第25話 職業選択の自由

アタシ達は当面の間、この町を拠点に新大陸攻略を開始する事にした。


そう言っても、早朝、道具屋で薬草50個、毒消し草30個、まんげつ草10個をそれぞれ大量購入し、町が見えるくらいの位置で、ひたすら戦い中に身を投じ、日没間近町へと戻ると言う、前回と同様に代り映えのない作戦だった。


でもそのお陰でレベルも上がり、1週間経つ頃にはこの辺の魔物の習性や癖なんかも見抜けるようになった。


「それと、まんげつ草を10個ね。おじさん、こんだけ沢山買うんだから、当然値引してくれるよね?」


「参ったねぇ… 元々が利益出ない商品なのに」


「アタシ達が魔王を倒すからさ、他の商売を始めてそっちでお金儲けしてね」


「そうだね。何がいいのか考えてみるよ。しかし、あんたらもよく頑張るね。実際初めて会ったときは、勇者様も居なくてどこか頼りなく見えたが、今じゃ堂々としたもんだ。…うん。きっとあんた達なら、北にある神殿で職を変える事ができるよ」


「ホント?」


アタシは薬草を道具袋に収めながら、興奮気味に口火を切った。


「ねねね、みんな聞いたよね。神殿に向かわない?」


「神殿に行ってどうするの?」


「遊び人知らない? 道具屋のおじさんが言ってたように、転職ができるんだよ?」


「ふーん、そうなんだね。てんしょくかぁ、そうかー、なるほどね」


「絶対分かってないね」


「よし、じゃ神殿目指してひと踏ん張りだな!」


町を出て、その川沿いに上流へと歩みを進める。緩やかな登り坂だったが、こうも足元が悪いとなかなか前に進まない。


小高い丘の頂上付近に、その神殿が鎮座しているのは遠目に確認できたものの、行く手を遮る魔物や険しい山道に悪戦苦闘を強いられた。


戦士、武道家の踏ん張りと、遊び人の運を頼りに、アタシ達はどうにか神殿にたどり着く事ができた。


ホント、何とかたどり着いたけど、呪文が使えないってハンデはそろそろ致命傷なのかな。薬草だけじゃ追いつかない事は薄々気づいていた。


神殿を目の前にして気づいたんだけど、今まで見た城と異なり、こじんまりとしてたんだね。丘を抜けた深い木々の隙間にあるせいか、城が持つ華やかさの印象はなく、ただ、ひっそりと静かに佇むような感じがした。


アタシ達は神殿の前に腰を下ろし、互いを労い語った。


「皆、おつかれさまでしたぁ! いやー… 道のりも魔物も険しい旅だったね。もっと余裕持っていけると思ったけど」


「だな。麓から神殿が見えた時は、あと少しって思ったんだが、山道侮ってたわ」


「魔物どもも、町近くに居たのものとは全く異なったでござるしな」

 

「だよね? ちなみにマッドオックスって牛だと思うんだけど、あんなに素早い牛っている?」


「あの紫サルより、せかせか動いてたよ」


「マッドオックスの突進をかわそうと、遊び人殿の足がもつれて転んで…」


「それが会心の一撃ってなんだかなぁ」


「えへへ、照れるよぅ」


「遊び人… でも、それで危機を回避できたんだしさ。結果オーライだね」


アタシ達は腰を上げ、念入りに埃を払った。なんだかさっきから緊張が止まらない。

戦士が兜を脱ぎ、髪型を整え始めたのには、思わず吹き出しそうになった。


でも何度試しても、お城に入るってのは慣れそうにないや。


神殿の入口には、左右に白いローブに包まれた人達がいたけど、顔の大半をフードで覆っている為、口元しか表情を伺えなかった。


うつむき加減で、女性か男性かすら分からなかったが、開口一番、


「よくぞ神殿に参られました。ここでは己の職を見つめ直す事ができます」


「あのー… アタ… いえ、私達勇者が居ないんですが… 神殿に入ってもいいでしょうか?」


「…ここまでたどり着かれたのですから、あなた方は自らの職の長所を最大限に活かしてきたのでしょう。さぞ苦労された事だと思います」


「…そして、我々は職を司る事を生業としております。その我々が職業を差別する様では本末転倒でしょう。物怖じせず、堂々と振舞えばよいのです」


そうだ。アタシ達は出来る事の全てを出し切ったからこそ、ここに居るんだ。バカ勇者に屈せず、言いたいことも言ってやった! …町からは追い出されたけどね。


うん、堂々としよう。


「あ、ありがとうございます。では、遠慮なく入らせてもらいます」


内部は白を基調とした簡素な造りとなっていたが、天井は抜ける様に高く、神秘めいたものを感じて、有難い気持ちになる。


中に入ると、気さくなおじいちゃんが神殿の事を色々教えてくれた。2階には宿もあるらしく、格安で泊まれるとの事。ありがたいね。


「おじいちゃんはここに住んでるの?」


「ワシはぴちぴちギャルになりたいんじゃ」


「!?」


衝撃の告白だったが、おじいちゃんの目は真剣そのものだった。茶化しちゃダメだ。


「転職を希望されているのですね? では、そちらのカウンターで職業を選択してください。職業ごとに綴られていますのでご注意ください。お決まりになられましたら、もう一度お声をおかけください」


職業欄には、定番の戦士、武道家、僧侶、魔法使いなど。さらにアカデミーではなかったバトルマスター、魔物使い、踊り子、ハンター、忍者などもあった。


「基本職以外なら、私は踊り子になれるのね」


「拙者はハンターに転職できるとあるでござる」


「俺は定番職だけだった。バトルマスターってのに憧れるが、どうやら武道家としても経験が必要らしい」


「じゃ、ここで回復呪文か攻撃呪文を使える様、転職しようか?」


「転職するレベルには、皆達している様だな」


「ただ、一気にレベルが下がっちゃうし、二人が転職するのは得策じゃないね」


「あの・・・」


「だな、だったら俺か武道家の二人のどっちかが、僧侶か魔法使いになればいいか?」


「拙者なら構わんでござる。最終的に武道家に戻れればよいでござるよ」


「あのぉ~?」


「いやいやアタシが転職すべきだよ! 二人の攻撃役が居るからここまでやってこれたんだし、それが半減するのは避けないと! アタシも最後に商人に戻れたらそれでいいし」


「それで、僧侶と魔法使いのどっちがいいかなぁ… やっぱり回復呪文ができる僧侶がいいかな? 魔法使いより体力あるし、うろ覚えだけど、確か攻撃呪文もあったとはず」


「拙者も僧侶を推すでござる、薬草ではこの先を乗り切れるとは到底思えんでござる」


「決まりだな、じゃ今回は商人だけが僧侶に転職するって事で…」


「あのっ!」


「うわっ、どうしたの遊び人?」


「わ、私… やっとみんなの役に立てるかも?」


「なーに? 改まっちゃって? 今までも皆を鼓舞してくれたし、決して役に立ってないんて思ってないよ」


「そうだな、最初はどうなるかと思ってたけど、持ち前の運のよさで、あばれ猿から何度も逃げ切ったもんな。無理して転職させる気なんてないぞ」


「違うの。私の転職リストの中に・・・ 賢者ってあるの」


「は?」


「え?」


「なんとっ?」

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