第31話 女僧侶はやり手、戦士はゴロツキ

航路は順調そのもの。


時折、半魚人やクラゲの魔物も出たらしいけど、船と正面から衝突して跳ね飛ばされたんだって。なんで船の進行方向に出ちゃうの?


檣楼員しょうろういんって言う見張り役が目的の大陸を捉えると、徐々に速度を落とし、浅瀬に注意を払いながら、ゆっくりと船が停まった。


「私たちはここで待機しておきます、旅の安全を祈っております」


船長さんが優しく手を振って見送ってくれた。


「行ってきまーす!」


入江から程なくして、町の入口まで到着した。


新しい町へと足を踏み入れる瞬間は好き。いつもどんな発見があるかワクワクする。


何かを隠すように険しい岩山で囲われたせいか、どこか閉鎖感があるね。町へ入ると、


「ようこそ旅のお方、私は道具屋の娘。どうぞ消え去り草を買って行ってくださいな」


綺麗な子。アタシと同じくらいの年かな? 看板娘なんだろうね。もし冒険に出られなかったとしたら、アタシもそうなってたのかも… うーん、想像できないや。


「消え去り草は1つ300Gだよ、いくつお求めかな」


「なかなか高いんだね、でもこれの為に、ここへ来たようなもんだし、10個買おう」


代金を支払い道具袋に詰め込んでると、聞き覚えのある聞きたくもない声が飛んできた。


「だから…何度同じこと言わすんだ!」


「この声って!」


アタシ達は、早速消え去り草を使う事になった。


「おお? 本当姿が消えてきたぞ」


戦士が自分の手が薄れていくのを見ながら言った。


「身に付けてるものまで消えるんだ、ま、原理は聞いちゃダメだよね。なんせ、いちいち服を脱ぐのは面倒だし助かるよ」


アタシ達は散り散りならない様、後ろから肩を持って歩きだした。木々の間をすり抜けて、不快な声の発生源まで歩み寄った。やがて小さな神殿が現れ、見慣れた男が今にも神父さんに掴み掛かろうとしていた。


「だから、なんで一人でしか入れねぇんだよ!」


「勇者よ… 幾度言えば理解するのか。この先は一人にして困難を乗り切れるか否か、勇気を試す場所であり、歴代の勇者も一人で挑んでおるのだ」


「神官ごときが偉そうに言うな! 俺が勇者なのは分かってるんだろ? 勇気が無いわけないだろうが! なら一人で挑む必要など無いって言うのが、何故分からないんだ!」


いやー、なにも変わってないな。この人の話を聞かないクズっぷり、いっそ清々しいわ。アタシはニヤニヤしながらこのやり取りを眺めた。


神官は表情一つ変えずに、


「勇者よ、何を言おうが私の答えは変わらぬ。挑まぬのなら去れ」


「貴様ぁ…」


「ゆっ、勇者様! 差し出がましい様ですが、私めがその困難に臨みたく存じます。私など勇者様の欠片ほどの力しか持ち合わせておりませんが、回復呪文と併用すれば、踏破できるやもしれません」


「いやだめだ… 僧侶一人で行くのは危険過ぎる。くそ、俺たちの持ち味はチームワークだ。なぜそれが理解できない」


「私もそう思います。チームワークなら、どの勇者様一行より秀でているに相違ございません」


「そうだろ? はぁ… いちいち神官なんかに取り合うのもバカらしい」


あの僧侶、上手にバカ(勇者)を扱ってるね。進んでバカの身代わりにもなるって言うし、バカを持ち上げる事も怠らない。


どこかでバカが自滅してくれないかなって願っているんだけど、あの策士がいるんなら難しいね。


ため息ついてると、後ろの遊者から肩をグイっと引っ張られる。


「ねぇ、戦士がそろそろ消え去り草の効果が切れるんじゃないかって」


そうだった。こんな茶番劇を見てる場合じゃない。アタシ達は急ぎ木々の裏手に回り込んだ。同時に消え去り草の効果が切れた。


「大体5分程だね、気を付けよう」


勇気を試す場所か。まぁ興味はあるけど、最近似た様な試練を突破したばかりだし、神殿の入口前の扉は、確か魔法のカギでは開かないはず。


今は挑むタイミングじゃない。


町を出る前に武器屋兼防具屋へ寄った。さすがは新大陸、初見の武具が棚に並んでいる。大きな出費になるだろうけど、この際一新しよう!


戦士は鉄仮面と大金槌を買った。嬉々としてそれらを身に付けた戦士だったが、姿見の前で固まった。


「…なんだ…? なんか…剣士って言うよりゴロツキに見えないか?」


「そ…、そんな事ないよ! どっ、どこから見たって敏腕の戦士?…にしか見えないよ」


「そっ、そうで…ござる…よ? 戦士殿自信を持つでござる」


「………」


あと、武道家の道着の痛みが激しかったので、代わりに身かわしの服を買う事にした。


「ふぅむ! 道着は帯を締めるたび気持ちもが引き締まるゆえ、愛用していたでござるが、この身かわしの服はなんとも軽やかに身体が動くでござるな!」


「でしょ? 見た目とか固定観念とか二の次なんだよ。アタシだって守備力高いから身かわしの服の着てるけど、別に以前身に付けてた鉄のまえかけでも気にしないよ」


「見た目が二の次って、俺の事言ってないか?」


「戦士! リーダーだってあの鉄板みたいなの身に付けて頑張ってたんだよ! 文句言わないの!」


濃い群青色でしつらえた魔法の鎧を身につけた遊者が、両手を腰に当てながら言った。胸には紋章みたいな物まで彫り込まれている。…カッコイイねぇ、今のアンタが言うのはやめた方がいい。


「ま、まぁ戦士殿。忘れておらぬであろう? ひのきの棒から始まったでござる」


「あぁ… …そうだった。そうだったな。何をまとおうが俺が戦士である事には変わりないんだ。ここで卑下してたら、丹精込めて作ってくれた鍛冶屋に失礼ってもんだ」


「さすが戦士。その切り替えの早さは私も見習わなくちゃ」


「リーダーはGの事になると、執着がひどいからなぁ…」


「確かに… ピラミッドでわらいぶくろが出てきた時、なかなか次のフロアに行けなかった記憶もまだ新しいしな」


「い、いや、だってさ。そこは商人なんだし、目の前にGがあれば、執着して当たり前と言うか… もう! 行くよ!」


思わぬ指摘を受け、答えに詰まった。でもそんな軽口を叩けるのもウチのパーティーの良さでもあるんだ。バカが持ち味はチームワークとか言ってたけど、ウチに敵うものか!

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