永久欠番

迷い猫

失われたエース

 高校野球においてエースの存在は大きい。面白いもので背番号1に投手はとてつもなく拘るのだ。


 群馬県の名門野球部だからこそ投手の層は厚かった。俺は外野手だったのでエース争いには無関係だったが緊張感は伝わってきた。


 声を出しタイヤを引いて走る投手組を俺はノックの時によく眺めていた。


「今年の夏は和也で決まりらしいぜ」


 ファーストの広瀬が俺に言ってきた。和也はストレート140キロ、キレの良いカーブとベース付近でいきなり曲がるカットボールを操るピッチャーだった。


 和也ならエースを任されてもメンタル的にも実力的にも不安はなかった。


 地区大会は流れるように進んでいき、俺たちも順調に勝ち上がった。和也は決勝戦までを自責点0という完璧な内容で投げていた。


 甲子園は確実。誰もがそう思っていただろう。勿論、外野で暇そうにしていた俺も同じ気持ちだった。


 和也は交通事故に遭って死んだ。試合後にそれを聞いた。


 決勝戦は二番手ピッチャー、左の広田が先発を任された。彼のストレートは140キロ、変化球は落ち始めの早いフォークボールと曲がりの小さいスライダーだった。


 広田でも充分勝てる相手だったと思う。しかし、エースナンバー不在は精神的に俺たちを追い詰めた。相手チームは同点なのに勝っているような雰囲気を醸し出していた。


 結局、俺たちは決勝戦敗退。そして、和也の死を知った。



 監督が俺らを集めて、和也が背負った背番号1を永久欠番にすると言った。賛成と反対、両方いた。ちなみに俺は反対派だった。後輩たちに背番号1を与えられないことを阻止したかったからだ。


 結論から言うと、和也の背番号1は永久欠番になった。それから月日は流れ、俺たちの青春だった野球部は廃部になった。理由は背番号1をつけられないからのようだ。


 ピッチャーだったら目指すべきものが俺のいた野球部にはなくなってしまった。そこまでエースナンバーが大事なのかと背番号7の俺は思った。

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永久欠番 迷い猫 @straycat_7

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