第33話 商人の街づくり2

「監督さん。もう少しならすんだよな?」


「あぁ。海側、岩山側共にもう少し頼む」


「あいあいさ~」


筋肉隆々の土工どこう達が、鼻歌混じりに重そうなスコップを再び地面に差し込んだ。


結局、俺達じゃこの広大な土地を整地するのは不可能と学んだ。何事も適材適所って言うだろ? で、近くの街で土方を6人雇い、3日目の陽が沈もうとする頃、早くも整地が完成に至った。


街の土台になる広大な更地を、夕日が優しく染め上げる。街づくりの第一歩を祝福してくれているかの様に、心地よい潮風が頬を掠めた。


「急な依頼だったのに助かったよ、無理言ってすまなかったな」


土工達はスコップについた泥を払いながら、


「いやいや、礼を言うのはこっちだよ。繁忙期を過ぎちまって、何日も仕事が無かったんだよ」


「まったくだぜ。その上、うちの斡旋所ってちょっと偏った考えがあってさ。ゴロツキの様な見た目の俺たちよりも、小綺麗な優男にばっかり優先して仕事を割り振りしてやがるんだ。仕事はとろくて下手くそなのによ」 


「そうなのか、ふざけた話だな。…あのさ、知っての通り、俺たちはここに大きな街を作ろうとしてるんだ。やっと整地を終えてもらったんだが、これから住宅や井戸や港なんかも整備していかなけりゃならない。まだまだ課題は山積みだ」


俺は土工達の顔色を窺い、切り出した。


「もし…あんた達の様なプロフェッショナルに、街の整備を一任させてもらえると助かるんだが…」


「プ…プロフェッショナル!?」


「お、お、俺たちの事か?」


「あぁそうさ。ここ数日、仕事ぶりを間近で見させてもらったが、間違いなくあんた達はプロフェッショナル」


「ふぅむ! プロフェッショナルか! いい響きだ!」


「な、なぁボス… この監督さんと一緒にやっていかねぇか?」


その土工は、一番若い土工を指さして、


「コイツなんざ、ガキが生まれて間もないし、どうにもこうにもGが必要なんだよ。でもよ、あの斡旋所じゃ、回されてくる仕事なんざ碌なもんがない。そもそも仕事量そのものが目減りしてる一方だ!」


ボスは腕を組み、口を真一文字に閉め、決意したかの様に口を開いた。


「兄さん… いや戦士さん。俺達、見た目はこんなんだが、与えられた仕事は正確で速やかにこなす自信と技量がある! なんなら、別の仕事で俺たちの仕事ぶりを試してくれてもいい。どうか…この地で俺たちを雇ってもらえないだろうか?」


そういって深々と頭を下げてきた。周りの土工たちも同様に次々と懇願してきた。


「やめてくれよ」


「…だよな。俺たちみたいな風貌じゃ、新しい街の顔に馴染まねぇだろうし。すまねぇ、今言ったことは忘れてくれ」


ボスは薄くなった頭を掻きながら、無理に取り繕った愛想笑いが痛々しかった。


「違う違う、何言ってんだ。頭を下げて頼のはこっち方だって言いたいんだよ」


「ん? そりゃ、一体どういう…」


「こっちからお願いしたいって話だよ。そもそもあんたが言ってた見た目がいい優男…だっけか? そいつらの遅くて不確実な仕事と、それとアンタ達の様な、スピードがあって、正確無比な仕事のどっちかを選ぶなんか、この土地でなら、火を見るよりも明らかだよ」


「そ、それじゃ…?」


「ああ、よろしく頼む! 勿論、仕事は絶えず用意するからさ。ただ、仕事が多すぎるなんて泣き声言わないでくれよ?」


「おっとっと、舐めないでくれ。俺もそうだが、コイツら3日くらいなら余裕で働き続けるぞ」


「にひひー」


土工達は自慢の身体でそれぞれマッスルポーズをとった。頼もしい事この上ないな。俺は全員と握手を交わしていった。


「もう日暮れも近いが、給金を渡して街へと送るからさ、移住の準備を整えておいてくれないか。それと、家族もそうだが、友人や知人、親戚とか居るのなら、移住の打診をかけてくれると有難い」


「あぁ、分かった! いつぐらいに戻ればいいんだ?」


「そうだな、移住届の審査に1週間程要すから、10日後ぐらいかな」


「もっと早くてもいいんだがな。まったく、役所の仕事って遅くてならねぇな!」


「ははっ、まぁ、あんた達の住まいも用意しないとならないし、こっちもこっちで何かと準備期間が必要なんだよ」


「そうか! 手が必要なら言ってくれ。俺たちも手伝うからよ。なんせ俺たちの街になるんだ、無償で協力させてくれ」


「助かるよ」


早くも住人が決まった事が嬉しい。ボスに早く伝えてやりてぇ。


「すごーい! 見違えた! こんな短期間で整地って出来るものなんだ」


「お? 帰ってきたな」


「兄さん、あの女は?」


「おいおい、俺のボスに向かって、女なんて言い方すると怒られるぞ?」


「えっ! 兄さんがボスじゃなかったんですか? こりゃ失礼しやした」


「あぁ、ボスの行動力や肝の座り方は、俺なんかじゃ足元にも及びやしねぇんだ」


「へぇ! 純朴そうな顔つきですがねぇ。人は見かけによらないもんだ」


笑顔で駆け寄ってくる商人を直視して、


「ん? どうかしたの?」


勇者の勧誘を願って、毎日斡旋所に足を運んでいた頃は、まさかこんな僻地で街づくりに挑むなんて夢にも思わなかった。


勇者の顔にパンチするという、前代未聞の無礼過ぎる行いに、アカデミーでは除名の話も上がってたと言うが、本人は知らん顔で、来る日も来る日も斡旋所でチームの勧誘を続けていた。そんな商人を周りは冷やかし、嘲笑い、いつ根を上げるか賭けを行うヤツたちも居た。くだらねぇ、この状況で斡旋所に来れる信念がお前らにはあるのか?


ね、ねぇ、アタシ達と一緒に冒険に出ない?


俺は既に2回、その誘いを断っていたが、もし次に声を掛けてきたら、こう言って誘いを受けようと思っていた。


誰かがジョーカーを引くまでトランプは終わらない。


商人のお陰で、俺の世界観は一変する事になった。旅を共にして、様々な国や町を訪れ、数々の出会いがあり、悔しい思いも沢山した。でもパーティを組んだ事を後悔した日は一度たりともない。


引き当てたのはジョーカーでなくクイーンだったな。いや…案外キングだったのかも? 


まぁどっちでもいいか。これからもよろしく頼む。


「あぁ、なにも問題ない」

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