第32話 商人の街づくり1

海上で昼夜過ごす中、コンドル系の魔物が不意を突いて攻撃してくるのがすごい厄介だ。


慣れない船上での戦闘は、足元がまだまだおぼつかないし、こっちの攻撃を嘲笑うかのようにかわすのが腹立たしい。


そうなると遊者の攻撃呪文がホント頼みの綱。ホント転職するまで呪文無しでよくやってこれたなと今更ながら感心しちゃう。


ガルーダとの一戦を交えたあと、甲板の隅に落ちたGを拾い上げご満悦のアタシ。戦闘の苦労も痛みも報われるってもんだ。


船首近くの甲板はお気に入りの場所。手すりに背中を預け、潮風でなびく前髪を手で軽くといた。戦闘でのマイナス面を差し引いても船旅って心地良いなぁ、なんて事を思いながら大陸沿いに目を落とした。


「船長さん、そのまま陸沿いに停めれますか?」


たまたま目先にいた船長さんに声を掛けた。


「可能です。しかし、ここら一帯は何も無かったと記憶しておりますが…」


「さっき、少し先の人影が見えたんです」


「承知しました。急停止する! 錨を下げよ!」


急停止にも関わらず、それほど船は揺れる事なく停船した。優秀な船長さんの下には、きっと優秀な船員さん達が揃うんだろうね。見習いたいもんだ。


「道中、お気を付けて」


「この大陸も初めてなのか? 船で移動してるせいか、どうにも土地勘が悪くなるな」


戦士の問いかけに耳を傾ける事無く、私は周囲を見渡した。茂みの奥へ進んで行ったのかな? 人一人が通れる小道を見つけ、木々の枝を掻い潜り奥へ進むと、眩しい程の大草原に繋がり、その中央辺りにやっぱり居た。


「おじいさん、ここで何してるの?」


「おお、聞いとくれ旅人。ワシ、ここに街を造ろうと思う。街、出来ればきっと皆の役に立つ! …しかし、街には商人は欠かせない」


訛りが強いね。一人で来てるくらいだし、近くに村でもあるのかな? 


おじいちゃんは両手を合わせ、懇願してきた。


「力を貸してほしい」


「う~ん、って言われても… アタシ達はまだまだ旅の途中だから…ね?」


「拙者は構わぬよ。邁進に邁進を塗り重ねてきたゆえ、ここらで、しばしの休息も必要ではござらんか? また、ご老人の願いを無碍にするも気の毒でござる」


「私もそう思う。酒屋ってなんで流行るか分かる? みんな息抜きを求めにきてるんだよ」


「それに商人、街づくりなんて経験そうそう出来る事じゃないぜ? 当然俺たちも協力するし、前向きに考えてみろよ。…いや、本当はもう答えが出てるんだろ?」


皆の心配りと後押しに心がざわつく、やっぱりアタシの本性は隠せないや。


戦士に促されて、アタシは広大な草原をじっくり見つめ、そのまま目を閉じた。


途端に広がる賑やかな街並み。


公園を駆ける小さな子供に、買い物に興じる旅行客。飯屋で常連客が乾杯の音頭を取り、漁場ではおじいちゃんが大漁を喜んでる。


畑から戻った泥だらけ農夫が息子の出迎えにくしゃっと破顔し、今日と言う日の締め括りに、街中に教会の鐘が響き渡る。


「ア、アタシ… アタシやってみたい! この地に大きな街を作ってみたい!」


「まことか!? しかし商人は旅を諦め、この地に骨を埋める。良いか?」


「それは困る!」


「なんとな!?」


「断言するよ、おじいちゃん。アタシが旅を諦めるって事は絶対ない」


おじいちゃんを真っ直ぐに見据えて続けた。


「ねぇおじいちゃん。アタシ、上手く出来るか分からないけど、全力で街づくりに協力する。で、ある程度発展したら、そこで誰かに町長やってもらって、街の発展を見続けてもらうってのはどうかな?」


「ふむ。異論ない」


「じゃ、アタシに任せてよっ! きっと立派な街を作ってみせる。皆ごめん! アタシやってみたい! 協力してくれるかな?」


「リーダー水臭いって、遠慮することないよ。何から始めたらいい?」


「そうだね、まずはこのでこぼこした土地をならすとこから始めようか」


ゼロからのスタートになるけど、とにかくアタシの街づくりはこれから始まるんだ!

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