第28話 試練の洞窟1
「船が欲しいとな? ふーむ… しかし、旅船は代々勇者一行に授けるものとあるのだ。すまぬが…」
「王様! 私達には勇者は居ませんが、この世の平和を願う気持ちは勇者にも決して引けを取りません! どうかこの想いだけでも聞いてくださいませんか!」
「ふむ…」
「そもそも私が商人として生きるのを誓ったのは、両親や祖父母が商人だったせいもありますが、幼い頃に擦り切れるほど読み返した冒険譚で世界を旅するという…」
アタシは勢いそのままの熱弁は30分程続き、とうとう根負けした王が、
「あ…あい分かった! た、確かにここ数年、そなたほど情熱を持ち合わせた者は居なかった」
「王様! と、言う事は…」
「ならばこそ証明してもらおう、そなた達の覚悟が本物か虚仮か? ワシに信念を見せてみよ!」
「え、えーっと?…」
「文字通りそなたらを試させてもらいたい。この城より北の方角に、強さだけでは決して踏破できない試練の洞窟がある。そこで王家の金貨を持ってまいれ、その時こそ船を授けよう! …ただし、命がけとなるゆえ、生半可な心構えならば勧めはせん」
短い時間ながらもアタシ達が王様との謁見が許されたのは、勿論賢者が居たから。ホント肩書きの物を言う世の中だね。
「ふ~、あの商人の熱意なら、そのまま船を譲ってくれると思ったんだがな」
「機会をもらえるだけでも十分だよ、いつかの塔のおじいちゃんよりよっぽどマシだよ」
「そうでござるな。この機会をふいにせぬ様、命がけで乗り越えるでござるっ!」
試練の洞窟。
入口の大部分がツタで覆われて、あちこち朽ちてはいたけど、扉に施された装飾は何やら伝統的な模様だった。相当歴史のある洞窟なんだと思う。
命がけと言う王様の言葉に恐れはあったけど、船と言うニンジンがぶら下がってるんだ。アタシ達は馬にでも一角ウサギにでもなってやる!
階段を降りきると、ただの一本道がずっと続いていた。静かすぎて感覚が冴え冴えする。
「ここは…魔物どもの気配を感じぬでござるな」
「アタシ、強い魔力を感じたよ」
「遊者どういう事? 魔物が居るの?」
「悪い魔力じゃなくて、清らかな魔力と言うのかな? それがこの洞窟全体から感じるの。それが魔物を追い払ってるんだろね」
「へぇ、分かるんだ」
「感覚だけどね」
「頼もしいね。遊者以外魔力ないから有難いよ」
暗い一本道を奥へ奥へと歩みを進めた。一つ角を曲がると、黒い装束に身を包んだ老人が待ちわびたと言わんばかりに声を掛けてきた。
「ほっほっほ、試練の洞窟に挑む者は久しいのぅ。王より話を聞いた時は胸が躍ったぞい。さぁ準備はすでに整っておる。試練は全部で7つじゃ。心してかかるがよい」
「7つでござるか…。試練のさなか引き返すのは可能にござるか?」
「構わぬよ。しかし、一度きりの真剣勝負ゆえに、引き返した場合はそこで試練は終いじゃ。無論この試練に再びなどない」
「そうか、チャンスは一度きりなんだな」
「試験を受けるも、ここで
「もちろん受けるよ! よろしくお願いします!」
「ほぅ…なんとも勇ましい女商人じゃ。良かろう、さあ行くがよい! 見事試練に打ち勝ってみせよ!」
おじいちゃんがアタシ達に檄を飛ばすと、奥の扉が大きな音をたて開いた。
中には青年が1人居て、無愛想に声を掛けてきた。
「第1の試練だ。この先には踊り子、商人、占い師、鍛冶屋がいるが、正しい事を言っているのは一人だけだ。正しい道を選べ。選択を間違った時点で試練は終了だ。よく考えな」
一番右の入口に居た鍛冶屋は、
「商人は嘘つきだ。信用しない方がいい。この奥が正解だ」
「えっ!?」
その隣の入口に居た踊り子、
「商人は嘘をついてるよ、信じちゃダメ。この奥が正解よ」
「えっ!? また?」
更に、その隣に居た占い師、
「商人は嘘つき。この奥が正解」
「ちょっ…!? なんなのさっきから…」
そして一番左に居た商人、
「皆嘘を付いてるんだ。この奥が正解だ」
「やっぱりよね、ありがとう!」
「って、おいっ! 商人だからって簡単に信じすぎじゃないか? よく考えるとこだろうよ?」
「ううん、ここが正解。本当の事言ってるのは1人だけだから、もし商人が嘘つきの場合、3人が正しい事を言ってる事になっちゃうからね」
「な…なるほどでござる。見事な閃きでござるな」
「商人すっごいね、アタシちんぷんかんぷんだったよ」
「遊者、最初の鍛冶屋の事信じてたろ」
「うん。ちょっと好みの渋い顔してたからね」
「やれやれ…」
「第2の試練、ここにある9枚の金貨の内、他のものと比べ、重さがほんの少し軽い金貨が1枚だけある。この天秤を使ってその金貨を当てよ。ただし、天秤を使用できるのは2回までとする…」
「2回? そりゃ無理だろう。どうしたって3回か4回はかかると思うがな」
「…………」
「ん? 何か言ったか商人」
「………金貨」
「えっ?」
「金貨っ! 金貨っ! 金貨っ!」
「うおおっ、ちょっと落ち着け商人!」
「はっ いけない… つい我を失っなっゃった。あ、答え分かったよ?」
「本当でござるか? なんとも冴えわたっているでござるな」
「まずは、9枚の金貨の内、適当に6枚選んで、それを3枚づつ天秤に乗せてっと」
「ふむ… 3枚づつでござるか、拙者は4枚づつだと思ったでござる」
「俺もだ」
「えへへ~ アタシ1枚づつと思ってた」
「遊者… それはねぇよ… おかしいぞ、賢者になったハズなんだが…」
3枚ずつ秤に乗せた天秤は、わずかに右側が上がった。
「て事は、この3枚の中に軽い金貨があるって事ね」
「なるほどな、あとはその内2枚を天秤にかけて上がった方が軽い金貨で、つりあえ
ば、秤にかけなかった金貨が軽い金貨になるって事か」
「その通り! 最初に3枚ずつ秤に乗せた時も吊りあえば、残りの3枚の内どれかって事だよ」
「ふーむ… 遊者殿分かるでござるか?」
「さっぱりでござる~」
「いいのよ、人ってそれぞれ向き不向きってのがあるからね。できない分は誰かが補えばいい。それがパーティってものでしょ? だって思い出してみて、アタシ達、鍵が無い事だって克服してきたのよ?」
「まったく… なんて言うか… うちのボスはやる気を引き出すのが上手いな」
「今となっては、この場に拙者が居る事が、誇りにすら思うでござる」
「私このパーティ大好きだよ」
「うん! ありがとう!」
開いた扉から、更に奥へと歩みを進めると、階段を降り広間へと踊り出た。そこには戦士が椅子に座っていた。
「第3の試練、我を倒してみせよ」
禍々しい鎧を纏った戦士が、鞘から大剣を抜き構えた。見るからに厳しい戦いになると予想できたけど、
「今までの試練はややこしくて、ボス一人に任せてきたからな。ここにきてやっと本領発揮だ」
「そうでござるな、己の拳で試練を突破するでござる」
戦士と武道家がお互いの拳を軽く付き合わせて身構える!
「いくぞっ!」
「おうっ!」
「フォローは任せてねっ!」
鎧の戦士には攻撃呪文がまったく効かず、遊者はひたすら回復・補助系の呪文でアシストに徹し、私は道具による補佐、隙を伺いながら攻撃を繰り返した。壮絶な戦いの果てに、辛うじて鎧の戦士を倒す事ができた。
「ふ~… 手強かったな」
「苦戦したでござるな」
「見事だ。奥へと進むがよい…」
「こんな試練があと4つか… タフな試練になりそうね」
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