゃんって確か明日美ちゃんと同じクラスだよね?」
突然の事に美晴は戸惑いながらも
「はい、そうです…。」
と答える。
こうやって誰かと話すのはいつぶりだろうか?
現にクラスメート達から無視されて、居ない存在として扱われてきたから何時しか酷く気弱になっていたみたい。
時々明日美、奈央、里沙が声をかけてくれたり、隣の席の裕太が時々物を貸してくれたりするから完全に孤独ではなかった。
もし彼ら彼女らのような人が居なければ、自分は完全に孤独であっただろうと。
「佐竹ちゃんってひょっとして学校が嫌だったりする?」
一翔からの衝撃の一言に美晴は開いた口が塞がらない。
きっと今の顔は酷く間抜けでブサイクな面なのだろうなと。
「正直に話しちゃって良いの…ですか…?」
美晴がおどおどしながら言うと
「良いよ。」
「「構わぬ」」
一翔も義経も季長も言い方こそ素っ気ないものの快く了承してくれる。
「突然サキ、正美、美香、加奈子という人達に無視されたり、暴力を振るわれたりして…それで…誰も助けてくれなくって…。
明日美ちゃん、奈央ちゃん、里沙ちゃん、山崎君以外はみんなわたしの事馬鹿にしてきて…。」
美晴は舌足らずながらもハッキリとした言葉で伝えた、時代が違う義経や季長にも伝わるように。
語れば語るほどあの時の事が鮮明に思い出され、鼻の奥が時々ツンとしてくる。
時々消え入りそうな声になりながらも、なんとか言いきった。
「辛かったね。」
「「辛かったな。」」
まさかの一言に思わず泣きそうになってしまう。自分はお姉ちゃんだから、遥という幼い妹がいるからと誰にも言えずに我慢して来たから。
誰かに相談するにも自分は無視されているから誰にも言えない。
明日美達に相談したかったけれどそのせいで彼女らがいじめられるようになったらどうしようと思ったから。
現に明日美達だって近頃サキ達から好き勝手陰口を叩かれるようになっている。
だから誰にも言えなかった。一人で抱え込んできた。
誰かに相談した所で「いじめられる方だって悪い」「お前が強くなれば良い」と言われるだろうなと思っていたのだから。
彼らの意外な反応に美晴は再び開いた口が塞がらなくなる。
「最悪だな。」
季長が簡潔な感想を述べた。
「このような酷い話があるものだな。」
その口調は最初の頃の素っ気ないものではなく、しっかりした感情が込められている。
(ひょっとして怒っている…?)
「佐竹殿は無実なのであろう?」
義経の問いに美晴は「はい」とだけ答える。
「何故無実の者に対して此処まで酷い事が出来るのか理解に苦しむ。」
理解に苦しむ…最もな感想である。大体の人はそう思うのだろう。いじめっ子以外の人は…。
こうして話しているうちにすっかり時間になってしまったらしい。
お母さんから「5時までには帰ってくるのよ」と言われているからそろそろ帰らなくてはと思い、美晴はブランコからそっと腰を上げる。
「すみません、わたしそろそろ帰らなくてはならないので。」
美晴がそう言うと明日美が
「うん。気を付けて帰ってね〜」
と笑顔で手を振ってきた。みんなに背を向け、帰ろうとすると一翔が
「また何かされたら無理しないでね。僕達で良かったら話だけでも聞くから。」
その顔に笑顔こそ無かったが気にかけられているという事がはっきりと伝わってきて胸の当たりが熱くなる。
「ありがとうございます…。」
美晴は若干照れながらも礼を述べると家路へと就いた。
遊歩道に咲いている桜は散り始めてほんの少し葉が混じっていたがそれがまた美しさをより一層際立てている。
少しばかり葉が混じった桜も綺麗だなと美晴はその時は思っていた。
後であんな惨劇になろうとは一ミリも思っていなかっただろうから。
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