第2話ターゲットその2
それからも美晴に対するいじめは日に日に激化していった。
周囲のクラスメートは相変わらず美晴と口を聞いてくれない。みんなしてサキ様、美香様、加奈子様、正美様の言う通りですって態度を貫いている。
美晴に口を聞いてくれるのは隣のクラスの友達の木平由真という友人のみ。
由真とは小学時代からの友人であり、美晴とは苦楽を共にしてきた仲だ。
自分がいじめられて周囲から無視されようが罵られようが彼女だけは自分と一緒に話してくれた。遊んでくれた。
だから由真の事は美晴としても信頼しているし大好きだ。
そして今日の休み時間のことである。美晴が自分の席で本を読んでいるとサキが
「美晴ってさ〜いい子ぶっててムカつくんだよね〜アタシって如何にもああいう女嫌いなタイプじゃん?
まじで存在自体が煩わしいからさっさと死んでくれないかな?」
と美晴に直接聞こえるように言ってくる。「死ねばいいのに…」その一言がグサリと心を深く刺されるような気がして無性に辛くなる。
それから美香が大声で
「大体さ〜なんでブスの癖に可愛子ぶってんの?マジで勘違いもいいトコでしょ!」
と言ってゲラゲラと笑う。それに釣られてクラスの女子達もクスクスと笑う。
美晴は円な瞳に大粒の涙を溜め、読んでいた文庫本をギュッと握りしめた。
そして加奈子が更に追い打ちを掛けてくる。
「しかもいちいち騒いで喧しいよね〜。マジでアイツの甲高い声聞いていたら耳が腐るんですけどー!
騒ぐしか脳の無いゴミ虫にはゴミを与えるのがお似合いだよね〜」
と言いながら加奈子は徐にゴミ箱を美晴の元まで持ってくると美晴の頭上で思い切りひっくり返した。
ゴミ箱がひっくり返された事で大量のゴミが美晴の身体の至るところに降りかかる。
それを見た正美が意地悪そうな笑みを浮かべると
「辞めなよ〜流石のゴミも美晴と一緒にされたら可哀想じゃん!!」
と言うとそれを聞いたサキが嘲笑いながら
「そうだよ、正美の言う通りだよ!こんな汚物に並ぶ程汚いものなんてないよ!!
ほら美晴、アンタゴミに謝りなよ!」
そう言って美晴の髪の毛を掴み額を机に無理やり押し付ける。
美晴は「うぅ…」とうめき声を漏らすがサキ達はケラケラと声を上げて嘲笑うのみでお構いなし。
美晴は勇気を出してサキ達に言った。
「なんでわたしに酷い事をするの…?わたし、サキちゃん達に何かした…?」
するとサキ達は「はぁ!?」と言うとニヤリと悪魔のような笑みを浮かべて一言。
「「「「それはお前がムカつくからだよ!!」」」」
そう言ってサキ達は美晴の頭を掴む手を強める。
偶然それを見ていた由真がサキ達に向かって
「あんた、なんで美晴にそんな事するのよ!!」
と叫ぶ。するとサキが由真を見るなり馬鹿にしたような笑みを浮かべると
「は?なんでアンタがコイツの事庇うわけ?
ひょっとしてコイツの友達…?」
サキの傲慢な態度に屈せずに由真はハッキリと答えた。
「勿論よ、小学時代からの仲良しだもの。」
由真の発言に突然正美がニキビまみれの顔をクシャクシャにさせて一言。
「友人同士揃いに揃ってゴミ揃いとかマジで受ける〜!!」
正美の一言に美晴と由真は唇を噛んで俯く、そんな二人の様子をサキ達は楽しそうに眺めながら笑っていた。
それから暫くが経過したある日の頃。美晴は相変わらずサキ達にいじめられていた。
悪口を言われる、暴力を振るわれるのは日常茶飯事で誰もがサキ達の言いなりである。
中にはサキ達にいじめられるのが怖いからという理由でいじめにわざわざ加担するクラスメートまでいる始末。
「おい、美晴。お前なんか言えよ!!」
サキの忌々しい声が美晴の鼓膜を揺さぶる。
何も言えずにいる美晴に苛ついたのかサキが
「おい、何か言えって言ってんだろ!!」
と叫び、美晴に掴みかかろうとする。その時だった。
「あんた達、いい加減そういうのやめたら?
見ているだけでムカつくんだけど!?」
先程のやり取りをずっと見ていた明日美がサキ達に一言。
その強気な姿勢にクラスメート達は勿論、美晴の友達も目を大きく見開いて驚いている。
「あんた達って本当懲りないわよね〜人をいじめて何が楽しいのかしら?
本当、逆にどうやったらそこまで性格が悪くなれるのかしら?」
明日美の幼なじみである奈央もサキ達に対してズバリと言い放つ。
続いて同じく明日美の幼なじみである里沙が
「いじめなんてして何が楽しいの?」
とサキ達に言い放つ。
もう嫌だったのだ。美晴がサキ達にいじめられて苦しむ姿も、クラス中から無視されて日々傷ついていく姿を見るのも。
ただサキ達にこう言ったからには自分達も被害に遭うという事は覚悟の上だった。
美晴をいじめという名の地獄から救い出せるのならと。
サキ達四人はポカンと間抜けな表情をしていたが直ぐにいつものいじめっ子らしい表情に戻るなり
「「「「アタシらに逆らいやがってアンタ達ただじゃ置かないから!」」」」
捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。
そして、次の日のこと。
「はーい、今日は席替えをするのでみんなくじを引きに来て下さい。」
担任の先生がせっせと作ってきたくじを教団の上に山積みにする。
そうだった、今日は席替えだったんだと思い出す。
最近は精神的に疲れて身の回りのことも見えなくなっていた。
席替えかぁ…。誰と一緒になるのだろう?と楽しい気持ちと不安な気持ちが混じった複雑な思いでくじを引く。
そしてクジに示された番号の席に座る。
隣の人は誰なんだろう?とふと疑問に思い、隣をちらっと見てみると、座っていたのは…。
「え!?山崎君…?」
美晴は思わず声を漏らす、それもその筈、美晴にはずっと縁がないと思っていたあの裕太だったから。
容姿端麗、頭も良く、剣道は中学2年にして2段、その腕前は全国大会最強クラスと言われる程。
驚く程端正な顔がすぐ隣にある…。
だが、美晴は裕太と喋った事があまり無い。彼自身お世辞にも愛想がいいとは言えないし、常にツンツンしている、おまけに芸能人顔負けの容姿と相まってとてもじゃないけれど近寄り難い存在だ。
クラスの女子はと言えば裕太の隣になった美晴をチラチラ見ては何やらヒソヒソと言っている。
なんであんな奴が山崎君の隣なの?という心無い言葉を口々に言っていた。
そして次の時間の授業のこと、この時間は数学だったので数学の教科書を取り出そうと机の中を見てみると、そこにはボロボロに引き裂かれ墨汁で真っ黒に汚された教科書が乱暴に突っ込まれていた。
犯人はサキ達に違いない。その証拠にサキ、正美、加奈子、美香が困り果てている美晴を見て楽しそうに笑いながらハイタッチを交わす。
(どうしよう…このままじゃ授業受けられないよ…。)
と途方に暮れる美晴の隣から
「使うか?」
とぶっきらぼうな声が聞こえてくる。
隣で裕太が数学の教科書を美晴に渡そうとしていた。
「え?山崎君は良いの?」
美晴がオドオドしながら答えると彼は
「別に無くても分かるから良いんだよ、お前とは違うんだし。」
とぶっきらぼうに答える。勿論その顔に笑みはない、だけれど優しくされたという事実が堪らなく嬉しかった。
そして休み時間
「美晴ちゃん、裕太の隣はどう?」
明日美が話しかけてくる。
「うん、なんてこと無いよ、どうしたの?」
美晴が答えると奈央がやれやれとでも言うように
「山崎君、ぶっきらぼうだから大丈夫かなって。」
「うん、大丈夫だよ。」
笑顔で答える美晴に明日美が何か思いついたような表情を浮かべながら
「今度わたしの親友に美晴ちゃんを紹介しようかな?」
と言う。誰なんだろう?と思っていると里沙が
「名前を聞けば誰だって知っているような子よ。」
誰だって知っているような子かぁ…。それを聞いて美晴は目を輝かせる。
「仲良くなれるかな?」
楽しそうに飛び跳ねる美晴に向かって奈央が一言。
「あまり期待しないでね、一翔君も九郎君も五郎君も山崎君の二の舞みたいな感じだから。」
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